春秋家では、定期的に家族全員で会議を行っている。
 その多くは相談事だけど、偶にそういった重めの内容じゃなく、レクリエーション的な会議を行う事もある。
 一家団欒って奴だ。

「今日の夜はドラクエ呪文ドラフト会議を行う」

 そしてその大半は、アラフォー世代の親父――――春秋豪雷が自分の趣味をゴリ推しする為に発案する。
 平日の朝一でこんな宣言をされるのは、正直鬱陶しい。
 とはいえ、厄介な事に、毎度それなりにちょっと面白そうなんだよな……今回も。

「異論はないな?」

「異論ありありなんだけどー。私ドラクエ知らなーい」

 春秋家は高校一年生の俺――――深海と、その妹で中二の来未、母親の結子、そして親父の四人構成。
 その内の三人が家庭用ゲームヲタだけど、来未だけはゲームにあまり興味がない。
 アニメやマンガ、ラノベが趣味だ。

 だから来未がドラクエを知らないのは必然。
 国民的RPGとは言っても、ポケモンほどメディアミックスが盛んでもないし。

「無論それは想定済みだ。来未、お前はドラクエに詳しい知り合いに頼んでLINEで参加してもらいなさい」

「そこまでして参加しないとダメなの?」

「うむ。家族の団欒とはそういうものだ」

 普通、中二の女子がこんな事父親に言われたら『うっざ』の一言で切り捨てるだろう。
 でも妹は普段からゲームカフェを営むウチで従業員として働いてるから、オーナーの親父とは上下関係がある程度確立されている。
 だから暴言を吐いたりはしない。

「参加料は? 時給1500円以上ならいいよ」

「良かろう」

 いとも容易く金で売買される家族の絆。
 そういうふうにして春秋家の平和は保たれている。

「ではルールを説明する。夕食後の夜九時に始めるから、それまでに作戦を固めておくように」

 


 ドラクエ呪文ドラフト会議――――

 ルール自体は特に難しくはない。
 オンゲーの10を除くドラクエのナンバリングタイトル(1〜9、11)に登場した呪文を対象に、自分が獲得したい呪文をドラフト方式で発表。
 四人の内、誰とも被りがなければ無事ゲットでき、もし被っていたら抽選となる。

 ドラフトで獲得できる呪文は一人10個まで。
 最大で40の呪文が扱われる事になる。

 そして、ここからが重要だ。

 この呪文ドラフト、コンセプトは『序盤から終盤まで全期間で貢献出来る賢者を作る』との事。
 つまり、終盤にしか覚えないメラガイアーやイオグランデのような最上級呪文ばかりを揃えて最強の賢者を作ってもダメって訳だ。
 当然戦闘だけでなく、移動中に使用頻度の高い呪文も貢献に含まれる。

 ドラクエの呪文は作品によって覚えるレベル帯は違う。
 でも大雑把に『序盤』『中盤』『終盤』の三つに分ければ、大抵の呪文は覚える時期が重なる。

 例えばメラやホイミは序盤だし、ベギラマやヒャダルコは中盤。
 ベホマ、ザオリク、バギクロス辺りは終盤に分類されるだろう。
 各系列の最強呪文は当然終盤も終盤、クリア後に覚える事も多い。

 コンセプトが賢者だから、勇者の印象が濃い呪文はドラフト対象外。
 デイン系やベホマズン、トヘロス、アストロン、ルーラなんかは今回選択出来ない。

 以上の条件で、『たった10個の呪文で全期間活躍出来る賢者』を生み出さないといけない。
 中々の難易度だ。

 ドラフトが終わったら、それぞれの獲得呪文を見比べて、全期間で貢献出来る賢者は誰かを全員でジャッジ。
 見事1位に輝いた人は、来週のトイレ掃除と風呂掃除が免除され、最下位になった人がその分を負担しなくちゃならない。

 トイレは兎も角、風呂は天井や浴室換気扇まで綺麗にしないといけないから、結構時間を食う。
 ゲーム時間をより長く確保するためにも、これは負けられない戦いだ。

「よーし、集まったな」

 店内の掃除と洗い物を終え、居間に集合。
 既に各自の席には大量のフリップが用意されている。

 来未はスマホを持参し余裕の表情。
 どうやらアテが見つかったらしい。

 夜の9時にこんな訳のわからない遊びに付き合ってくれる友達がいるんだな。
 彼氏……って事はないだろう、来未に限って。
 アホな事を除けば魅力が凄い我が妹だけど、ヲタクな上に店の手伝いがあるから彼氏作る余裕も時間もない筈。

「で、来未は誰に頼んだの。星野尾さん?」

「星野尾ちゃんは毎日暇だけどドラクエは10しかやってないって」

 ローカルタレントから廃人にジョブチェンジする日も近いな……

「だから、メノウちゃんに頼んだよ」

 ……ん?
 その珍しい名前には一人心当たりがある。

「メノウ……って、水流瑪瑙?」

「そ。兄ーにのゲーム仲間の人。前に来てた時、連絡先交換したんだ。一年先輩の女子ゲットだぜ!」

 いつの間に……こいつ天性の女たらしか?

「でもあいつ、家庭用ゲームはそんなに詳しくなかったような……」

『ドラクエは11だけやった』

 っと、いつのまにか水流からLINEが来てた。
 まあ中三ならそんなもんだろう。
 俺みたいに高一でリメイクまで全制覇(10除く)してるのは稀だろうし。

『せんぱい、お手柔らかに』

『ああ。変な事に付き合わせて悪いな』

『ううん』『せんぱいとゲーム以外で遊ぶの久し振りだし』

 こいつ本当、魔性の中学生だな……いちいちツボ突いた事言ってきやがって。

「ちょっといい? 私も代理立てたんだけど」

「母さんも? 母さんドラクエ全部やってるじゃん。しかもほぼリアルタイムで」

 アラフォー世代では珍しく、母さんはRPGも嗜む。
 親父ほど熱中してた訳じゃないみたいだけど。

「でもそんなに詳しくないのよ。だからガチ勢にお願いしてみた」
 
 ガチ勢?

『今日はお招きありがとう。楽しみにしてたよ』

 朱宮さん!?
 あんた売れっ子声優でしたよね……?
 ウチをご贔屓にしてくれているとはいえ、他にやる事あるだろ……仕事仲間や先輩と飲みに行くとか……

『1位になったらlainのゲーム版を貸してもらえる約束だからね。本気で行くよ』

 このレトロゲーマニアめ……
 初代プレステ普通に家にあるんだな……

「まあよかろう。では始めるとするか。ルールはわかってるな?」

「俺はわかってるけど、LINEで参加する二人には説明してる?」

「……」

「……」

 おい。

 仕方ない……二人には俺がLINEで説明しよう。
 っていうか絶対それをアテにしてただろ、来未も母さんも。

『大体わかった』

『呪文ドラフトって話を聞いた時からこういうルールを想定してたよ』
 
 飲み込み早くて助かった。
 さて――――

「では早速一巡目スタートだ! それぞれ最初に獲得したい呪文を書けぃ!」

 手元にあるフリップの一つを取って、じっと眺める。
 実のところ、まだ完全には決め切れていなかった。
 最初に何を選ぶかを。

 今回のこのドラクエ呪文ドラフト会議――――重要なのは『序盤』『中盤』『終盤』のどの段階を重視するかだ。
 それによって、1位や2位で取るべき呪文は大きく変わってくる。

 よく『強いキャラは誰だ?』って議論では、Lv.99などの最終的なステータスや覚える呪文・特技全て網羅した段階での強さで各キャラが比較されている。
 でも現実としてプレイ中に強さを実感するのは、その段階じゃない。

 特にドラクエの場合、ラスボスを含めた終盤のボスはそこまで脅威とは言えない。
 6のムドーや7の山賊四人衆みたく、中盤に厄介な中ボスがいる作品が多い。

 それに、特技や全体攻撃武器がない1〜4の場合は、道中の敵を一層する攻撃呪文がとても存在感を発揮する。
 全体攻撃やグループ攻撃の呪文がどれだけストレスを軽減してくれた事か。
 そういう意味でも、活躍って観点で考えるなら終盤より寧ろ序盤や中盤に覚えた呪文の方が印象に残ってるくらいだ。

 取り敢えず、各ナンバリングタイトルの呪文は脳内でまとめ済だ。


●序盤に覚える呪文
 メラ
 ヒャド
 ギラ
 バギ
 イオ
 ドルマ
 ジバリア
 ホイミ
 ベホイミ
 リホイミ
 バイシオン
 ラリホー
 マヌーサ
 マホトーン
 ルカニ
 ルカナン
 スカラ
 スクルト
 ピオラ
 ピオリム
 バーハ
 ペスカトレ
 ディバインスペル
 ボミエ
 ボミオス
 ザメハ
 キアリー
 キアラル
 シャナク
 リレミト

●中盤
 メラミ
 ベギラマ
 ヒャダルコ
 バギマ
 イオラ
 ドルクマ
 ジバリカ
 ザキ
 ベホイム
 リベホイミ
 ザオラル
 ラリホーマ
 マホトラ
 メダパニ
 バイキルト
 フバーハ
 マジックバリア
 マホカンタ
 マホアゲル
 マホキテ
 キアリク
 インパス
 ラナルータ
 レミラーマ

●終盤
 メラゾーマ
 メラガイアー
 ベギラゴン
 ギラグレイド
 ヒャダイン
 マヒャド
 マヒャデドス
 バギクロス
 バギムーチョ
 イオナズン
 イオグランデ
 ドルモーア
 ドルマドン
 ジバリーナ
 ジバルンバ
 マダンテ
 ザラキ
 ザラキーマ
 メガンテ
 グランドクロス
 コーラルレイン
 メイルストロム
 ベホマ
 ベホマラー
 リベホイム
 ザオリク
 メガザル
 ドラゴラム
 ヘナトス
 メダパニーマ
 マホターン
 モシャス
 マホバリア
 ギガジャティス
 アバカム
 レムオル


 恐らく、1位指名は四人とも回復呪文だ。
 攻撃呪文は種類が豊富だから、中位や下位で指名してもそこそこの威力の呪文が取れるし、補助系はバイキルトやルカニなど一部の呪文を除けば上位指名するほどの貢献度はない。
 それに対し、回復呪文は数が圧倒的に少ない上、使用頻度は圧倒的に高い。

 ホイミ、ベホイミ、ベホイム、ベホマ、ベホマラー、リホイミ、リベホイミ、リベホイム――――この中で、最も使用頻度が高くパーティ内での貢献度が高いと思われる呪文は、1つしかない。

 ベホマラーだ。

 作品によって多少のバラ付きはあるけど、大体パーティ全員のHPを80〜120回復させるこの呪文の価値は果てしなくデカい。

 覚えるのは終盤だから、序盤や中盤の攻略には寄与しないし、一応は賢者の石やハッスルダンスで代用も可能だ。
  でも、それを差し引いてもこの全体回復呪文は極めて重要で、最強クラスのブレスや呪文を使うボス相手だと、これがあるのとないのとでは難易度が大きく変わる。
 戦局を左右するレベルの存在を言っていい。

 それだけに、他の連中も1位指名する可能性がかなり高い。
 特に11しかやってない水流は狙ってそうだ。
 11だと、かいふく魔力が高いセーニャが使えば100前後どころか200、300の回復も見込めるからな……

 競合を嫌って他の呪文を選ぶとすれば、ベホマしかない。
 こっちも終盤の呪文ってイメージだけど、作品によっては中盤で覚える。
 それでも最後まで役立つ呪文だから、貢献出来る期間はかなり長い。

 恐らくベホマなら、競合はしないか、しても一人。
 取れる可能性は高い。

 序盤を重要視するならベホイミもアリだ。
 上やくそうや特やくそうは登場する作品が少ないし安定して入手出来るのは中盤以降だから、序盤のベホイミの存在感はかなり大きい。
 これらの上位やくそうやベホイムがない時期の作品だと、尚の事だ。

 恐らくリホ系以外の回復呪文は一巡目で大半が消える。
 独り占めは無理だ。

 競合覚悟でベホマラーを狙いに行くか。
 リスクを最小限にしてベホマを狙うか。
 終盤の回復を捨ててベホイミにするか。

 ここは――――攻めよう。

「では一巡目。俺は【ベホマラー】を指名する」

「私と朱宮君は【ベホマ】指名よ」

「メノウちゃんは【バイキルト】だって」

 な……何ィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?

 ここでバイキルト!?
 いや、確かにかなり使用頻度高い呪文だけど……回復呪文を捨ててまで取りに来るとは……

 でもそのお陰で競合は一人のみ。
 親父との勝負だ。
 ベホマラーの価値を考えたら、これは破格だ。

「くくく……狙い通り」

 当然、向こうも同じ考えか。

「競合した場合は抽選だ。このBOXの中から真中に『交渉権獲得』と書いた紙を引き当てた者が指名した呪文を手に入れる。紙はフライヤーの使い回しだが、真中に書いてある文字以外を見て当たりと勘違いしてガッツポーズしないようにな」

「間違うかよ。多少紛らわしくても真中じゃないんだから普通にわかる」

 2でも5リメイクでも7リメイクでも福引きで特等や1等を当てた記憶がない俺だが……ここは当てる。
 これだ!

「兄ーに、はーずれー」

 バカな……!
 そんな……ベホマラーが俺を見放すなんて……
 あんなに……初登場の3からずっと使い続けてきたのに……

「甘いな息子よ。俺はドラクエをほぼリアルタイムで体験してきたアラフォー世代……お前とは年期が違う。ベホマラーと付き合ってきた年月がな」

 クソったれが……!

「それで深海、外れ1位はどれにするの? 早く決めなさい。1/2のクジで当てたくらいでニチャニチャ笑うこれをずっと見てるの気色悪いの」

「母さん酷くない!? 子作りした仲だよね!?」

 親父の発言の方がよっぽど酷い。
 俺はこんなのに負けた上にこんなのに種付けされたのか……泣きそうだ。

「外れ1位でベホイミを指名します」

 ベホイムでもいいんだけど、微妙に愛着ないんだよな。
 それに、1位でベホマを取った朱宮さんが今後ベホイムを指名する可能性は極めて低い。
 ならベホイミを確保しておいた方が後々有利だ。

「では二巡目に入る。各自フリップに記入」

 さて……ここからが問題だ。
 出来れば終盤に使える回復魔法が欲しいから、ベホイムを指名したいところ。

 でも他にも確保しておきたい呪文は沢山ある。
 特に、バイキルトを取られた事でルカニの重要性がかなり増した。 
 ボス戦で物理攻撃を補助する上で、このどちらかは必須だからな……

 出来ればザオリクも上位で指名したい。
 使い所はかなり少ないけど、強敵のボスと戦う時はかなり必要性が高い呪文だ。

 それに、ここからは攻撃呪文も指名されていくだろうから、有力どころは早めに確保したい。
 全体攻撃の種類も火力も不足している序盤を支えるイオ、 中盤の対ボスの切り札になるメラミ、終盤の強力な攻撃手段になるメラゾーマ、イオナズン、クリア後に重宝するイオグランデ辺りが有力候補だ。
 3、6、9では有用なヒャドも悪くない。

 でも、それ以上に欲しいのが【イオラ】。
 中盤のほぼ全期間にわたって活躍してくれる。
 しかも、特技無双になる6〜7でも役立つ数少ない攻撃呪文の1つだ。

 ここは……序盤から終盤まで役立つルカニにしよう。
 ベホイムやイオラも捨てがたいけど、これらはまだ漏れる可能性がある。
 でもルカニは、水流がバイキルトを指名した時点でオリハルコン並の稀少な存在になった。

 仮に競合しても、ベホイム、ザオリク、イオラのどれかは取れる。
 ここは勝負だ!

「では二巡目。俺は【イオナズン】だ」

「私と朱宮君は【イオラ】ね」

「メノウちゃんは【イオグランデ】……なんかピンと来ない名前ー」

 何ィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?
 イオ系がほぼ全滅……だと……!?

 う……あ……ああ……
 バカな!
 確かにイオ系は重要だけど、ここまで綺麗に被るものなのか……?

「深海、渋いねー。ルカニ取るかー」

「ふふふ。意外と効かないボスの方が少ないからな。やりおるわ」

 感心したような口振りとは裏腹に、両親の顔には嘲笑が浮かんでいる。
 まさか……読まれていたのか?

 敵1体の守備力を低下させるルカニは、単独かつ守備力の高いボス戦でこそ有効性を発揮する。
 逆に、ザコ戦ではほぼ使い所はない。
 つまり……単体用火力の確保って意味では、役割がメラミやメラゾーマと被る。

 ルカニを指名した以上、俺の中でメラミやメラゾーマの優先順位は低下した。
 少なくとも3位で指名する事はない。
 それを見越してイオ系を先に確保されたのか……?

 ん? LINE?
 朱宮さんか。

『君のお母さん、かなりのやり手だね』

 ぐっ……やはり!
 水流のバイキルト指名に焦った俺がルカニを指名するのを完全に読まれていた……!

「っていうか母さん! もうこれ代理じゃなくてコンビじゃないの!? 母さんも普通に参加してるよね! 話し合いしてるでしょ絶対!」

「さあ? なんの事だか」

 この母……!
 突然代理立てるから自信ないかと思えば、そう見せかけて優秀なパートナーを得る作戦だったのか!
 そこまでしてトイレと風呂掃除を免除したいのか……?

「私はね、忙しいの。店の料理作るだけじゃなくて、家事もしなくちゃいけないの。わかる? 本当は当番制じゃなくて、掃除は全部アンタ達にやらせたいのよ?」

 ……と口には出してないけど目が語ってる。
 なんてプレッシャーだ……恐ろしい母を持ってしまった。

 ダメだ、完全に飲まれてしまってる。
 切り替えよう、切り替えないとこのドラクエ黄金世代には勝てない。
 3位で最高の呪文をゲットしよう。

 取り敢えず、ルカニを得た事で対ボス用の攻撃補助って立ち位置は確保出来た。
 その役割がある以上、ボス戦での火力は余り気にしなくていいだろう。

 後は、ボス相手の際の回復役、もしくは序盤〜終盤のザコ戦用呪文を指名しておきたい。

 イオラを指名した朱宮さんは中盤のザコ戦はほぼこれ1つで賄える。
 イオナズンを指名した親父と水流は終盤の火力を確保した。
 となると、全員序盤の使える呪文……イオを優先的に欲する可能性が高い。

 序盤の全体攻撃は一応ブーメランがあるけど、逆に言えばそれくらい。
 ただ、ギラやバキといった1グループ範囲の呪文でもそれなりにやっていける。
 競合覚悟で突っ込むほどの必要性はないかもしれない。

 上位のイオ系を指名した二人はしばらく全体攻撃呪文は指名しないと見た。
 なら下位でも十分狙える。

 ここは……競合しそうなイオよりもザオリクを優先して確保しよう。

 ベホイムも欲しいけど、俺以外は既にそれ以上の回復手段を持っているから、これを上位指名する事はないだろう。
 下位で十分だ。
 ルカニとザオリクとベホイムを持っていれば、終盤のボス戦は十分貢献出来る。

 あとは残りの7つの枠で序盤・中盤のザコ戦とボス戦、終盤のザコ戦で役立つ呪文を確保すればいい。
 よし、決め――――

 いや、待て。
 本当にそれでいいのか?
 さっきみたいに、こっちの思惑を見透かされて誘導されてないか?

 心当たりがある。
 あいつら、俺が2位指名したルカニを微妙にディスってる感じだった。

『確かに有効ですけどー、そんな序盤で覚える地味な呪文を2位指名ですかー?』

 思えばそんな感じだった!

 俺はそれを無意識下で気にして、『死者が蘇るという終盤ならではの派手な呪文』を選んでしまった……?

 そうだ。
 確かにザオリクは有用だし文字通り起死回生の呪文だけど、使いどころはかなり限定される。

 思い出せ、このドラフトのコンセプトはあくまで『全期間貢献』だ。
 ザオリクはそこまで評価されない!

 危ない危ない、ギリギリのところで原点に立ち返る事が出来た。
 俺はどうも序盤・中盤・終盤の区切りに拘り過ぎてたみたいだ。

 この呪文ドラフトは、序盤〜中盤、中盤〜終盤と活用出来る期間の長い呪文を確保した方がずっと有利。
 序盤に使える呪文が3つ、中盤に使える呪文が3つ、終盤に使える呪文が4つ……だと余りに心許ない。
 でも、序盤も中盤も使える呪文が3つ、中盤も終盤も使える呪文が3つ確保し、残り4枠で序盤と終盤に使える呪文を2つずつ指名すれば、どの時期にも5つ以上の有効な呪文を確保出来る事になる。

 そういう意味では、ルカニの指名は決して間違っていなかった。
 序盤〜終盤、全てのボス戦で使えるんだから。

 となると、同じような用途のスクルトも有効か。
 中盤〜終盤の守りの要となるフバーハも。
 バイシオンやバーハだと効力的に厳しいからな。

 ……よし、決めた。

「では三巡目を開始する。俺は【スクルト】だ」

「むっ……私と朱宮君も【スクルト】。被ったか」

 やっぱりか!
 俺にスクルトを指名させない為に揺さぶりかけてたのか……ゲスの極みだなこの両親共。

「メノウちゃんは【ヘナトス】だってー」

 そして何も考えてないのか、逆に緻密な計算の元に指名してるのか、ひたすら独自路線の水流……
 しかし確実に使える呪文を取っていきやがる。
 ヘナトスは9から登場した新参だから、あんまりピンと来ない呪文なんだけど……確かにあれは使えた。

「深海は何?」

「俺も【スクルト】だよ」

 フバーハが役立つのは終盤だからな。
 その点、スクルトは序盤からずっと使える。

「ぬう……三巡目で3人被るとは」

 よし、親父達の計算を狂わせる事に成功した。
 流れが来てる。
 俺に来てるぞ……!

「はーい、くじ引きの結果お母さんが【スクルト】獲得でーす」

 なんで!?
 流れ来てたのに……なんで!?

「んー……」

 しかも母さん、別に外しても良かったのになーってツラだ!

 おかしい……なんでこんなにクジ運悪いんだろう俺。

「仕方あるまい。おい深海、早く外れ3位を書け」

「わかったよ」

【フバーハ】
【フバーハ】

 また被った!

「よーし! まあ良しとしよう!」

 また負けた!

 なんだこの呪いのドラフトは……トイレの神様が俺に憑いてるのか?
 そんなに俺に掃除して欲しいのか?
 別に俺、べっぴんさんになりたくないんだけど……?

「では四巡目を始めようか」

 マズい……流れを変えないとこのままズルズル行くぞ……

 よし。
 ここは一つ仕掛けるか。

「深〜海〜。外れ外れ3位はどれにするんだ〜?」

 おのれ親父、煽りよって……目にものを見せてくれる。

「俺の外れ外れ3位は……【グランドクロス】だ」

 このフリップを出した途端――――場の空気が変わった。

「バカめ! グランドクロスは呪文ではなく特技だ!」

「……」

「言い忘れていたが、呪文以外を書いたらそのターンは"獲得なし"だからな? よかった息子。これが麻雀だったらフリテンは罰金だぞ? 優しい父親に感謝するのだな」

 高校生の息子相手に麻雀で例えるなよ……

 だが親父、甘い。
 マックスコーヒーよりも甘い!

「グランドクロスは8でのみ呪文なんだよ」

「ハハハッ。そんなゴミみたいな言い訳――――」

「……本当よ」

 俺が口を開く前にハイな親父を否定したのは、母さんだった。
 いや、正確には――――


「8リメイク直撃世代の朱宮君がそう言ってる。あ、今調べたら間違いないそうよ。リメイクでは『天国への階段』って名前になったそうだけど」

「ぬぁぁぁんだってェェェェェェェェェェェェェェェ!?」

 所詮アラフォー。
 自分達の学生時代にプレイした7までとは違って、8以降についてはあまり思い入れがないんだろう。
 だからこんな覚え違いをする。

 呪文としてのグランドクロスはグループ攻撃だけどダメージは180〜210と結構強いし、ゾンビ系に特攻がある。
 終盤の攻撃としては十分だし、マヒャデドスやギラグレイドなどの最上級呪文と比べれば燃費も良い。
 ククールのカリスマスキル100で覚えるから、Lv.35前後で習得可能の呪文だ。

「なんかよくわかんないけど……お父さんもしかして、自信満々のドヤニチャ上から目線で非難したのに実は的外れっていう恥ずかしいのやっちゃった?」

「そうねぇ。片思いの子とフェス行って『ああこのバンドね。演奏微妙だけどこのギターはまあまあかな』ってベースソロの時に言う人くらいの痛さかな」

「もうやめて! 一家の大黒柱の心を折らないで!」

 よし、これで親父のメンタルはボロボロだ。
 この勝負、イケる……!

 

 ……とかなんとかやってる内に、もう九巡目終了。

「どうしてこうなった……どうして……」

 メンタルが壊れた親父は四巡目から明らかに迷走を始めた。


 ベホマラー
 イオナズン
 フバーハ
 マヌーサ
 ギガジャティス
 ザオリク
 ザラキ
 レムオル
 リレミト


 これ以上攻撃されるのを回避する為にマヌーサ、全てをなかった事にしたくてギガジャティス、自分の心を蘇生させる為にザオリク、逆に自分を殺す為にザラキ、そして自分がこの場から消える為にレムオルとリレミトを指名。
 賢者を作るってコンセプトだったのに、途中から自分の悲惨な現状をどうにかする為の呪文を選ぶという奇行に走った結果、見るも無惨なラインナップになってしまった。
 仕掛けたこっちが申し訳なるレベルの情緒不安定ぶりだ。


「さーて朱宮君。あと一つどうしよっかねー」

 逆に母さん&朱宮さんは絶好調。


 ベホマ
 イオラ
 スクルト
 マヒャデドス
 メラゾーマ
 バイシオン
 ラリホーマ
 ヒャド
 ベギラゴン


 序盤、中盤、終盤それぞれに役立つ呪文を取っててバランスが良いし、ボス戦で有効な呪文も多い。
 補助のスクルトとラリホーマもいろんな場面で使える。


「あ、水流ちゃんやっと蜘蛛追い払ったって」

 途中まではバランス良い指名をしていた水流だけど、部屋に蜘蛛が現われてパニックになってから少々おかしくなった。


 バイキルト
 イオグランデ
 ヘナトス
 ベホイム
 ギラ
 メラミ
 メダパニーマ
 キアラル
 マホトーン


 ……まあ、11からドラクエを始めた人はどうしても蜘蛛がトラウマになるよな。

 それでも十分悪くないってのがなんとも。
 敢えて言えば中盤の全体攻撃が弱いけど、それでもメラミがあるし十分戦える。
 何しろバイキルトがあるから、ボス戦はそれだけで重宝されるしな。

 さて、残るはあと1つ。
 最下位は親父でほぼ決定だけど、ここまで来たらトップを取りたい。
 
 一応、それなりにまとまっては来たけど――――


 ベホイミ
 ルカニ
 グランドクロス
 ザオラル
 イオ
 ヒャダルコ
 マヒャド
 ラリホー
 キアリク

 

 攻撃面はともかく、やっぱり回復系が弱いな。
 とはいえ、そこはもうリカバリーは出来ない。

「それじゃラスト、十巡目行きましょー!」
 
 母さん、ノリノリだな。
 勝ちを確信してるのか?

『悪いね深海君。もらったよ』

 朱宮さんも同じらしい。
 この慢心につけ込みたいところだ。

 奴らは序盤の攻撃呪文はギラのみ。
 イオを持ってるこっちの方に分がある。

 でも補助はバイシオン&スクルトで完璧だし、イオラとベギラゴンで中盤〜終盤のザコ対策もぬかりない。
 ボスが単体、複数にかかわらずメラゾーマとマヒャデドスで対応できる。

 中盤はもうどっちみち勝てない。
 イオラ以上の攻撃手段はないし、有用な補助も残ってないしな。

 なら――――終盤に厚みを持たせよう。
 どの道、終盤用の回復呪文は持ってない。
 なら回復役は捨てて攻撃に特化するべきだ。、

 最終盤の火力を強化するとなると、最上位呪文を指名すべきか?
 
 メラガイアー、ギラグレイド、バギムーチョ……これだけまだ残ってる。
 でも、逆に言えば今まで誰も指名しないくらい扱い辛い呪文とも言える。

 実際、これらは消費MPが大きすぎる。
 ズバ抜けた威力って程でもないし、どうにも手が伸びない。
 多分、貧乏な家で育ったからだと思うけど……コスパがどうしても気になる。

 でも、それじゃダメだ。
 ここは敢えて、自分を捨ててあの呪文にかけよう。
 全てを出し切り、全てを破壊する最強の攻撃呪文に――――


「それじゃ、最後! 私と朱宮君は【ホイミ】を指名します!」

「メノウちゃんは【マジックバリア】だそうでーす!」

「……」

 親父は何も言わず【メガンテ】を指名した。

 本命の母さん・朱宮ペアは序盤を強化したみたいだ。
 水流は逆にボス戦やクリア後の強敵相手のディフェンスを重視。
 バランス型とボス戦特化型って感じで対照的だ。

 だが、俺は違う。
 俺が指名した呪文は、バランス取りには程遠い――――
 
「俺は【マダンテ】だ」

 残りMPと引き替えに大ダメージを与える最強攻撃呪文。
 ザコに使う呪文じゃないけど、クリア後の強敵相手に大きなダメージを与えられる。
 エルフののみぐすりのようなMP回復アイテムを沢山持っていれば、十分実用性に耐え得る……!

「ないわー。マダンテはないわー」

 母さん!?
 常識ある母さんがそんな個人攻撃をするなんて……

「な、なんでだよ! 最強呪文だぞ!」

「そんな勿体ない呪文使う気ならない」

 この貧乏性……!
 同じ家庭で育ったからこその共感……!

「俺もマダンテはどうかと思うぞ。マダンテはないわー」

 このクソ親父、俺がやらかした途端生き返りやがった!
 その『どう俺のメガンテは?』って顔ムカつくから止めろ! 道連れにされた覚えはない!

「あ、メノウちゃんも『マダンテはない』だって」

『マダンテはちょっとね。微妙かな』

 温厚な朱宮さんまで!?

「いや、普通に使えるでしょ!? MP全消費して大ダメージってロマンもあるし!」

「んー……なんかマダンテってボス最速撃破のゴリ推しに使われるイメージでさー。MP回復アイテム大量生産が前提なのも含めて、なんか事務的な呪文って感じなんだよね」

「さすが俺の妻、わかってるな。あれにロマンなんて感じる奴はセンス皆無だ」

 そんなバカな……!
 でも悔しいけど言ってる事ちょっとわかる!

「ま、マダンテなんて使う賢者は俺ならちょっとノーサンキューだな。くふっ」

 起死回生の最下位脱出にほくそ笑む――――
 そんな親父だったが、その後全員で審査し合った結果、普通に最下位だった。

 


 最終結果

 1位 母さん&朱宮さん(穴なし)
 2位 水流(ボス戦で重宝)
 3位 俺(マダンテがダサい)
 4位 親父(序盤と中盤がゴミ)










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