「ユグドおめぇー何処ほっつき歩いてたんだよぉー! おっ死んじまったと思ったじゃねぇーかぁー」
「心配させないでよ! 移動中に墜落して死んだって思ったじゃない!」
「あーしは盗賊の戦闘に巻き込まれて死んだって思ってたっしょ!」
「ユイはラシル先輩にセクハラして刺されて死んだって思ってたにゃ!」
 
 守人の家へと帰還したユグドを待っていたのは、アクシス・ムンディの面々による大層派手なお出迎えだった。

「ユグドよ。ヌシも年頃の男子故、余りあれこれ強く言いたくはないのだが……女性との連日の無断外泊は感心せぬ」
「本当よ。もっと風紀というものを考えて行動しなきゃ」
「クワトロさんやスィスチさんの言う通りですゆうー! でも無事で何よりでしたなにー!」
「お、おれは別にそんな心配してなかったけどよ……ま、こうしてちゃんと帰ってきたし、別に良いんじゃね?」
「イヤアアアアアアアアアアアア! ユグドのバカアアアアアアア心配しちゃったワアアアアアン! ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 約半数から死亡説を流され、約半数から不本意な誤解をされ、それ以外から地獄の抱擁を受けた事には辟易したものの、それなりに心配して貰っていた事は確からしく、割とそんな単純な事でアクシス・ムンディにおける自分なりの居場所やら存在やらが確認でき、図らずも承認欲求が満たされてしまった。
 そして、そんな中に――――

「わたくしはちゃんと生きて戻って来ると信じてましたわよ! 我がリンセス家に代々伝わる『歓喜の舞』をご覧あそばせ!」

 普段と何一つ変わらない様子で、踊りを舞うフェムの姿があった。

 彼女は故郷である美術国家ローバへ帰ると言い、暫くアクシス・ムンディを離れていた。
 しかしそれが真実ではない事を、ユグドはもう知っていた。

 商業国家シーマンの富豪に売られたという証言から察するに、帰る場所は恐らくそこ。
 シーマンの王女パール=チャロアイトと親しくしているのも、そういった事情あっての事だろう。
 パールやその母エメラがその事情やフェムの実情を知っているか否かは不明だが。

 今回の事件の当初、エッフェンベルグ人の盗賊団が守人の家を襲った。
 帰りの道中、ラシルはリュートを操縦しながらその件に触れ、『妾とエッフェンベルグの盗賊団を接触させ、国宝を売ろうとしているという疑惑が正当なものと示したかったのじゃろう』と言っていた。

 ラシルを今回の件に引き込むには『ロクヴェンツ側がエッフェンベルグの国宝を盗んだのではないか』という疑惑が必須。
 だがロクヴェンツ側には、国宝を盗む理由などないし、そもそも他国で国宝を売ろうとしても値段は付かない為、疑惑を訴えても相手にもされない。

 けれども、エッフェンベルグであれば自国の国宝という計り知れない価値から、相当な値段が付く。
 エッフェンベルグの盗賊団との接点は、その可能性を指摘し得る――――ラシルはそう解釈していた。
 要するに、難癖を付ける上でかろうじて正当性を認められる根拠を無理矢理こじつけようとした訳だ。

 だがユグドは、その解釈には懐疑的だった。
 あの盗賊団には、別の狙いがあったのではと感じていた。

 彼らは確かに、ここで"何か"を探していた。
 或いは――――"誰か"かもしれない。
 その誰かが、フェムの可能性もある。

 盗賊団はグルート、或いはその背後にいるであろう何者かが登用したのは確実。
 もしその人物がフェムを探していたのだとしたら、その狙いは金環ドラウプニルだったのかもしれないし、フェム自身の命だったのかもしれない。
 フェムが金環ドラウプニルを持っているのかどうかはわからない。
 或いは既に一体化しているのかもしれない。
 

 そうだとしたら――――それが何だというのか。


 フェムは今こうして守人の家へ戻っている。
 そしてここは護衛団。
 団員である彼女を護る理由も技術も備わっている。
 
 なら、何を変える必要もないだろう――――
 それがユグドの結論。
 最初から在り、そしてこれからも在り続ける結論だ。

 偽フェムの少女が語ったフェムの過去が本当ならば、彼女は死人であり、22の遺産の呪いによってこの世に留まっている事になる。
 つまり――――フェムはいつその人生に終焉を迎えても不思議ではない。
 例えば何らかの事情で金環ドラウプニル、或いは22の遺産全ての呪いが消え去ったとしたら、その時点で彼女は元の物言わぬ死者へと戻るだろう。

 彼女がその事を自覚しているのか、全くしていないのか、無意識下で感じ取っているのか、それはユグドにわかる筈もない。
 ただ、例えそういう彼女であっても、アクシス・ムンディの一員である事と、フェム自身の存在感には何一つ変わりはない。

 変わらない事といえば、もう一つ。
 結局、オサリバンによって金運を盗まれた事によるペナルティも、発生する事はなかった。
 少なくとも現時点、そして自覚の範疇では。

 それが何を意味するのか、この時点でのユグドには知る術はなかったが――――そう遠くない未来に知る事となる。
 この賑やかでとりとめのない日常が終わる、その時に。

「あっ、こらフェム! せっかく元に戻した椅子を……あーっ! 机の上に土足で上がらないで!」

「おーっほっほっほ! この素晴らしき日に祝福を、ですわーっ!」

 狭い会議室で一人優雅に舞う彼女の姿を、ユグドは頬杖を突き、暫くの間じっと、少年期に見上げた穏やかな空に浮かぶ陽を思い描くように、その目に強く焼き付けていた。

 


 これは、そんな午後の一時を乗せ廻る円舞曲。










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