アウロスにとって、戦闘は一種の実証だった。
 別に生きている証を闘いに求めている訳ではない。
 自分が使用している魔術が、自分の戦闘スタイルにどれだけ適応しているか。
 自分の考案した策がどの程度の再現率を達成できるか。
 そういった実証は、自分の命を危険に晒さざるを得ない実戦でのみ可能となる。
 そして、オートルーリングの開発に成功してからは、その闘いの殆どが
 オートルーリングの実証実験といってもいい。
 あの地下牢で"友達"が思い描いた技術が、どれだけ現代の個人戦において
 有用なものとなるのか。
 この技術が魔術史に燦然と輝く発明品となり得るのか。
 その実証が、アウロスにとってどれだけ重要かは言うまでもない。
 人生の目標、これまでの歩みそのものを実証するようなものだ。
 これまでアウロスは、図らずもその実証を何度か行ってきた。
 
 凶悪な魔術士ギスノーボとの戦闘。
 論文発表会の席で、突然襲撃して来たテュルフィングの一人への対応。
【フォン・デルマ】に流れた論文を見つけた際、聖輦軍を名乗る
 ならず者に襲われた時。
【アルマセン大空洞】でのフレアとの初対面時。
 ティア、サニア、トリスティとロベリア邸の前で闘った時。
 
 いずれも、オートルーリングだからこそ局面を乗り切れた。
 間違いなくこの技術は戦場で重宝される。
 既にその確証は得ている。
 少なくとも、この技術が一度は普及する事は間違いない。
 が――――もし五年後、十年後にオートルーリングの欠点が露見したら?
 使い辛い技術だと烙印を押されてしまったら?
 それが五年、十年ならまだいいが、一年後だったら?
 歴史に名を残す発明は、息の長さが必須。
 欠点があるのはいい。
 問題は、その欠点が見つかった時点で修正できるか否か。
 その際に更なる発展をできるか否か。
 それができれば、オートルーリングを発明した"アウロス=エルガーデン"
 の名前は確実に後世にまで残るだろう。
 これからアウロスは、実証実験の最終段階に入ろうとしている。
 すなわち、オートルーリングの欠点を見つける事。
 それこそが、この闘い――――マルテとの闘いで生き残る事へと繋がる。
 今ここで朽ちれば、オートルーリングの開発者はミストという事実だけが残る。
 その未来を実現させる訳にはいかない。
 アウロスは先程右手にはめた魔具を光らせ、ようやく襲撃してきた
 デクステラへ攻撃の意思を見せた。
 ――――先程、天に向かって放った魔術の意図は、自分の居場所を
 "敵と味方"に知らせる為。
 フレアは気配を読めるので、知らせるまでもなくいずれはアウロスの
 現在地を把握する事は可能だろう。
 だから、本来は敢えて知らせる必要はない。
 一方、アウロスは気配を読むのが苦手なので、フレアの位置もマルテ達の
 位置も把握できていない。
 その状況で最も怖いのは、フレア一人が襲撃される事。
 フレアはまだ、マルテが敵となった事実を知らない。
 もしその状況で襲われれば、混乱や驚嘆でまともに闘えないまま
 倒されてしまう可能性大だ。
 そうならない為には、『フレアと先に合流する』または『マルテ達とアウロスが
 闘っている状況を観察させる』事が必要だ。
 当然、自分自身が不利にならない状況にしておく事も条件の一つとなる。
 フレアに気を使って自分がやられてしまったら意味がない。
 マルテ側の立場で、アウロスの位置を把握した時点でどう襲撃するのが最善か――――
 それを考える必要がある。
 一番確実なのは、アウロスから気付かれないように近付き、隙を突いて襲う。
 アウロスには知る術はないが、デクステラにはその為の能力が備わっている。
 だが、先程アウロスが現在地を敢えて示した事で『アウロスは自分が襲撃されるのを
 前提に建物内に潜んでいる』と読む事になる。
『気付かれないように近付く』までは可能でも、『隙を突いて襲う』のは難しい、と。
 自分の位置を敢えて知らせるという事は、何か考えがあっての事、
 罠かもしれない――――とデクステラの性格上考えるだろう、と
 アウロスは予測を立てていた。
 なら、彼らの考える次善策は何か。
 二対一という数的優位を過信し、二人でアウロスを堂々と襲う。
 それも考えられる。
 だが――――
『もしその襲撃の隙をフレアに突かれたら?』
 その警戒も当然、持たざるを得ない。
 ならばまずはフレアを始末するか、最低でも居場所を常に把握しておきたい。
 そう考えるのが自然だ。
 では、フレアは実際どこに移動していると考えるべきか?
 フレアの戦闘スタイルは、マルテもデクステラも把握している。
 機動力に優れており、円月輪による遠距離からの攻撃が可能。
 暗殺者に近い存在。
 ならば、身を潜め機を窺い、隙を突いて仕掛けてくる――――
 そういう推察が成り立つ。
 そして、先程アウロスが自分の位置を示した事で、フレアは
 何処が戦場になるのか既に理解していると見るべき。

 アウロスを襲撃した瞬間、彼女は現れる。

 そこでアウロスではなくフレアを攻撃対象にすれば、フレアの
 意表を突くことができる。
 ただし、アウロスを攻撃しながらフレアを警戒するのは危険が伴う。
 ならば、一人がアウロスを襲い、もう一人が周囲を警戒し
 フレアの出現を待つ――――これが作戦としては確実かつ合理的だ。

「アウロス=エルガーデン! その命貰い受ける!」
 今。
 アウロスの目には、先程魔術で大穴を開けた天井からデクステラが
 吸い込まれるように落ちてくる姿が映っている。
 緑魔術を得意とする魔術士。
 以前――――【フォン・デルマ】で見かけた論文の中に
【緑魔術の普遍使用による空中浮遊理論】というタイトルがあった。
 だが、魔術で作った風の力で人間が空を飛ぶ事は不可能。
 それでも、飛び降りる衝撃を緩和する事はできる。
 ルインがこれまで何度か見せてきたし、アウロス自身も
 不格好ながら実現させている。
 デクステラが上から襲って来るのは想定済み。
 そして――――
「覚悟!」 
 そう叫びながらも、実際にはここでアウロスを絶対に仕留めるという
 意識よりも、もっと別の主目的がある事も予測済み。
 デクステラが落下しながらどのような緑魔術を放とうとしているのか、
 アウロスには想像もつかない。
 想像する必要がなかったからだ。
 結界を張る意思はない。
 結界を張れば、その場に足踏みとなる。
 選択したのは、攻撃。
 最も素早く出力できる【炎の球体】による攻撃だった。
「……」
 そのアウロスの編綴をデクステラが落下しながら視認する最中――――
 空き家の入り口から、複数の金属が微かに光を煌めかせ、宙を舞った。











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