「お前はミストの協力者だろう? 組める訳がない」
  その指摘に――――リジルが狼狽を見せる。表情もやや固くなったが、何より瞬きが
 多くなった。
「そりゃ、古い知り合いとは言いましたけど……僕はアウロスさんと同じで研究室を辞めた身
 ですよ? しかも彼の所有物であるドラゴンゾンビを逃がしたんですよ?」
「あれはミストの脚本だろ」
  更なる指摘がリジルを襲う。
「恐らく、ミストはあのバカ兄弟と取引でもしてたんだろう。だが、あの連中と繋がりを
 持った所でミストに利はない。教会での立ち位置を確約させるだけの権力もないし、
 上に目を掛けられるようなタイプでもない。聖輦軍の長と言えば聞こえは良いが、
 結局はトラブル処理班だからな」
「……」
「俺なら、連中を利用して教会自体に貸しを作る。そして、それを足懸かりにして、
 揺るぎない土台を作ってくれる連中に売り込みを掛ける」
「つまり、あのいざこざはミストが教会に貸しを作る為の茶番……?」
  その茶番に関わっていたルインが眉をひそめて呟く。
「推測だけどな。取引は恐らくフェイク。ドラゴンゾンビを餌にして連中をおびき寄せて、
 大学内で一暴れさせる。それを大学関係者以外の人間……例えば調査員にでも目撃させ、
 その件に客観性を持たせた上で教会に責任を問う。どうだ?」
「おお……ロスくん何かインテリっぽいぞ。さすが大学研究員、元!」
「奇妙な倒置法使わないで頂戴」
  ルインの不機嫌そうな指摘に対し、ラディは人を喰ったような笑みを浮かべた。
「あら、さすがに夫がバカにされるのは我慢出来なくて? おほほ」
「ああっ、またバカ弟子が醜態を……」
  マスターが嘆く。場が混沌として来た。
「仮にそれが全て真実通りだとしましょう」
  そんな空気を無理矢理冷却するかのように、ルインの凛とした声が周囲に浸透する。
「そうなると、当然リジルはミスト教授の協力者になる。ドラゴンゾンビを誘導して、
 教会の連中を誘き寄せたのは彼の主導なのだから」
「本気でドラゴンゾンビを護りたいなら、もう少し効率の良いやり方がある。封術を利用したりな。
 あの時、お前は連中をおびき寄せる為の時間を調整してたんじゃないのか?
 早く追いつかれると地下での戦いになってしまうし、遅過ぎると連中が見失って
 大学にまで来ない可能性があった」
  そこまで述べ、アウロスはリジルに視線を向けた。図らずも情報屋に情報戦を
 挑む形になったが、勝算は多分にある。
「……どうなんだ?」
  それを確認する為に、低い声で尋ねた。すると――――リジルは爽やかな笑みを零し、
 両腕を挙げて降参の意を露わにした。
「バレましたか」
「チッ、当たらずとも遠からずか」
「いやいやいや! 僕ちゃんと言いましたよね、バレたって。全肯定ですよこれ……」
  そこまで言って、気付く。
「今のも引っ掛けですか。反応を見定める為に」
「まあ、念には念をな」
  苦笑するアウロスに、リジルは全身を弛緩させて首を横に振った。
「もう何と言うか、唯々面白いですよね。そこまで読もうとも思わないですよ、普通は」
「ここまでやってようやく人と同じ高さに立てる仕様の人生だからな。仕方がない」
  それは間違いなく事実だった。だからこそ、ここまで曲がりくねった生き方に
 なってしまっている。それでも、今のアウロスに不満は全くなかった。
「わかりました。真実をお話します。何故僕がミスト教授に協力するのか……」
「それは良い。もう時間だし」
「え゛」
  壁に掛けられた時計を差しつつ、アウロスは最後のスリーフィンガーハムを手に取り、
 立ち上がった。
「結局最後まで遊ばれっぱなしですか……これでも裏の世界ではニヒルな感じで
 通ってるのになあ」
「良いウォーミングアップにはなった」
  少し皮肉気に呟くアウロスに、リジルが真顔で向き合って来る。
 アウロスの記憶にはない顔だった。
「本当に僕の力は必要ないんですか?」
「ああ。お前はミストの仲間だからな。敵の味方は敵。基本だろ」
「でも、僕はアウロスさんの敵ではありませんよ。それは本当です」
「あっそ」
  やたら淡白に受け流したアウロスの様子に、リジルは思わず苦笑する。
 年上の余裕と言うには少し寂し気だった。
「ところで、私達も見学出来るの?」
「出来るだろうけど……見てどうすんだ?」
「ふっふっふ。いざとなったら、煙玉投げて逃亡の手助けを」
「するな。風で吹っ飛ばされて御用だ」
「うがっ! 魔術士怖っ!」
  奥の手をシミュレートの段階であっさりと攻略され、ラディは恐怖に怯えた。
「それよりも、お前は仕事があるだろ。ちゃんと働けよ」
「へいへい」
 返事は適当ながら、その目はしっかりと仕事の出来る人間の持つ光を放っている。
  まだ若いとは言え、仕事に関してはラディアンス=ルマーニュ、
 本名(笑)グラディウス=ルーワット(笑)は侮れない女性だった。
「ミストの発表時間は10時15分からだ。見に行くのは構わないけど、一つお願いがある。
 俺に何が起きても、俺が何をしても、決して動かないでくれ。見守っていて欲しい」
  アウロスは全員の顔を見ながら、介入禁止令を発動させた。
「それでミスト教授に勝てますか?」
「勝ちも負けもない」
  そして、外へと振り向く。決意の顔を誰にも見せないまま、静かに告げた。
「目的を達成しに行くだけだ」



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