その日の夜。
 相も変わらず手を付ける気になれない『応募03』のフォルダを閉じ、溜息一つ。
 その代わりに手にしたのは――――机の中に入れていた、羽根ペン。
 久々の感触は、やはり通常のペンとは明らかに異なっていた。
 描いた事が具現化する夢のような道具『リアライザー』。
 しかしそれもまた、別の人間の妄想が具現化した産物だった。
 先刻の、出水の話が真実ならば、と言う条件付きだが。
 忍にとって、今のこの状況は非常に不安定だ。
 リアライザーの元ネタである『3Dブレーカー』の制限が、そのリアライザーと同様ならば、明日以降も常識の範囲内に収まる行動に興じる事となり、安全は保証される。
 寧ろ、不慮の交通事故などの心配が殆ど要らない分、安心だ。
 だが、確実にその制限が適用されている保証はない。
 今後、今以上に無茶な行動を強いられる可能性は十分にある。
 出来れば、3Dブレーカーの所持者を突き止め、自分を現在の呪縛から解き放ちたいところ。
 そう言う意味では、出水との共同戦線は寧ろ願ったり叶ったりだ。
 が――――堂園出水と言う人物の胡散臭さは、どうしても拭い切れない。
 利用されるだけ利用されて、最悪な方向へ持って行かれるんじゃないか、と言う不安は徐々に大きくなって行く。
 こう言う苦難の時に、必要なのは、仲間。
 だが、忍には友達と呼べる人間は、いない。
「……」
 いないが、一人だけ仲間になり得る人物の心当たりはあった。
 昨日は学校に来ていたかどうかもわからない程、姿の見えなかった女子。
 その携帯へコールすべく、電源を入れる。
 読書中は電源OFF。
 基本だ。
「うおっ!?」
 何気なく着信履歴を開くと、そこにはズラーッと、同じ登録名の着信が画面いっぱいに並んでいた。
 初めての体験だが嬉しい筈もなく、緊張しながら決定ボタンを押す。
 五秒、十秒――――
「……もしもし」
 呪言のような名夕の声が、携帯から発せられた。
「寝ていた、と言う解釈で良いんでしょうか? それとも、何コイツうぜーシカトだシカトうわコレで何度目だよマジしつけー(笑)あれ間違って出ちゃったよ、的な?」
「違うっつーの。お前、なんか日に日に性格がやつれて行ってんな」
「……性格がやつれる。この表現は、ちょっと良いですね。メモメモ」
 名夕は、冗談なのか本気なのか判断し難いテンションで、少し間を置いた。
「お前さ。今日、つーか昨日は部室来なかったよな。学校休んだ?」
「いえ、そう言う訳では。ただ、用事があって部室には行きませんでしたが」
「……描写を省かれたのか」
 忍の言葉に、名夕は首を捻る――――かのような間を作った。
「それで、何か進展はありましたか?」
「あった……って言うか、新事実発覚。やっぱり俺ら、描かれてた」
「んくっ」
 息を呑む声。
 衝撃だったらしい。
「だ、誰がそんな残酷な事をっ」
「わからん。明日から、それを調査する事になった。んで、協力して欲しいんだけど」
「……私に?」
「そう」
 忍の短い返答の後――――放送事故レベルの沈黙が続いた。
「いやいや、迷う事じゃねーだろ。お前も俺も、今のままじゃ不安続きの毎日だぞ? いや、日中は勝手に演じてるから感じもしないけどさ。このままじゃ、今日も寝れないだろ?」
「そ、それは確かに……」
「別に化物とか悪魔と戦うんじゃないし、取って食われるワケでもねーんだから」
「でも、相手は私達の日常を意のままに操れるんだから、日中に見つける事は不可能です。真夜中に限られた中で、どうやって見つけるんです?」
 名夕の指摘は正論だった。
 だが、忍の顔には笑みが浮かぶ。
「そこで、別の協力者の出番だ」
 そして、その人物とのやり取りを掻い摘んで話した。
「……3Dブレーカー……監視者……犯罪の抑止……メモメモ」
「メモってどうすんだ」
「何となく使えそうだったので。と言うか、現実にこんなファンタジックな事が起こるなんて、ビックリですよ。少しテンション上がりますね」
「上がるのは良いけど、話の内容はちゃんと理解してるよな?」
 不安に駆られた忍に、携帯越しの名夕は『バッチリです』と肯定の意を示した。
「その堂園と言う、反生徒会勢力の代表者は、リア……3Dブレーカーの干渉を受けないんですよね」
「ああ。理由はわからないけどな」
 詳細な説明はなかったが、日中に忍を呼び出した時点で、その事は明白だった。
 それが、『管理側特有の対策によるモノ』なのか、『3Dブレーカー所持者の物語の登場人物ではないから』なのかは不明だが。
「だから、日中の捜索は連中がやる。俺等に出来るのは、登場人物として過ごす日中を今の時間帯に回想して、不自然な点とか、手がかりになりそうな事とかを見つけて、それを堂園に報告する、くらいだ。だから明日はちゃんと部室来いよ」
「……怖いですけど、ガンバります」
 それは、名夕が仲間に加わった事を意味する言葉だった。
 忍は思わず胸を撫で下ろす。
 自分と同じ立場、同じ心情の人間が他にもいると言うだけで、それは大きな救いだった。
「で、現時点で怪しいと思うヤツ、いる?」
「刹那さんです。明らかに彼女中心に回っていますし。私は自分の意思で敢えてそうしていると思っていたんですが……」
 名夕の見解も、忍と同様。
 だが、その可能性は薄いと、出水に指摘されている。
「他には? 俺等と接点のある連中だと、他には億川とか……生徒会の連中とか」
「生徒会?」
「ああ、お前は昨日来てなかったから、あの騒動は知らんのか」
 その後、盗聴騒動をはじめ、昨日の事をあらためて説明し――――その夜は特になにもなく、静かに更けていった。


 翌日。
「今日は刹那コーポレーションの入社式と就任式だから、向こうの本拠地に行くわよ」
 登校した忍の耳に届いた朱莉の第一声は、やる気に満ちていた。
 代表就任が溜まらなく嬉しいらしい。
「ヒロインが学生で社長……これって結構、斬新じゃない? 中々ないと思うんだけど、どう? こんな展開、三流小説家は想像すら出来ないと思わない?」
「寧ろ、切羽詰まった小説家が考えた色モノ路線って感じしかしないが」
「浅はかね。色モノ路線だったら、色々設定とか面倒なこっち方面じゃなくて、ファンタジックな方向に行くのよ。王道でも色モノでもない、それでいてキャッチー! それが今の私。ちゃんと放課後空けときなさいよ!」
 フフンと鼻で笑い、朱莉は自分の席へと戻って行った。
 忍に見せる尊大な態度や奇妙な言動は、授業中に発揮される事はなく、現時点においては、クラス内で浮いている様子は微塵もない。
 変な髪型の女子、程度の認識となっている。
 何より――――
「はーぁい! 今日もゲンキにホームルーム、はじめるわよぉーん♪」
 担任がオカマなので、多少変な要素があっても、コッチに全部持って行かれる。
 そう言う意味では、朱莉にとって動きやすい環境が整っている、とも言える。
「……入社式って、学生服で良いのか」
 とは言え、今の忍にそんな洞察など出来る筈もなく、目の前の不安に頭を抱えながら、オカマの話を聞き流していた。
 そして、あっという間に放課後。
「と言うわけで、我々【(資)ASC】は本日より、(資)刹那コーポレーションとなります。その代表取締役は、ボクから刹那朱莉さんへ移りますので、これからは刹那さんに従って下さい。あ、就任挨拶とかします?」
「当然」
 不敵な笑みを浮かべ、朱莉が教室前方へと向かう。
 その様子を、出水以外の元【ASC】職員は堅い顔で見送っていた。
 そして――――
「刹那コーポレーションの代表に任命された、刹那朱莉です。宜しく。それじゃ早速、これからして貰うコトを言うから、しっかり覚えとくように」
 抱負も心構えもなく、朱莉は要点だけを簡潔に述べた。
「一つ、生徒会撲滅。一つ、理事会制圧。一つ、学校の統治。以上」
「……は?」
 忍の顔が曇る中、朱莉は口角をニーッと上げる。
「私はこの甲乙高校の支配者になる!」
 高らかに唱えられたそれは――――ギャグでもなんでもなく、全力の本気宣言だった。
「でも私は、『下僕共、私の為に働きなさい』みたいな、王道の傲慢キャラじゃないから安心して。ちゃんと歩合給にするから、自分の為に働きなさい」
 これにて就任挨拶は終了。
 朱莉は満足げに引き返して行った。
「あ、あの……私達、これからどうなっちゃんでしょうか……」
「……」
 元【主な登場人物】の面々は、オロオロするばかり。
 そんな中、忍は一人、元【ASC】の連中に視線を向けていた。
 今後新たに仲間となるのは、出水の他、男女一名ずつ。
 いずれも無表情で、明らかに不機嫌だった。
「それじゃ、こっちも自己紹介しておこうか。ボクは堂園出水。彼は取締役の四十万譲(しじま ゆずる)。彼女は専務の百崎薫子(ももさき かおるこ)。役職は据え置きと言うコトで話はまとまってるんで、宜しく。さ、挨拶して」
 出水の紹介の後、二人は同時に立ち上がった。
「ご紹介に預かりました、四十万譲です。皆様のお役に立てれば光栄です」
「百崎薫子。人数増えるの死ぬほどウザッたい。出来れば死んで欲しいけど、死亡退職だと年金とか葬儀の手続きが面倒だから生きて」
 両極端だった。
「って言うか、女子の人の今のはダメだろ。ウチの代表よりヤバいぞ」
「ははは、彼女は少し変わっててね。ツンだけでデレないから、困ってるんだよ」
「へえ。それは丁度良いわ。ウチのソラりんに、ツンの神髄を教えてやってよ」
 早速無茶ブリをする代表取締役に、薫子はツーンとしていた。
 まさに神髄。
 忍は今後の学校生活に不安を覚えつつ、溜息を落とした。
「で、具体的な活動はもう決めてんのか?」
「モチのロン。ってワケで、ホワイトボード……はないんだったわね。ソラりん、それ貸して」
「? ? !?」
 哀れ、絵空はコミュニケーション手段を没収された。
「ちょーっとちっちゃいケド我慢してね。私達の第一目標は生徒会撲滅だから……まずは生徒会を潰す方法をみんなで考えましょう」
 ホワイトボードに書かれた『生徒会』と言う文字の上に、幾つものペケ印が重ねられる。
「コイツ等はこの学校の諸悪の根源だから、一刻も早く潰す必要があるわ」
「そ、そんなに悪いんですか? この学校の生徒会って」
 怯え気味に聞く名夕に、最も早く反応を見せたのは――――譲だった。
「Exactly(そのとおりでございます)」
「あっ、露骨にパクった」
 忍のそんな指摘は優雅に放置され、生徒会の悪行が事務的に解説されて行く。
 そこには、忍達の想像以上の内容が詰め込まれていた。
 甲乙高等学校、生徒会には、表の顔と裏の顔がある。
 表の顔は、規則に厳しく、取り締まりがキツい、余り生徒から良く思われていない生徒会。
 そして、裏の顔は――――
「……生徒の売買だって?」
「そう。優秀な生徒を一〜二年の時点で大学、そして各企業に『売る』。簡単に言えば斡旋だね」
 それは、まるで社会派推理小説にでも使われそうな、キナ臭い話。
 生徒会は各生徒の学力と将来性、更には性格、適正までチェックし、それを名簿化。
 そしてそれを、各大学、企業へと売る。
『ゆとり教育』の弊害で、中々優秀な人材が生まれなくなったと嘆く大学や企業にとっては、学力以外のステータスを知る事が出来る上、青田買いも可能なタイミングで情報を得られるので、かなりの実益となる。
 一方、意中の大学、企業へ就職したい生徒からもリベートを受け取り、評価に一筆加えるなどのセコい収入も得ているとの事。
 その為、、一握りの優秀な生徒からは、絶大な支持を集めている。 
「そ、それって、確かな話なんですか? 本当なら警察沙汰なんじゃ……」
 名夕の尤もな指摘に、譲は執事ばりのキリッとした顔で頷く。
「本来なら、仰る通りです。しかし、彼等はその売り上げの一部を理事会に回して、強力なコネクションを作っています。理事会には地元の権力者もいますからね」
「聞けば聞くほど話が大きくなって行くな……俺等でどうこう出来る話なのかよ」
 忍は、怯える絵空を心配そうに眺めつつ、誰にともなく呟いた。
 反応しいたのは、出水。
「だからこそ、法人化してるんだよ。単なる高校生の集団が告発しても、相手にもされないんだから」
 会社には信用がある。
 それが例え学生だろうと、そこには法律で守られた信頼が存在する。
 そしてそれは、法人化でなければ得られない類のモノだ。
「ま、地元の権力者まで巻き込んでるんじゃ、そうでもしないと対抗できないのか」
「そう言う事。それでも中々尻尾を掴めなくて困ってたんだけど、そこに来て生徒会の弱味を握ってるって人達が現れたとなれば、心強いよね。出来れば、そろそろ教えて欲しいけど」
 出水の視線が、朱莉へと向く。
 程なく、その口が横へニーッと広がった。
「アイツ等、私達の部室を盗聴してたのよ。状況証拠は揃ってるから、間違いないわ」
 ビッ、と指を立てながらの答え。
 それに対し、出水の顔は――――少し失望の色を滲ませていた。
「盗聴、か。確かに連中ならやりかねないね。でも、弱味としては弱いかな。不法侵入が成立しない校内では、犯罪としての立証は困難だ」
「チッ、チッ、チ。甘いわね、元代表取締役。トコロで貴方は今、どう言う役職?」
「そうだね……取締役社長にでもなる予定だけど」
「は? 社長は私でしょ? 代表取締役なんだから」
 顔をしかめる朱莉に、出水は肩を竦め、苦笑いを浮かべた。
「会社の肩書きってのは、どうにもややこしくてね。取締役社長と代表取締役は別の役職だし、兼任も出来る。代表取締役社長、なんてのもあるんだよ」
「そんなコトはどーでもいーの。エライのはどっち?」
「キミ。ボクには代表権はないからね。社長って肩書きが不満なら、あげる。副社長でも問題ないよ、ボクは」
「おっけ。その意見頂きました。これから私は代表取締役社長ってコトでよろしく」
 単なる現役女子高校生が、分単位で出世していく様を、忍は終始ジト目で眺めていた。
「で、副社長。重要なのはね、連中が盗聴してたコトじゃないのよ。こっちも盗聴してるってコト」
「……はい?」
 それまでずっと余裕をカマしていた出水の顔が、初めて驚きを表した。
「当然でしょ。目には目を、刃には刃を。それが私のモットーの一つなんだから」
「なんかニュアンスが違う気がするな」
 忍の茶々は無視し、朱莉はギラリと八重歯を見せた。
「仮にバレても、先にやってるアイツらに非難される謂われはないから、ヌルゲーってモノよね。電池式のショボいヤツだから、稼働時間はせいぜい二日分ってトコだけど、少しくらいは弱味になるネタ、呟いてくれてると思わない?」
「……驚いたね。そこまでエキセントリックだったなんて」
「考え直したか?」
 最早瞼の四分の三を閉じている忍の問いに、出水は首を横へ振った。
「正解だったよ。ようやく、閉塞状態から脱するコトが出来そうだ。回収はもう終えてるのかな?」
「仕掛けたのは昨日だから、これからよ。昨日の今日でまた私が行くと、バレかねないから、アンタかそっちの部下が行って。仕掛けた場所は教えるから」
「了解。ボクと譲が行こう。良いね?」
 名指しされた譲は、恭しく一礼し、了承の意を示した。
「後、コッチの部下の役職も教えといて」
「誰が部下だ」
「会社なんだから、当然でしょ? 私代表。その他が部下じゃなくて何なの」
 圧倒的に正論だった。
 忍は思わず眉間に皺を寄せ、唸る。
 部長と部員、社長と部下では、まるで立場が違う。
 水面下では彼女候補の時期もあった女子は、気付けば上司になっていた。
「こっちとしては、一律で取締役にしようかなと」
「面白くない。良い? 物語の基本はね、色んな役職、色んな役割を持ったキャラが集まるコト。これがキャッチーなのよ。でも、その役職をありきたりにしたら、王道一直線。ここが腕の見せ所よ。私に任せなさい」
「仰せのままに」
 特に関心もないらしく、出水は朱莉へ丸投げした。
 名夕と絵空の顔が、同時にサッと青褪める。
 これから起こるであろう、惨劇に絶望して。
「……ん。じゃあ、なゆなゆは秘書、ソラりんは愛玩」
「秘書、ですか……ホッ」
『あいがんって何ですか?』
 胸を撫で下ろす名夕とは対照的に、絵空は不安げに忍に問う。
「……ペット」
『あんまりです!』
 そして怒った。
 無口キャラだが、暗くはないらしい。
「フフン、良い感じね、ソラりん。そう言う感情をドンドン自分の中で溜め込んで行きなさい。そうすれば、ヤン要素が膨らんで行くのよ」
「ヤンデレのヤンって、そう言うモンじゃねーと思うんだけど……」
「そんな無粋なツッコミをしてくる、遠藤。アンタはクレーム処理係ね。各方面からのクレームにしっかりツッコミを入れて頂戴」
「フザけんなっ! そんな役職誰がやるかっ!」
「さて。決めるコト決めたし、今日は解散。副社長、例の件ヨロシクね」
 魂の叫びは無視され、朱莉は代表らしく優雅にパソコンだらけの部室を後にした。
「さて……では譲、行くとしようか」
「承知しました」
 二人も去る。
 残された忍、名夕、絵空の三人は、奇妙な脱力感を抱きつつ、お互いに顔を見合わせた。
「……なんか、とんでもないコトになってきたな」
「そうですね……どうしましょう」
『あいがんはヤです』
 そして三者三様に、発展性のない不満を漏らす。
 そして同時に、自覚せざるを得ない。
 自分達がいかに、主観性のない生き物なのかを。
【主な登場人物】とは言っても、物語を突き動かす人物がいなければ、一向に先へは進まない。
 進行役なんて、何の役にも立ちはしない。
 忍はひっそり、そんな現実を嘆いていた。
 そして同時に、今後の身の振り方も考える。
 彼女を作りたい――――そんな目標で、流されるままに刹那朱莉の言う事を聞いてきた。
 そして実際、数名の女子と知り合いになれた。
 そう言う意味では、既に一定の目的を果たしている。
 仮にここで、会社への加入を拒んでも、名夕や絵空とは知り合いのまま。
 朱莉は失望するだろうが、既に『彼女』の候補から外れている以上、デメリットにはならない。
 ただ、この二人を今後も彼女候補として行く場合、行動を共にする必要がある。
 特に絵空は、同じ学校ではない以上、どちらかが辞めれば縁は切れる。
 ただ、それ以前に、一つの問題があった。
 高校生が、中学生を彼女にする。
 良くある構図だ。
 良くある構図だが――――何故か、卑猥な響きがある。
 年齢も一つしか違わないのに、そこには妙にデカいハードルがある。
 忍は、その高さに怯えていた。
 一方の名夕も、何処か常人とは言い難いトコロがある。
 偶に見せる、何処かキワモノ的な発言が、引っかかりを作っていた。
「……で、何時までそこにいる気? 邪魔なんだけど。人のお荷物になるくらいなら、デリートされるべきだと思わない?」
 そこで忍は、ようやく気付く。
 もう一人残っている事に。
 元【(資)ASC】、百崎薫子。
 ひたすらツンと言う紹介に偽りなし、と言った言動で、三人を牽制して来た。
「ツンのみ、かあ……」
 女子である以上、彼女候補の一人。
 忍は、自分にマゾ属性がないか、探した。
 超探した。
「……ないなあ」
「え? 一体何がないんですか?」
「こっちの話。まあ、邪魔だってんなら出てくけど」
 名夕に首を振って見せた後、忍は視線を薫子へと向けた。
 少し細めの目と、しなやかな指が特徴的なその姿は、ヒロインと言うよりは、サブヒロイン。
 髪型も、ヒロインにはし難いワンレングス。
 だが、そこが良い――――というのは忍の心の談。
「そうして。薫子ちゃん、目の前でグチャグチャ言われるの嫌いだから」
「……………………薫子ちゃん?」
 三人の目が、同時に点になる。
「薫子ちゃんですけど、何か?」
「い、いや……何でもないです」
「だったら、チンタラしてないで、とっとと消えて。馴れ合うのは見てるだけで鬱陶しい。出来れば即日退社しろ」
 何処までも冷たい声――――のハズだったが、忍はヘコヘコとそれに従い、情報処理教室Cを後にした。
 そして、心中で呟く。
「デレてはいない。デレてはいないけど……イケる!」
 自分を名前で呼ぶ女子は基本的に嫌いな忍だったが、ツンキャラがそれをやると、アラ不思議。
 妙な萌えポイントの誕生だった。
「と言う訳で、俺は明日からも頑張るけど、二人はどうする?」
「な、何が『と言う訳』なのかサッパリわからないんですが……乗りかかった船なので、しばらく様子を見ようかな、って」
『私もガンバります。でも、あいがん、はヤなんで、変えてもらいたいです』
 結果、一人の離脱者もないまま、『刹那コーポレーション』はその活動を開始する事となった。







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