この世界には、魔剣と呼ばれる禍々しい力を有した剣が――――割と沢山ある。
 聖剣と呼ばれる穢れなき清らかな力を内包した剣も、それなりに氾濫している。

 だが現実には、魔剣にも聖剣にも分け隔てなく情愛を注ぐ愛好家が存在する。
 彼らには正義も悪もない。
 ただ稀有な武器を愛でるだけ。
 それだけの事だった。

 彼らにとって、冠はただの飾り。
 何かしらの仰々しい冠を頭に乗せれば、見栄えが良くなるのは人間も剣も同じだ。
 尤も、その中に"本物"は一握りしか存在しないのも同じではあるのだが。
 
「チッ……厄介なヤツの所に流れちまったもんだな」

 苛立ちを隠さずにそう吐き捨てた少年は、手の中にある闇市場の顧客情報を無造作に衣嚢へとしまい、もう一度舌打ちをした。

 人間の最も正直な部分を源泉とする彼にとって、この世界は余りにも"擬態"に満ちている。
 今しがた一瞥した名前もまた、その部類に属する。
 だがそれは、少年が"厄介"だと感じた本質ではない。
 それがまた、厄介さを際立たせていた。

 しかし少年は己の目的を見失う事はない。
 それ以外に自分の進む道がない事を知っているからだ。
 目的と自己同一性と存在意義が全て直結している。
 とてもわかり易い一本道。

 故に少年は迷いなく歩み出す。
 自身の出自に忠実に。
 欲望に、忠実に。

 一陣の風が吹く。
 世界の不均一を正す為に。

 

 或いは――――質す為に。








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