力による支配。
 それは最も確実であり、同時に最も安易な構図。
 何であれ、人類が長い歴史の中でそこに一旦は着地したのは、総合的に見て正解だという歴史的判断だ――――

「先代はそう結論付けた。このグレン=シーザーも同意見だ。しかし残念ながら、現皇帝は違うようだ」

 その現皇帝を裁判にかけるという、思い切った行動に出た。
 だがその結果、空振りに終わった。
 尤も、皇帝が国際裁判の被告として法廷に立った時点で、目的は果たしたと言える。
 その前代未聞の事態そのものが、現皇帝の頼りなさを現わしている――――そう吹聴すればいい。

「浅慮な事だ」

 そう自分自身を納得させていたグレンの背後に、音もなく人影が増え、若干幼さの残る声がする。
 ここは皇帝の叔父である彼の部屋。
 侵入者など、普通ならばあり得ない。
 実際、グレンは眉一つ動かさずにその入室を認めていた。

「それは誰に対してかね?」

「さあな。確かなのは、全てノーヴェ=シーザーの筋書き通りって事だ。お前が俺を使い、あの男を見張らせ行動を監視していると見抜かれている。監視は中止だ」

「見抜かせればよい。最初から敵である事を隠す理由はないのだから。思想の違いはお互い把握済みよ」

「なら戦争しかないな。お前が皇帝の座を欲するのなら」

 人影が揺らめく。
 その右手には、斬った人間の身体を消滅させる魔剣グラムが握られていた。

「ヤツは少なくとも五つ……いや、今回の件で六つ目を手に入れた。最早、水面下でやり合って総取り出来る段階じゃない」

「戦争がしたいか、ベイン」

 グレンのその問い掛けに答えず、ベインと呼ばれた少年は揺らめく照明の炎に目を向けていた。
 炎は嫌いではない。
 自分と近い存在だから。
 ――――そう思いながら。

「貴様は先代によく似ておる。容姿はともかく……な。お前なら、良き皇帝となれるやもしれん」

「お前の言う先代は志半ばで引退した。失敗者ではないのか?」

「わからぬのは無理もない……が、わからぬのならおいそれと口にするものではない。先代は素晴らしき皇帝であった。足りなかったのは帝国の民度。それだけよ」

 それは、実の兄であるレイネオルド=シーザーへの惜しみない賛美。
 同じ思想を持つ偉大な先駆者への、強き忠誠心だった。

「帝国は生まれ変わる。22の遺産という、わかりやすい象徴を全て揃えればな。この国がルンメニゲ大陸の支配国であると、嫌でも自覚するだろう」

「民とはそこまで単純なものなのか?」

「単純化させるのだよ。それが帝王学というものだ」

 グレンは本棚に几帳面に並べられた本の中から一つを取り出し、開く。
 その本棚の約六割が、22の遺産にまつわる資料。
 今手に取ったのは【崩剣レーヴァティン】と【虎斧フランシスカ】に関する文献だった。

「ドイス=イニミーゴとイーズナー=ファルジュアリに招集をかけろ。頃合いだ」

「……いいだろう。そろそろこの国にも、危機感を与えてやらないとな」

 支配欲の権化――――ベインの顔が鋭く歪み、闇へ溶けていく。
 グレンはその様子を視線を向けるでもなく、文献を読み耽っていた。

 今はまだ各々が自由に、己の目的の為に動き回っているが、いずれその勢力が二分する事になる。
 その時こそが、帝国ヴィエルコウッドの復活。
 グレン=シーザーはこれから訪れるであろう静かな足音を想像し、至福の微笑を浮かべていた。

 


 これは、そんな一時の即興曲。









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