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「師匠と会ったのは五年以上前かなあ」
  夜――――客で溢れかえる一階から避難するような形で手配して貰った部屋へ移動した
 四人は、昔話に花を咲かせていた。良識あるウォルトが手伝う事を進言したが、プロ意識の
 強いマスターはそれを頑固拒否していた。
「ロスくんには話したけど、色々あって家を出る事になって、アテもなく彷徨ってた所で
 あの変な中年と出会ってしまったのよ。ああ、何で私はあんなのを師事したんだろう」
「その割には全く面識なかったな、俺ら」
  二人は大学で顔を合わせるまで、一度として接点を築いてない。
 それは、マスターなりに思うところがあっての事だったのだろう。
「そりゃ、表の顔と裏の顔って奴じゃない? ロスくんは情報屋としての師匠と接した事あるの?」
「ないな。不必要に俺を見つめ続ける中年のマスター、以外の顔は知らない」
「何? あいつ変態だったのか?」
「冗談でもそう言う事を言っちゃ駄目だよ。お世話になってるんだから」
  良識のウォルトと言う二つ名が誕生しそうな勢いだった。
「まあ、年端も行かない女の子に情報屋のノウハウを仕込む時点でまともじゃないかもね。
 隠密や一通りの護身術も習ったし」
「万能教師だな」
「伊達に長く生きてないって事だろう」
  本人にしてみたら褒め言葉とは受け取らないであろう発言をしつつ、アウロスはつまみ用の
 ガーナッツをポリポリつまむ。この酒場の繁盛している理由の一つに、つまみが充実している
 と言う要素があったのだったが、それは健在らしかった。
「とまあ、そんな訳で、私が情報屋として一本立ち出来たのは、一応あの中年の
 お陰なのでした……って話」
  何故か拍手が起きる。発表会の予行練習のような雰囲気だった。
「アウロスくんは、そう言うのは何も習わなかったの?」
「興味なかったからな」
「戦闘に関しちゃ、この男が習う事なんて殆どねーしな」
  実際はそこまでの技術は今も持っていない。アウロスは特に肯定も否定もしなかった。
「さて、そろそろ寝るか。ウォルトは明日会場の下見に行かなきゃならないんだろ?」
「うん。そこでミスト教授達と落ち合う事になってる」
  今回の論文発表会における【魔術編綴時におけるルーリング作業の高速化】の論文を
 発表するのはミストだが、技術的な部分の補足を必要とする可能性を考慮し、連名者も
 参加するようになっている。勿論、そこにアウロスの名前はない。
「いい気なもんだよな。部下の論文を自分の書いたもんとして発表すんだろ?
 詐欺じゃねーか。天才が聞いて呆れらあ」
「ホントよね。顔だけじゃなくて性根も腐ってやがったのねー、あいつ」
  特に酒が入っている訳でもないが、その場にいない超強面の男に対する非難が続く。
「でも、彼がいなかったらアウロスくんの研究が日の目を見る事もなかった。それに、部下の
 研究成果は上司の研究成果でもある。この構図は研究環境の在り方を鑑みた場合、
 決して動かしてはならない事なんだ」
  良識のウォルトがそれを諌めると、不遇の張本人であるアウロスもそれに同意を示した。
「あの男は覇王への道を突き進んでる。その中で、アウロス=エルガーデンの研究をどう使うかと
 考えた結果、教会への貢物ってのがベストだと踏んだ。実際、教会の中にはオートルーリング
 の効果を肌で感じてる奴がいる。喰い付きは抜群に良いと読むのは間違いじゃない」
「教会? 貢物? どゆ事?」
「ミストはほぼ間違いなく教会と癒着してる」
  アウロスの発言に、ウォルトが目を見開いて驚きを表現する。他の二人は特にその
 必要性を感じなかったようで、キョトンとした面持ちで聞いていた。
「ついでに、例の襲撃事件もあの男主導だと俺は踏んでる」
「マジかよ。だってありゃ、ドラゴンゾンビの取引をリジルって野郎が俺ら使って荒らしたんだろ?
 どっちかってーとミストって奴は被害者じゃねーのか?」
「ところが、リジルはそのドラゴンゾンビをあの場で処理した。役割を終えたと言う理由で。それは
 つまり、保護対象ではなく餌だったって意味だ。そして、役割を終えた餌は処理された」
「餌……? ってか、話が見えないんだけど。そもそも何でミストはロスくんの研究を教会に
 貢ぐのさ?」
「繋がりを得る為だ。足懸かりと言っても良い」
「下手に市場に出して金儲けするより、教会に売り込んだ方が後々色々と都合が良いってか」
  ラインハルトから吐き棄てられた言葉にアウロスは首肯した。
「でも、ロスくんはそれで良いの?」
「俺はアウロス=エルガーデンの名前を残す為に生きてる。当然、今のままじゃそれは無理だ」
「だよねー。だからこんな辺鄙な所まで来てるんだしね」 
  そのやり取りに、ラインハルトが身を乗り出してくる。
「じゃ、そろそろ聞かせろよ。何をどうやってこの状況から一発逆転を狙うんだ?
 全く考えなしっで訳じゃないんだろ?」
  数日前とは違い、本番まで既に二日を切っている。
 この状況で何も考えていないと言うのは、アウロスの性格上考え難い――――
 それがアウロス以外の三人全員の総意だった。
「……まあ、一応」
「どうすんの? 発表会の途中で殴り込んで『それ自分のっす!』ってアピールするってのが
 今の所一番人気なんだけど」
「賭けの対象にするな」
  しかもやたら原始的な方法が一番人気と言う事にアウロスは少し凹んだ。
「事前に話して、それが漏れても困るからな。終わってから話す」
「まあ、お前ならそう言うと思ったけどな」
「非難出来る立場じゃないしー。仕方ないか」
「悪いな、グラディウスさん」
「ほ、本名!? 本名で呼ばれた!? こ、これって……微妙な関係の男女間の忙しない
 日常の中の一ページに良くある『ロマンスの始まり』って奴!?」
「お休み」
  一人だけ女性のラディは別室へと追い出された。



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