これまでのあらすじ。

・描いた事が具現化する(でも限定事項多過ぎな)羽ペンを拾った

・その羽ペンで、かわいい恋人が出来る物語を描いてみた

・なんか描いた通りの展開にならないと思ったら、俺自身が他のヤツに描かれている物語の一部だった

・その他のヤツがスランプで物語を描けなくなった日に、物語中のヒロインが好き勝手動いて話を変な方向に動かした NEW01.GIF - 365BYTES


「……」
 入学してから昨日までの展開を四行でまとめた忍は、この中身のない数日間を猛省しつつ、改めて自分の目的を顧みる事にした。
 当然、最大の目標は可愛い彼女の確保。
 とは言え、現状ではこれを能動的に成就させる事は難しい。
 今の忍は、名夕の描く物語の一登場人物に過ぎないのだから。
 決定権は全て、名夕にある。
 だが――――
「たった一日で、こんなに展開が変わるなんて……現実って怖い。怖いです。もう嫌です」
 その創造主は、空白の一日で心が完全に折れていた。
「いや、そこまで悲観しなくても」
「しますよ! もう現実は、私の構想を遥かに逸脱してるんです! ここから新しい展開を考えるなんて、出来ません! わーん!」
 そして、投げた。
 まるで『不人気故に、用意していた展開を軌道修正せざるを得なくなった連載作家』のように。
「もうダメです……だから現実って嫌。嫌いです。思うようにならないし、イライラするし、自律神経が乱れるし……ストレスが爆発します」
「落ち着け。こう言っちゃ何だが、ヒロイン同士でウダウダやる展開よりは今日のがマシだと思うぞ」
「……」
 切れた。
 電話も、名夕の堪忍袋の緒も。
 この状況では、明日――――日付的には今日という事になるが、この日も『空白の一日』になる可能性が高い。
 そうなれば、忍にとっては好機と言える。
 リアライザーは名夕の生み出した物語内のアイテムなので、名夕の物語なくして、具現化作用は生じない。
 だが、少なくとも、名夕の用意したシナリオ通りに動く事はない。
 行動次第では、初心の『恋人ゲット』を達成する事も可能だ。
 ならば、そのシナリオを描くのみ。
 それを描いたからと言って、その通りに現実が動く訳ではない。
 だが、自分をその通りに動かす事は出来る。
 そう言う意味では、自分限定のリアライザーだ。
「ようし……俺はやってやるぜ。完璧なシナリオを用意して、彼女を作ったるわーーーーーーーーっ!」

 ――――と、親の車中で声高に叫んだ二時間後。

「うわああああ、もうダメだもうダメだ」
 当然のように何も思いつかず、忍は絶望していた。
 所詮、単なるファンタジー好きの素人。
 一日で恋人を作ると言う、恋愛小説家であってもハードル激高な物語を、そう都合良く思い浮かぶ筈もない。
 それに、仮に思いついたとしても、名夕がこの深夜間にスランプを脱していた場合、全てが無駄になる。
「……そう考えると、真剣に悩むのがバカらしくなってくるな」
 自分の運命を知りたい――――と願う人間は、ごまんといる。
 だが、それを知って尚、努力しようと言う気になれる人間は、恐らく皆無。
 努力やモチベーションは、成果が期待できるからこそ生まれるモノなのだから。
 忍はそんな『努力の素』を一人の同級生に握られている現状を嘆き、机に突っ伏した。


 翌日。
「……」
 まだキャラの固まっていない絵空が、『こんにちは。』と書いた携帯用ホワイトボードを手に抱え、ニッコリと微笑んでいた。
 尚、今日はメガネはしていない。
 可変型なので。
「こんにちは。って言うか、良いの? 中学生が高校に入り浸ってたら、変な噂立つぞ」
 実際、既に立っている状態だったが、絵空はプルプル首を横に振り、『しばらく、ここでがんばってみます。』と書いた。
 それが何を意味するのか、忍には理解する術もなく――――当人の意思を尊重するしかなかった。
「さて、これで全員揃ったわね。さっそく今日の議題を提唱するわ!」
 ビシッ、とホワイトボード(大)を叩く朱莉の顔は、いつにも増して活き活きしていた。
 そして、その手の先には、『打倒! 生徒会!』と荒々しい字で書かれている。
「その前に、一つ質問があるんだが……何で生徒会を敵視してんだ? 昨日何かあったのか?」
「いい質問ね。この因縁には、イソップ物語より深い事情があるのよ。心して聞きなさい」
 朱莉は怒り笑いの顔で、その理由を語り始めた。
「生徒会は、王道! 反生徒会勢力なら、王道を外しつつ、ポップでキャッチー!」
 語り終わった。
 五秒で。
「あ、あの、それで敵対するのは、いくらなんでも……」
「勿論、大義名分は用意しているわ。コレを見て貰おうかしら」
 恐る恐る反論する名夕の前に、アンケートの束が積まれる。
『生徒会支持率調査』と言うタイトルの。
「こんなコトもあろうかと、ヒロインアンケートと一緒に採っておいたんだけど、支持率二十八%! こんな不支持生徒会、ぶっ壊すのが学校の為になるってモンでしょ!?」
「二十八%……? そんなに低いのか?」
 内閣支持率でも、三〇%未満は危険水域。
 生徒会でその数字は異常とも言える。
「一番の理由は、『取締りが厳しい』。二番は『コードネームがキモい』。三番が『キャラ作りがウザい』」
「ああ、確かに」
 納得の理由だった。
「と言う訳で、私達『主な登場人物』は、反生徒会を前面に出して行くから。あ、そろそろ略語を作っとこうかしら。『朱莉部』辺りが妥当?」
「勝手に色々決めんな! つーか、独裁色強過ぎだろ!」
「そう? 主と朱をかけて、良い感じなのに……ソラりんはどう思う?」
 突然振られた絵空は狼狽を隠せず、ビクっとした拍子にホワイトボード(小)を放り投げ――――
「いぎっ!」
 その角が忍のこめかみに直撃した。
「! ! ! !」
 突然の傷害事件発生に、加害者はパニック状態。
 一方、朱莉はガッツポーズを繰り返していた。
「ソラりん、偉い! 見た? これがツンとヤンを兼ね備えた、次世代ヒロインのあるべき姿よ!」
「どこがツンだよ! ツンどころか刺さってんだよ!」
「ああっ、遠藤さんの側頭部から流血が……保健室、保健室!」
 絵空が狼狽え、朱莉が歓喜し、名夕が駆け出す。
 場は荒れに荒れた。
 だが、色々あって直ぐに収束。
「……略語は発信側が考えると、ロクな事にならないから。自然発生するのを待て」
 包帯グルグル巻きの頭部を摩りながら唱えた忍の持論に、反論はなく。
『主な登場人物』は略語なしで進行する事になった。
「で……反生徒会勢力になったのは良いとして、どんな活動をするんでしょうか」
「え、決定事項なの、それ……」
「当然。今、私達に必要なもの……それは何だと思う?」
 突然の質問に、思わず眉間を狭める忍に対し、朱莉はフフンとドヤ顔で口元を緩めた。
「わかってないようね。それは……敵! それも巨大な敵! 敵がいれば、結束は深まるし、目標も明確になるでしょ? なによりキャッチーだし」
「キャッチーか?」
 ジト目の忍を余所に、朱莉はホワイトボード(大)にドンドン活動内容を書いたコピー紙を貼り付けて行く。
 その一番上には、先日忍がチラッと目にした『シーン四一』が貼られていた。
「と言う訳で、今日私達がすべき行動はコレ。『シーン四二 生徒会の悪事を暴け』! ズビッと行くわよ!」
「色んな過程ををすっ飛ばしすぎだろ……」
 ある意味、先進的ではあった。
「と言うワケで、今から潜入捜査に行くんだけど、五人それぞれに任務をちゃんと用意してるから、しっかり見て覚えてね」
 そんな、超独裁的な朱莉の進行に、忍以外は特に抵抗する事なく、渡された任務表に目を通す。
「……ったく。これ、下手したら今後の学校生活に相当響くぞ」
 半ば諦め気味に、忍も自身の任務表を眺めた。

『主人公らしく、生徒会の話に対して適度に反抗し、適度に進行せよ』

「……」
 いかにもいい加減な内容だったが、既に朱莉が部室を飛び出していた為、否定も反論も出来ないまま、忍も嘆息混じりに後に続いた。
 そして――――やって来ました生徒会室。
 全く恨みもなければ関わりも希薄な相手に対し、ケンカを売りに行くと言う希有な経験をすべく、『主な登場人物』の面々はその扉をノックし、許可も待たず中へと入った。
「さあさあ、生徒会の皆さん、覚悟なさい! 私達、『主な登場人物』が……」
 間髪入れず、前口上を述べる朱莉に続いて入室した忍の目に、一度だけ見た事のある人物四名と、初対面の人物三名の姿が映る。
 つまり、先客がいた、と言う事だ。
「……そういう事になるね。ま、そっちとしては、余り良い気はしないかもしれないけど、あんまり目くじらを立てないで欲しいね。こっちも仕事なんだから」
 しかも、その先客は忍達の入室に気付きもせず、やや攻撃的な口調で生徒会との対立構造を露わにしている。
 本当の意味での『先客』だったらしい。
「なっ……そんなバカな! 私より先に、パーフェクト学園ストーリーを実践してる勢力があったって言うの!?」
「生徒会室に乗り込む事が何でパーフェクト学園ストーリーに繋がるんだろう」
 説明を求める忍と、それに困った顔を浮かべる名夕、絵空、威良の3人を尻目に、朱莉はぐぬぬ……と歯を食いしばりながら、傍のロッカーを蹴った。
 一方、ようやく新たな訪問客に気付いた生徒会の一人が、まるで助け船が現れたとでも言わんばかりの笑顔で、腰を上げ近付いてくる。
 接近してきたその顔は、生徒会長、犬井我王(仮)のものだった。
「君達は確か、視聴覚室を使っている……」
「あ、え、ええと……すいません、主な登場人物です」
 朱莉が発言できる状態ではない為、代わって名夕が申し訳なさげに告げる。
 当然、意味は通じず、首を傾げられた。
 先客の三人の視線もこちらへと向けられ、暫し妙な沈黙が流れる。
「……そういう名前の部、って事です」
 その空気に耐えられなくなった忍は、苦渋の顔で進行役を務めた。
「部じゃなくてサークル! 初めまして、生徒会長。私がサークル『主な登場人物』の部長、刹那朱莉です。以後、お見知りおきを」
「サークル……? 名前も妙だし……君は一体、何がしたいのかい?」
 初対面で、生徒会長は核心を突いてきた。
「よくぞ聞いてくれたものね。私は、私達に用意された下らない物語を覆すべく、キャッチー且つ捻った裏街道ストーリーを織り成す者。そう、人呼んで……テリスト!」
「呼ばれた事ないだろ……」
 忍のミもフタもないツッコミに、場が凍った。
 そもそも、サークルの面々も含め、朱莉以外は意味が全くわかっていないので、当然の結果と言える事態だ。
「ちなみに、テリストって言うのは、ストーリーテラーのテラーをチェリスト的な風味にしつつ、テロリストから死角(=四角=ロ)を抜いた完璧な革命者である事を意味するダブルミーニングだから。どう? スゴいでしょ? 徹夜で考えたんだから」
「スゴいな。どうせ使い捨てになる呼称にそこまで入れ込む努力はスゴい」
「使いなさいよ今後も! お気に入りなんだから!」
「誰が使うか、そんなパズルゲームみたいな二つ名!」
 生徒会室に乗り込んだ結果、最終的にはメインヒロインと主人公の言い合いが始まってしまった。
 周囲の困惑はピークに達し、物言えぬ絵空が多彩なリアクションで慌てふためく中、その場を納めたのは――――
「良くわからないが……どうも、話をはぐらかされてしまったね。出直すとしよう」
 生徒会を糾弾していた、先客の中の一人だった。
 席を立ち、近付いて来るその顔を見た忍は、思わず目を丸くする。
 着ている服は、忍と同じ学ランと呼ばれる男物の服。
 だが、その顔は――――やはり忍と同じ、女性顔。
 ただ、やや童顔寄りの忍と違い、こちらは宝塚が似合うような、鼻筋の通った麗しき顔。
 前髪も目に掛かるほど長く、まさに『男装の麗人』とも言うべき姿だ。
 朱莉が延々と持論を述べる中、忍はその妙に共感を覚える先客の背中を、ずっと目で追っていた。


 その日の夜――――
「……どうなってんだ?」
 すっかり恒例となった、車中での携帯会話。
 この日は、双方共に狼狽えた状態からのスタートとなった。
「私は昨日も描いていません。と言うか全ボツでした」
「って事は、明らかに……変だ」
 そう。
 昨日は、おかしかった。
 名夕が羽根ペンを使用していない以上、本来なら、二人とも日中から『リアライザー』に関する記憶が残っている状態でなければならない。
 しかし現実には忘れていて、午前〇時に目が覚めたように、記憶が蘇ると言う現象が双方に起こっている。

 つまり。

「あのっ!」
 忍が話す前に、名夕はそれを制止した。
「今から、会えませんか?」
 そんな提案の一時間後。
 誰もいない校舎がひっそり佇む中、校門の前で待つ忍の視界に、私服の名夕が歩いてやって来た。
 パーカーにジーンズ。
 しかも、どっちもやたらサイズが大きい。
「……同類だな」
 自分の服装を鑑みて、忍はそう確信した。
「すいません、お呼び出しして。もう、何と言うか、居ても立ってもいられなくて」
「俺だって似たようなもんだから、それは良いけど……」
 携帯で話すのと、実際会って話すのと、どれほどの違いがあるのか――――という野暮な指摘は流石にNGと判断し、暫しの沈黙。
「……私も、描かれているのかもしれません」
 障子の紙を軽く押すような声で、名夕がその沈黙を破った。
 それは、忍が口にしようとした事。
 名夕すらも、忍のように、誰かに描かれていたシナリオ通りに動いていたに過ぎなかった、と言う可能性だ。
 でなければ、二人共リアライザー関連の記憶を失うと言う事は起こり得ないのだから。
「ま、それが濃厚だよな。でもそれだと俺、作中作中作を描いてたって事になるのか……」
 訳のわからない自分の作品に辟易しつつ、戯けて笑う忍に対し、名夕は――――怯えていた。
「うううう……んくっ」
「ど、どうしたんだよ急に」
「だ、だって……これまで自分が、さも黒幕であるかのように振る舞ってたのに、実は私こそ踊らされていただけなんて……は、恥ずかしいっ」
 そりゃそーだ、と言いたくなる衝動をグッと抑え、忍は苦笑を見せる。
 一応、それなりに気を使って。
「どうよ? 自分の描いたモノが、実は他人様のアイディアだってわかった気分は」
「最悪です……死にたい……いっそ、メンヘルになって死にたい」
 自分で自分の身体を抱きながら、名夕はその場にへたり込んだ。
 それは、忍もつい先日感じた恐怖。
 それだけに、気持ちは痛いほどわかった。
「あの……今まですいませんでした。私、遠藤さんをかなり追い詰めてましたよね?」
「まーね。かなり凹んださ。自分が『コレ』って思ってやってる事、実は全部お前に決められてるんだって思うと、自分の存在価値を疑わざるを得ねえし」
「今の私がまさにそうです。しかも、その虚無感をぶつける相手すら、わからないんですから……」
 そして今、忍もまさにその状態になっていた。
 自分を操っている、自分の人生を描いている人物は、果たして誰なのか――――
「ま、気にしても仕方ないだろ」
「そんな楽観的なっ! 私達、何処かの誰かに運命握られてるんですよ!?」
「そうは言っても、向こうからアプローチして来ない限り、出来る事はない訳で」
 仮にリアライザー所持者が他にいるとして、それを探すのは困難を極める。
 その事自体を覚えているのが、この深夜帯しかないのだから。
「結局、待つしかなかろ」
「……呆れた」
 楽観論を述べる忍に、へたり込んでいた名夕が突如立ち上がり、ズイッと近付く。
「良いですか。私達はこれから、自分の思うような現実を生きられないかもしれないんです。怖くないんですか?」
「でもそれって、普通の事なんじゃ……」
「私達はもう、普通じゃないでしょう!?」
 顔が更に接近する。
「私は、あのリアライザーを拾ってから殆どの期間を、自分が描いたシナリオ通りに生きてこれました。当然ですよね。描いた事が現実になるんですから。そんな事を繰り返せば、それが当たり前になるんですよ。自分の思い通りの展開じゃない現実が、怖くて仕方ないんです。予定調和じゃない現実が!」
 それは――――いわば順応の悪循環。
 金持ちが転落しても、中々昔の生活を止められずに借金を繰り返すと言う、絵に描いたような転落人生の縮図だった。
 今、名夕はそんな状態にある。
 忍もまた、それに近い心理状態ではあった。
「でも、その恐怖は今の時間帯だけだろ? 後は基本、忘れてる訳だし。描かれてる事」
「それは、そうですけど……」
「じゃ、午前〇時の前に寝ちまえば良いんじゃね?」
 何気ない忍のその発言は――――名夕の目をまんまるにした。
「それです! 天才! 遠藤忍、天才!」
「いや、そんなにヨイショされるような事じゃないと思うけど……」
 だが、名夕にとってはそうじゃないらしく、心からの安堵を見せていた。
「助かりました。今日から、日々の生活に睡眠薬を導入します」
「いや、普通に早寝しろよ。生活改善、健康志向」
「そんなの、いらねーです。クソ食らえです。私はノベリストになるんですから。身体壊してナンボです」
「いやいや、それはダメだろ。そもそも、別の進路につく可能性だって……」
「私には、その進路しかありません」
 断言。
 そこには明確な決意――――と言うより、悲壮感があった。
「私、これから自分語りします。今までキャラクターの自分語りは何度も描きましたけど、自分の自分語りは初めてです。少しドキドキ」
「冗長だなあ……」
 作風そのまま、と言おうとしたが、その作風は第三者のモノである可能性が生じている為、口に出す事はしなかった。
 代わりに、耳を澄ませる。
「私は、子供の頃からリアルより二次元に情熱を注ぐ子でした。今時、珍しくもないですけど」
「まーな。俺もそうだし」
「ただ、私の場合……親がそれを許しませんでした。大の二次元嫌いなので」
 二次元嫌い――――余り聞き慣れないその属性に、忍は思わず眉を潜める。
「正確には、マンガやライトノベル全般の、娯楽性の高い創作物への嫌悪ですね。古い考えと言うか、頭が堅いと言うか……ですから、アニメも一切、家では見させて貰えませんでした」
「子供の頃から? それは流石に極端だな……」
「でも、『コレはダメ』って言われたら、逆に燃えますよね。普通。だから、私は燃えました。二次元に焦がれたんです」
 それは、人間の基本欲求。
 好奇心と反発心の合わせ技一本だ。
「気付いたら、人生に友達はいませんでした」
「俺はなんて言えば良いんだろう」
 ただ、それが空しい事ばかりでないと言う事も、忍は知っていた。
「そんなとある日に、ふと悟ったんです。もう、自分は後戻りできないな、って。このまま大人になるしかないって。だったら、二次元で食べていくしかないじゃないですか。でも私、マンガなんて描けないし、アニメーターも無理だし……あ、ノベリストならイケるかも、って思って」
「うわ……ヤになるくらいわかる」
 忍もまた、同じような流れを経て、現在に至っていた。
 尤も、忍の両親は特に二次元嫌いと言う訳でもなかったが。
「でも、そう甘くはありませんね。私の才能は、ネット上のリア充自慢よりも薄っぺらかったんです。遠藤さんも体験した通り」
「いやでも、そのストーリーも実際には、別の誰かの描いたモノなのかもしれないし」
「仮にそうだとしても、『才能のない小説家志望の女子』と言う役回りに私が選ばれた時点で、私には才能がないんですよ」
 リアライザーは具現化する際、性質の近い人間にそのキャラクターを演じさせる。
 この設定が正しいのであれば、名夕の言葉は限りなく真実に近い。
「それでも、例え才能がなくても、私にはコレしかないんです。お話を作って、それを晒け出す。どうですか、って。私が面白いって思ったお話は、どうですか、って。そう言う人生しか、考えられませんから」
「……」 
 まだ十代半ばの二人。
 実際には、他にも沢山の道がある筈だった。
 けれど――――それは世の中の所為なのか、育った環境の所為なのか。
 忍もまた、痛いまでの共感を覚えていた。
「でも、これも私の人生じゃなくて、私を描いている誰かの考えた人生、かもしれないんですよね。しかも高確率で」
「そだな」
「……ホント、死にたくなります」
「そう言う奴は大抵、ホントは死にたくない」
「ですね」
 非生産的な会話は、それでも距離を少しだけ縮め合ったりして。
 結局この日、具体的な対策や今後の指針なんかは出なかったものの、二人にとって悪くない夜となった。




 

                                       2nd chapter  "main characters"

                                        fin.



  前へ                                                             次へ