――――別れは唐突に訪れた。
「ねえ、起きてる?」
  少年の声に、応えが返って来ない。
  どれ程大声で叫んでも、元気を分けて貰えるようなあの明瞭な声は返って来ない。
  初めはふざけているのだろうと思い、拙い知識をフル稼働させて、声を引き出そうと
 試みた。しかし結果は変わらなかった。
  声が消えたその日から、少年は寝るのが怖くなった。
  夢を見るのが怖くなった。
  少年の夢。
  縦縞の闇を眺める毎日から抜け出し、光の射す白い世界へ旅立つ――――
  それは、目的へと昇華した筈の、形なき幻想。それが、日に日に薄れて行く。
  怖かった。
  まるで始めてこの場所に来た時のような感覚が、少年の呼吸器を締め付ける。
  忘れた筈の苦しみが襲ってくる。
  自分を蝕む魔術も徐々に身体と脳に浸透し、日課である激痛との付き合い方も覚え、
 感覚的ではあるが生きる事に可能性を見出せるようになった。
  当時より遥かに楽な就寝の筈だった。
  しかし、同じ場所で同じ志で頑張ってくれたあの声は、もうない。
  重ねた時間が空虚で無意味ではないと実感出来るあの声はもう届かない。
  憧憬は遠くへと消え去った。
「ねえ! ねえっ!」
  少年は吼えた。叫んだ。
  力の限り、訴えた。
  自分を救ってくれた声の在り処を知る為に。
   しかし、奴隷に声はなかった。唯の音に耳を傾ける人間も、そこにはいなかった。
  少年は、再び独りになった。
  皮肉にも、それから暫くして――――少年の夢は、叶った。
  何処までも広がる蒼い空は、弱った視力を癒してくれた。
  澄んだ空気は、瀕死だった細胞を蘇らせてくれた。
  それなのに、誰も祝福してはくれない。
  外は戦場だった。
  少年は、戦わなくてはならなかった。
  敵を粉砕する為の使い捨ての武器として、その身を利用される事になった。
  少年は、死ななくてはならなかった。
  何処までも広がる紅い空は、血の色を滲ませていた。
  淀んだ空気は、夢を腐らせた。
  それなのに、誰も勇気付けてはくれない。
 
  外は――――戦場だった。




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