翌日――――予定通り、適正テストはウィンディと数名の助手によって実施された。

「まずは瞬発的戦闘能力の査定から始める。次々に飛んでくる投石への対処を見るので各自適当に石を投げ合うように」

「次に瞬発的戦闘能力の査定その二を始める。次々に飛んでくる蜂への対処を見るので蜂の巣を用意した。今から放り投げる」

「次に瞬発的戦闘能力の査定その三を始める。次々に空から降ってくる槍への対処を見るのでラシルに上空で待機して貰っている。今日の天気は晴れのち槍」

「次に瞬発的戦闘能力の査定その四を始める。次々に四方から出力される攻撃魔術への対応を見るので魔術士ギルドから12名の新人魔術士に来て貰っている。逃げまとえ愚民どもあーっはっはっは」

「次に――――」

 そして終わった。
 
「……」

 二日間、とにかく様々なテストを受け、アクシス・ムンディのメンバーは全員疲労困憊。
 特にユグドら非戦闘員のメンツは普段使わない筋肉を酷使した所為で、かなり参っていた。

 ちなみに現在、ユグド達は一階にある休憩室にいるのだが、そこに設置されているベッドの数は優に100を超える。
 なのに一階のスペースを特に圧迫していないあたりが〈民間要塞〉と呼ばれる所以だ。

「ったくよぉー……最近なんか身体を酷使しっぱなしだぜぇー……戦闘員でもねぇーのによぉー……適材適所じゃねぇよなぁー」

「偶にはリーダーもいい事言うっしょ……あの依頼人の娘、鬼畜っしょ……」

「わたくし、死ぬかと思いましたわ……一生分の運動をした気分ですわ……」

 シャハトの発言を皮切りにセスナやフェムが愚痴り出した。

「でもあのウィンディって子、あれだけ魔術が飛び交う中でよく平然と審査できるものよね。戦場とは縁のなさそうな子なのに」

「ですねー。ああ見えて意外と修羅場をくぐってるのかも。あの翼付けたまま」

「あらァ、想像したらほっこりしちゃったワァ」

 一方、非戦闘員ではあるが学者として様々な遺跡や洞窟を歩き回っているスィスチは比較的ケロッとしており、ノアやウンデカと歓談中。
 なお、最も女子らしい感性を持っているのはウンデカの模様。

「でもよー、なんだってこんなテストまでしておれらに護衛を頼むんだろな」

 その語らいが、トゥエンティの何気ない一言によって止まる。

 単純な動機については、既にラシルとウィンディから個別に聞いていた。
 他国の護衛の仕方について学びたいので、訓練という形で外国の護衛団を招き、その仕事ぶりを見届ける。
 依頼主はラシルの知り合いで、心当たりをラシルに訊ねたところ、ラシルが交流のあるアクシス・ムンディを紹介。
 と、ここまでは特に問題点や矛盾点らしきものはない。

 だが――――

「……敢えて中立国家のマニャンを選ぶ理由が依頼人にはない。ですか?」

 ベッド上で仰向けになって疲労回復を図っているユグドの見解に、トゥエンティは大げさなくらい大きく首肯した。

「そーなんだよ。別におれがシーマン出身だから言ってるってワケじゃないんだけどさ、ぶっちゃけマニャンって武力は弱いじゃん?」

「そうよネェ。中立って立場上、武力放棄は義務だもの。そのイメージで考えたら、幾らラシルさんの紹介でも二の足を踏む、というかそもそも候補にすら入れないわよネェ」

「確かに、そう考えるのが自然ですね」

 ユグドもウンデカの意見に大筋合意。
 実際、マニャンの武力・軍事力が貧弱だからこそ戦闘要員の少ないアクシス・ムンディでも仕事が得られるという事情もある。
 もしこの要塞国家ロクヴェンツで同じ組織を構えようと思えば、数倍の人員が必要となるだろう。

「おれ思うんだけど……真っ当じゃねえシロモノを集めてんじゃねえか? この手の金持ちコレクターって経験上、そういうヤツ多いしさ。だから訓練はしたいけどあんま深入りされたくなくて、外国のおれらを呼んだんじゃね?」

「真っ当じゃない代物、ですか。例えば?」

「そりゃ……盗品とか」

 元海賊のトゥエンティらしい穿った見方。
 ――――とは言い切れないと、ユグドも感じていた。

「あ、あのー」

 微妙な空気が漂う最中、おずおずとノアが挙手。
 唯一の組織外の人物とあって、主張に遠慮があるらしい。

「どうぞ」

「うん。もしかしてなんだけど、逆に真っ当な物を扱ってないからこそアクシス・ムンディに依頼したんじゃないかなー、って。例えば22の遺産とか」
 
 22の遺産――――それは常にノアの頭の中の一部分を支配している。
 その遺産のどれか一つを手に入れ、魔王に支配されている自国を取り戻すのが彼女の生きる目的なのだから当然だ。
 とはいえ、会う度にその言葉が必ず口から出るのをアクシス・ムンディ全員が感じており――――

「……遺産脳?」

「ち、違います! 人を遺産目当てでお金持ちのおじいちゃんに近付く性悪な女みたいに言わないで下さい!」

 スィスチにそう茶化されるのも致し方なかった。
 
「依頼人が22の遺産を持ってるかも、若しくは欲しがってるかも、って言いたいの!」

「昨日、防具を支給して貰った時に妙に難しい顔をしてると思ってたら……そんな事を考えてたんですか」

「え……あ、うん」

 ユグドから目敏くチェックされていた事にノアは微かな動揺を見せながらも、小さく首肯。
 そんな彼女にスィスチが含み笑いを浮かべたが、それは誰の目にも触れなかった。

「客観的に見て、アクシス・ムンディって22の遺産絡みの依頼が多過ぎだと思うの。私が最初に助けて貰った時もそうだし、エルフレド会議100周年記念式典の時もそうだし。この前の演奏会は疑惑に留まったけど」

「ノアさんとお会いする前にも幾つかありましたのあー」

 チトルの証言通り、武器万国博覧会の護衛依頼でも22の遺産は絡んできた。
 そして今回、その武器万国博覧会のスポンサーが依頼主。
 それは偶然だとしても、ノアの見解は決して突飛なものではない。

「世界的な資産家で武器コレクターなら、22の遺産もコレクション候補になると思わない? だから遺産に縁のあるアクシス・ムンディに依頼して、それとなく探りを入れようとしたのかも」

「入れられた人、います?」

 ユグドが挙手を促した結果――――誰も手を挙げなかった。

「あう……」

「今のところ、決定打はないですね。でもこの依頼に裏がある可能性は否定出来ません。依頼人の娘のウィンディさん……でしたっけ。彼女も少し変わってますし」

「案外、あの作り物の翼が遺産じゃないのかにゃ?」

「それは盲点っしょ。アレ付けて変身ポーズすると天使に変身できるとか……これはあり得るっしょ!」

「ないですよ! もー!」

 ユイ&セスナのコンビに茶化されたノアは不機嫌そうに頬を膨らませていた。

「ま、確証がない以上は余計な詮索はしないでおきましょう。仕事優先でお願いします」

「わかったよ。大将がそう言うんなら仕方ねーな」

「はーい」

 各々渋々ながら納得したらしく、トゥエンティとノアはユグドの意見を尊重し持論を引っ込めた。
 
「でも一応、ラシルさんには話を聞いておいた方がいいんじゃないの? その辺の事情は把握してそうだし」

「そうですね。でもラシルさん、今日は見かけませんね。何処にいるのやら」

 スィスチの提案を受け、ユグドがそう口にした刹那――――

「ラシルは父の元へ報告に向かっている最中。明日には戻る予定である事をお報せする」

 唐突に休憩室の扉が開き、颯爽とウィンディが現れる。
 一瞬、今までの話を聞かれていたのではという懸念が生まれるが、その事への言及はなし。
 加えて、相変わらず背中には漆黒の翼があり、ウィンディが歩を進める度にその翼がワッサワッサと音を立てる為、緊迫した空気はイマイチ漂わなかった。

 そんな彼女がこの休憩所へ来た目的は――――
 
「お休みのところ申し訳ないが査定の結果を発表する。まずクワトロ=パラディーノ」

「む……」
 
 いきなり名を呼ばれたクワトロの顔に緊張が走る。
 クワトロに限らず、護衛として優れているか否かの客観的評価など受けた事がない為、全員が同じような堅い面持ちでウィンディの発言を待った。 

「瞬発的戦闘能力は偏差値80に該当する非常に高いパフォーマンスを発揮。戦闘力の高さを示す結果と言える」

「偏差値とは……?」

「最低値を0、平均を50、最高値を100として、母集団の中でどの位置にいるかを示す数値ですね。70超えればかなり優秀、80を超えると母集団の中でもトップクラスって感じです」

 ユグドの説明を受け、クワトロの目尻か微かに下がる。
 下手に騒ぐよりよっぽど嬉しそうだった。

「母集団に関しては私がこのロクヴェンツで独自にテストした全ての人物が対象となる。その多くは傭兵や城仕えの兵士といった護衛のプロ」

 つまり、クワトロはその中でも非常に優れた瞬発的戦闘能力を有している、という結論だ。
 
「余談だが瞬発的戦闘能力は筋肉の瞬発性をはじめ敏捷性やキレなどを総合的に判断したもの。短期戦や多人数を相手に斬り込む場合に必要となる戦闘力」

「ふむ……確かに我はそのような戦闘を得意としているが」

「その一方で持久的戦闘能力の偏差値は64とそこそこの数字に留まっている。体力は問題ないけど集中力の持続がやや弱点」

 そのウィンディの説明に、全員が納得という声をあげた。
 何事も先走る傾向のあるクワトロは、割と後半にヘタレる事が多い。

「危機察知能力は75で判断力は58。全体的に平均を大きく上回ってる優秀な護衛と言える」

「へー、流石はアクシス・ムンディ随一の戦闘要員ね」

「ご立派ですごりー」

 スィスチとチトルに拍手を送られ、クワトロはご満悦だった。
 まだ30代なのだが、その様子は孫にデレデレするお爺さんのよう。
 ともあれ、幸先のいい出だしとなった。

「次はチトル=ロージ。瞬発的戦闘能力は偏差値36と優れない数値だが持久的戦闘能力は84と驚異的。どんな攻撃にも耐える防御力と忍耐力の高さが突出している」

「ふえふえ、良いのか悪いのか微妙ですびみょー」

「一芸に秀でた戦士って感じでカッコいいっしょ。やられてコロコロ転がって行く姿も愛らしいっしょ。寧ろあざといっしょ」

「あざとくなんかないですあざー! 不本意ですふほー!」

 憤慨しつつも、セスナに褒められチトルは満更でもなさそうだった。

「危機察知能力は60で判断力は66と全体的に高め。クワトロ=パラディーノとの相性が良好と思われる」

「あー、だから二人で組む事が多いんだ。納得」

 うんうんと頷くノアの隣の巨躯に、ウィンディのドロンとした目が向けられる。

「次はウンデカ。性別が女性となっていたので男性に訂正した」

「いやァァァァァン! そんなのダメェェェェェ! ワタシ女! オ・ン・ナ!」

「理解し難い言動なので放置する。瞬発的戦闘能力は偏差値69。敏捷性は低いが瞬間的な破壊力が脅威的な為に高水準の数値となった。持久的戦闘能力は48。肉体的な耐久性は高いが精神面が脆すぎる為に平均以下となった」

「乙女の精神は築100年の木造住宅くらい脆いのヨォォォ」

「何を言っているのかわからないが危機察知能力は70で判断力は33」

 危険に敏感なのもビビリの証拠だったが、それはそれで評価の対象となった為結果オーライと言えた。

「次はフェム=リンセス。美術国家ローバの王女との事で多少の緊張を伴う査定となった事をここに伝えておく」

「あら、申し訳ありませんわね。でもあたくし、どのような評価をされようと感情を波立たせはしなくてよ。王女たるもの、常に沈着冷静でいるのが務めだもの。おーっほっほっほ!」

「それを聞いて安堵したのでいっぺんに発表する。瞬発的戦闘能力73 持久的戦闘能力27 危機察知能力30 判断力38。動きの俊敏性とキレは素晴らしいが他はカスと言わざるを得ない」

「なんですって! 許しませんわ! 戦争ですわ! ローバとロクヴェンツの大戦争勃発ですわ!」

 波風は立ちまくったが、どうにか三分で収まった。

「言い方が悪かったのは反省材料。次からは改善する。次はユイ。瞬発的戦闘能力83 持久的戦闘能力37 危機察知能力85 判断力26。長所だけでなく短所も突出度が高くある意味清々しい」

「なんか余計傷付くにゃ……」

 長所は周知の事実だった為、予想以上の持久力と判断力の低さに対する落ち込むユイにとっては皮肉にしかならなかった。
 
「どうも私は他人への配慮が苦手な気がしてきた。更なる改善を試みたい。次はスィスチ=カミン」

「この流れだと、私も傷付けられそうでなんか嫌なんだけど……」

 やや怯えつつ、目を狭め身構えるスィスチ。
 結果は――――

「瞬発的戦闘能力40 持久的戦闘能力44 危機察知能力61 判断力76。非戦闘員の割に体力があるし瞬発系もまずまず。全体的に有能と言える」

「あら、そうだった?」

 思わぬ高評価に満面の笑みを浮かべた。

「ちなみに判断力の査定に関してはラシルが不満顔だった事を補足しておく」

「い、要る? その補足……」

 が、過去の過ちを思い起こし、そのままベッドにパタリと倒れ込む。
 ウィンディの責任ではないが、また心に傷を負う者が増えた。

「次はトゥエンティ」

「お、おう。ようやくおれか」

 実は一番緊張した面持ちで待っていたトゥエンティがカチコチになって立ち上がる。
 海賊などやっていた為、他人からの評価とは余り縁がなかった様子。
 生唾を飲みながらウィンディの発表に耳を澄ませる。

「瞬発的戦闘能力55 持久的戦闘能力55 危機察知能力55 判断力55。戦闘員としては中の中の上という結果に終わった」

「な、なんだよそれ! おれってそんなフツーなのかよ!」

「中の中の上が普通の範疇に入るかどうかは意見の分かれるところ。各自の判断に任せる」

「ち、チクショー……おれ中の中の上ヤダよ……もっと鍛えよ……」

 アウトローな人生の割に平凡な結果に終わったトゥエンティは何気に今までで一番落ち込んでいた。

「次はセスナ=ハイドン。瞬発的戦闘能力31 持久的戦闘能力35 危機察知能力46 判断力38。何がしたくてここにいるのかわからない」

「ひ、酷いっしょ! 人生まで否定された気分っしょ!」

「セスナさんは音楽家ですから、護衛に必要な能力には長けていないのかも」

 フォローを入れたユグドに対し、ウィンディはドロンとした瞳を向ける。

「護衛に必要な能力に長けていない音楽家が護衛団の中にいる必要性については意見が分かれるところではないと私は考える」

「論破されてしまいました」

「おかしいっしょ! ユグドはもっと出来る子っしょ! 交渉士とは思えない諦めの早さっしょ!」

 ともあれ、セスナの護衛に関する能力は数値化され難い事が判明した。
 当然だが。

「次はノア=アルカディア。彼女はアクシス・ムンディの一員ではないとの事だが中々護衛に向いている」
 
「え? そ、そうなの? あんまり手応えなかったんだけど」

「瞬発的戦闘能力は54と平凡だけれど持久的戦闘能力は68と中々優秀。アームブレードを使った防御が高得点。危機察知能力も66だし判断力も59とまずまず。少なくともそっちの王女やそこの音楽家よりは有能と言える」
  
「納得いきませんわ! 訴訟ですわ!」

「真顔で傷に塩を擦り込んでくるっしょ! 依頼人の娘だけどあーしあいつ嫌いっしょ!」

 二人ほど不平不満を叫んでいたが、当のノアは褒められた事にかなり気をよくし、鼻歌交じりにベッドを下りてユグドへ近付いて行く。

「ね、聞いた?」

「聞いてますから、そんなしたり顔を向けないで下さい」

「フフン、これは報酬額も相応につり上げて貰わないとねー。正規メンバーより有能なんだから。いつか本格的に私に頼る日が来るかもよ?」

 調子に乗ったノアはドラゴンキラーを構え、虚空へ向かって決めポーズを何度も作っていた。
 普段余り他人に褒められる機会がない事を如実に表していた――――が、それを指摘するのは流石にどうかと思い、ユグドは天井を仰ぐ。
 
 残り二人――――










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