「……は? ゆ、幽霊?」
「ええ、幽霊。そう考えれば、色々と辻褄が合うんですよ」

 ノアがあんぐりと大口を開けて聞き返すのも、無理のない話。
 幽霊――――御伽噺や噂でこそよく耳にするものの、実際に存在していると認識する人間は決して多くはないだろう。

「おいおいガキども、何フザけてんだ? 割と切迫してるのがわかんねーか?」

 グルートがそう呆れ口調で零すのも無理のない話だが――――

「エッフェンベルグの雄、グルート=フェアブレン将軍ですね。初めまして、国際護衛協会『アクシス・ムンディ』の交渉士、ユグド=ジェメローランと申します。以後お見知りおきを。あと、フザけているかどうかは貴方が一番わかっている筈ですよね? 今の一撃、チャチな魔術や奇術で防げるような攻撃じゃありません。何か明確な理由がある。違いますか?」

 矢継ぎ早に言葉を畳みかけるユグドに、世界的な実力者であるグルートが思わず怯む。
 聞き手に反論を許さないリズムと抑揚。
 ユグドは数ある話術の中から、グルート相手に最も有効と思われるものを選び、それを実行していた。

「勿論、幽霊なんてこの世にいる筈がないとオレも思っていました。幽霊というのは人間が意識的、無意識的に拘らず生み出した想像や妄想の産物に過ぎないと。実際、殆どの幽霊目撃談はそれで説明が付きます。だからこそオレは信じていなかったし、貴方もきっとそうだった。何より、自分の目で幽霊を見た事がない。人間、自分自身で確かめないと中々認識を改められないものです。例えば貴方が先程言っていた、三度のメシにいずれもカビの生えた干イモ。経験していないオレにはその歯痒さはわかりませんが、貴方はそれを知っている。それと同じ事です」
「干しイモと幽霊を一緒にすんじゃねーよ! カビ生えた干しイモは実在するだろが!」
「その通りです。沢山の人がその存在を見て知っているのなら、それは実在します。では、今目の前にいるあの青年はどうですか? 貴方の強烈な一撃が透けていったあの青年。少なくともここには『攻撃が当たらない青年』と『周囲の警備兵に気付かれずここに来たバイコーン』がいる。ついでに影もないときた。ここにいる数名がその存在を見て知っている。実在するんです。けれど問題が一つ。干しイモにはカビが生えますけど、攻撃が透ける人間はいません。なら、彼は人間でないと認識すべきでしょう。別の可能性を考慮しなければならない。貴方はそれを合理的かつ建設的に説明できますか? グルート=フェアブレン将軍」
「ぐ……」

 二の句が繋げず、とうとうグルートは押し黙ってしまった。
 他の面々も、ユグドに対し反論はせず状況を見守っている。

 幽霊の存在は、到る所で、様々な理由で否定されてきた。

 例えば単なる見間違いや聞き間違い。
 動物の影や木々の葉擦れの音を幽霊の姿や声と錯覚している、と人は言う。

 例えば夢。
 まどろみの中で見た白い光や淡い輪郭の何かを幽霊と思い込んでいる、と人は言う。

 例えば幻覚。
 疲労困憊または病に冒された際に感じた不健全な感覚を幽霊だと信じ切っている、と人は言う。

 例えば虚言。
 他人の気を惹きたくて居もしない特殊な存在を仄めかしている、と人は言う。

 実際、幽霊の目撃談の多くはこれらが真実なのだろう。
 だが、あらゆる現実的な可能性を考慮しても、検証しきれないケースがあるとすれば話は別。
 今目の前にいるムナイとバイコーンが、まさにそれだ。

「少々飛躍的な意見ですけど……根拠はあるのかしら?」

 呆れている様子は一切なく、寧ろ楽しげにエメラが問う。
 ユグドは口を真一文字に閉じ、しっかりと頷いた。

「これだけの警備体制の中、突然城内の大広間にバイコーンが現れる……こんな不自然な事はありません。でも、幽霊なら気付かれず城の中に入れるかもしれない。加えて、一切の攻撃が当たらず影もないという現実。幽霊の存在を肯定すれば、辻褄が合います」
「目撃証言もあるのじゃ。ゲシュペンスト大聖堂の周辺で幽霊を見たという」
「ええ。ゲシュペンスト大聖堂はティーア大森林の近くですから、目撃者がいても不思議じゃありません」

 ラシルの補足に頷きつつ、ユグドは一歩前に出て、ムナイと向き合った。

「これは推測ですけど……ムナイさん、もしかして22の遺産で殺されたんじゃないですか?」

 その問いかけにノアとラシルは目を見開き、同時に納得もした。
 22の遺産に関与している人間を集めた理由が、それなら説明が付くからだ。
 案の定、ムナイは間髪入れず頷いた。 

「その通りです……確かに。小生はこのバイコーンと共に、何者かに殺害されたのです……無残にも」
「そ、そうなの……?」

 猟奇的な表現を好む割に、ノアは『殺害』『無残』といった言葉に過剰反応を示す。
 そもそもそれ以前に『幽霊』に対してもビクビクしていた。
 全般的に苦手分野らしい。

「22の遺産は強力な呪いを宿してるから、その呪いで幽霊になる。或いは22の遺産の中に『殺した相手を幽霊にする』という効力を持つ武器がある。エメラ女王、このどちらかが真実である可能性は?」
「そうね……ない、とは言い切れないかしら。私は遺産で人殺しをした事ないし、全ての遺産の特効を知ってる訳でもないけど」

 顎に指を当て、エメラは軽やかな口調で肩を竦めながら答える。
 女王とは思えないほど気さくな態度に、ユグドは思わず苦笑した。

「ちょ、ちょっと待ってよ。確かにお話の筋は通るけど……そんなのあり得るの? そもそも幽霊なんて自己申告で認定できるモノじゃないでしょ? なんかそっちの一人と一頭が幽霊なの確定してるみたいに話が進んでるけど……」
「いや。確定しても良さそうじゃ」

 まだ幽霊の存在を認められないノアに、ラシルは容赦なく現実を突きつけるべくゲイ・ボルグでムナイを指す。
 ムナイの身体は、いつの間にか輪郭を失い、頭部と四肢が胴体から分断されていた。

「ひえっ!」
「このような存在、幽霊以外では説明がつかんじゃろ」
「そ、それでも〜……幽霊なんて信じたくなーい!」

 涙目になりながらも、ノアはドラゴンキラーを構える。
 言葉とは裏腹に、現実に目を向けている証。
 明らかに、ムナイから敵意が増幅していた。

 ――――それは、ティーア大森林でユグド達が危機に瀕した時と同じ雰囲気だった。

「おいおい! どういう事だよガキ! なんで急にキレてんだこの幽霊!」

 グルートがフランシスカを上段に構えながらユグドに向かって叫ぶ。
 一流の戦士だけあって、敵意には敏感らしい。

「彼は22の遺産によって殺された。でも犯人の顔や名前はわかっていない。だから幽霊となった今、22の遺産を所持する人間が何人か集まっていた最終演練の会場で、その人物だけをこの場に留め、まとめて襲う事で効率よく自分を殺した犯人に復讐しようとしている。そんなシナリオはどうです?」
「素晴らしい推理です……実に。だからこそ待っていたのです、人物が揃うのを……目録にある」

 ユグドの仮説を肯定したムナイの身体が更に広がって行く。
 頭部は天井に届くほど上昇し、左右の手は両側の壁近くにまで飛び、浮遊している。
 その手には、どちらにも草を刈る際に使う鎌のようなモノが握られていた。

「小生を殺したのはいいのです……まだ。しかしどうしても許せないのは、小生だけでなくこのバイコーンにまで手をかけた事……稀少動物の」

 バイコーンに慈しみと憐れみの目を向けた後、ムナイの頭部が先程までと変わりない形で切々と恨み説を唱える。
 余りにも不気味な光景だ。

「……」

 それでも、ユグドは落ち着いていた。
 ムナイだけに意識を集中させず、大広間全体を見通して変化を探す。
 何か打開策はないか――――

「許すまじ……人間」

 しかし、それを探す前にムナイの中に変化が現れた。
 敵意から殺意へ。

「この場にいる全員が"所持者"……22の遺産の。全員バイコーンの敵が討てるのです……殺せば」
「来るぞ!」

 ラシルの咆哮とほぼ同時に、鎌を握ったムナイの両手が消える。
 実際には、消えたと思うほどの速度で頭部と胴体を結ぶ縦線を軸に回転し、その半径をみるみる広げ――――ラシルとノアへと襲いかかる!

「むっ!」
「とととっ!」

 甲高い金属音。
 鎌による一撃を、ラシルはなんなく、ノアはどうにかそれぞれの武器で弾いた。

「ふむ、どうやら森林で大量の木を一度に切り倒したのは今の技か」
「ってことは、コイツが犯人!?」

 ノアの絶叫に答える者はいない。
 ただ、それが正しいのは明白だった。

「つーかよ……なんでこっちの攻撃は当たらないのに、向こうの攻撃は当たるんだ? 不公平過ぎるだろ!」
「それが業深き人間への報いというもの……愚かなる。バイコーンを殺した業の深さを知れ……思い」
「ちっくしょっ! テメー!」
 
 ムナイの鎌が更に勢いを増し、ラシル、ノアだけでなくグルートにも容赦なく襲いかかる。
 弾かれても防がれても、再度宙を舞い回転し、また襲う。
 乱舞する二つの鎌に、ラシルとグルートはある程度の余裕をもって対応していたが――――

「ちょ、ちょっと……うわわわわっ!」

 二人ほどの戦闘能力はないノアは次第に対応が遅れ、バランスを崩す。
 上下左右、様々な角度から鋭く抉ってくる斬撃に、ノアの体力と集中力は急速に奪われていった。

 それでも持ちこたえられているのは、守勢向きのアームブレイドだからこそ。
 だが長続きはしない。
 このままムナイが攻撃の手を緩めなければ、いずれノアは力尽きる。

 かといって、反撃するにも相手に攻撃が当たらないのではどうしようもない。
 ラシルもグルートも、ムナイを倒す方法ばかり考えているらしく、ノアの方にまで気が回っていない。
 そして――――

「っ……!?」

 十一度目の襲撃で、それは起こった。

 ムナイの鎌が、ノアのアームブレイドを引っかけるように振り下ろされる。
 グイッと引っ張られる形になり、アームブレイドを装着したノアの左腕が一気に下がった。

 完全に無防備の状態。
 もう一つの鎌を持った手に今、襲われたら――――

「あ……」

 そして、現実は得てして無情なもの。

 ノアは目の前に迫る鎌に、死神を見た気がした。
 志半ば。
 ここが自分の墓場――――

「ユイさん見せ場!」

 刹那。
 それは余りにも唐突な、そして突飛なユグドの叫び声だった。
 何しろ、この場にはいない筈の名前だ。
 
「任せろにゃ!」

 だが、いない筈のその人物がユグドの声に応える。
 グルートの後ろに隠れていたユイが、人間離れした身体能力で床を蹴り――――ノアも蹴飛ばす!

「へ?」

 蹴飛ばした!

「えええええええええええええ!?」

 その瞬間、ムナイの鎌がノアの立っていた場所を――――宙を裂く。
 ユイの蹴りがなければ、或いはほんの一瞬でも遅れていれば、その刃はノアの身体の何処かを掠めていただろう。
 女性にとって、場所次第では人生の致命傷となる傷を負う可能性もあった。

「痛たたたた……もーっ、なんなのよーっ!」

 尤も、蹴られたお尻にはかなり大きなアザが出来てしまうのだが、それはまた別の話。

「お、ようやく動いたか、お嬢ちゃん」

 ムナイの攻撃が止んだ事で、ふーっと息を吐きつつグルートが口を開く。

「ずっと俺の背中に隠れてたから鬱陶しかったんだけどよ、何か策があると思って黙ってたんだぜ?」
「あり、気付かれてたにゃん?」
「気配消すのスゲーうめーけどよ、幾らなんでも背中に隠れてちゃわかるってなモンよ」

 グルートのその言葉は、彼が単に頭に血の上りやすい筋肉バカではない事を表していた。
 状況を瞬時に理解し、それがこの危機を打破する可能性のある要素だと認め、かき乱さないように努めていたのだから。

「あのオナゴは確か……ティーア大森林にいたのではなかったか?」

 一方、ラシルは不可解そうにユグドへ問いかける。
 実際、ユイは今回ティーア大森林が職場。
 本来ならここにいる筈がないが――――

「一応、警戒しておくように言っておいたんで」
「確かにそのような事を言っていた記憶はあるが……あれはあの細目への危害を警戒するという意味ではなかったのか?」
「いえ。何しろ俺達が襲われた現場で調査している人ですから。容疑者の一人として"彼の動向を"警戒して貰っていたんですよ」

 これはムナイに対してだけではなく、ドイス司教に対しても行っていた事。
 ちなみにドイス司教はチトルが監視をしている。
 もし彼らを守る為にユイとチトルを付けようとするならば、ユグドは警戒ではなく護衛という言葉を使っていただろう。

「そういう事だったのですか……真相は」

 ユイの乱入に動揺し、攻撃の手を止めていたムナイの頭部が感心したような口振りで呟く。
 そして――――
 
「しかし増えたところで何も問題はありません……一人。何故なら人間ども、あなたがたは小生に一切触れる事ができないのですから……幽体である」

 ムナイの頭部と胴体を軸に、今度は両手だけでなく両脚まで回転を始めた。
 脚に鎌は装着されていないが、それでも蹴りが飛んでくるとなれば厄介なのは間違いない。
 先程の倍の数の攻撃が繰り出されるのだから。

「チッ……また来やがるぞ」
「ユグド! あの入り口を塞いでおる馬をどうにかして、エメラ女王を連れこの部屋から逃げい!」

 打開策が見出せない中、グルートとラシルが再度身構える。
 ノアも慌てて立ち上がりドラゴンキラーを構えたが、その表情には明らかな曇りがあった。
 このままでは、為す術がない――――と。

「その必要はなさそうですよ」

 そんな膨張した不安を、ユグドの言葉が疑問へと変換する。
 
「……どういう意味じゃ?」
「オレとエメラ女王だけじゃありません。この場にいる全員、逃げる必要はないようです」

 眉をひそめるラシルを手で制し、ユグドはバイコーンの方へ歩み寄った。
 ユグドとノアがこの大広間へ入ってからもずっと、バイコーンは大広間の入り口に陣取り、外部に目を光らせている。
 ムナイが命じたのは明白だが、それにしても部屋の内部に対し余りに無関心だ。

「……」

 ユグドはその巨大な二角獣の傍まで近付き、ムナイを見やる。
 ムナイは動かない。
 それを確認した後――――四本指で拳を握りしめ、後ろ向きのバイコーンに向かって右手を振りかざす。

 その瞬間、突然の嘶きと同時にバイコーンがユグドの顔面目掛け後ろ脚を蹴り上げた!

「……ぐっ!」
 
 鈍い音と共に、ユグドの身体が後方に弾かれる。
 瞬時に右腕を引き、左腕と交差させガードを作った為、顔面への直撃ではなかったが、それでも衝撃はかなりのもの。
 背中から床に叩き付けられ、顔をしかめ悶絶する。

「ちょっとユグド! 何してんのよ! まさか『その馬が本体だ』とか思って攻撃しようとした訳!?」
「いや……どうやら違うのじゃ」

 ユグドの行動を理解できずに困惑するノアに対し、ラシルが首を左右に振る。
 そして、その鋭い目をムナイの頭部へと向け――――ゲイ・ボルグを背負い臨戦態勢を解いた。

「どういうつもりだコラ、龍騎士。まさか降参するつもりか?」
「グルートじゃったか、貴様も得物を仕舞え。そこの侍女も。それでこの闘いは終わりじゃ」
「え……?」

 ラシルがそう告げた直後、ユグドがムクリと立ち上がる。
 ガードしたもののバイコーンの蹴りによる衝撃は貫通しており、口元が切れ血が滴り落ちていた。

「どうやら、こやつらは自分へ敵意を向ける相手にしか攻撃できんようじゃ。それを確かめたのじゃろ、ユグド」
「ええ。理解が早くて嬉しいですよ。伊達に長く生きてませんね」
「やかましいわ。全く、弱っちいクセに無茶をしおって……」

 呆れ気味に嘆息するラシル。
 そのやり取りを呆然と眺めていたグルートとノアは、何となく顔を見合わせ、そしてそれぞれの武器を足元に転がした。
 ムナイからの攻撃は――――来ない。

「あら……どうやら正解みたいね。平和的解決って言うのかしら? こういうの」

 なんとも緊張感のないエメラの声に、ユグドは苦笑しながら肩を竦めた。

「どうにも変だと思ってたんですよ。ティーア大森林では直接鎌で攻撃してこなかったし、今もオレやエメラ女王には一切攻撃が飛んでこない。加えてバイコーンの攻撃性のなさ。煽るような言葉もありましたし、恐らく間違いないな、と」
「聡明ね。しかも冷静。大したものよ」
「女王こそ、この修羅場で随分と落ち着いていたじゃないですか。実はもう気付いてたんじゃないですか?」

 ユグドとエメラはお互い不敵に微笑み合う。
 そんな二人のやり取りに、グルートが声を押し殺すように笑い出した。

「へへ……商人国家の女王様はともかく、こんなガキにまで戦場を支配されるとはな。なあ龍騎士」
「妾は特に驚きもせんがの。こやつの呆れるばかりの鷹揚自若な様はこれまで何度も目にしておる」
「褒められてる気がしないんですけど」

 ジト目でラシルを睨むユグド。

「……」

 その姿を、ノアはただじっと眺めていた。

「どうやら復讐はここまでのようですね……小生の。せめてバイコーンの見ている前でと思っていたのですが……仇を」

 ムナイの頭部が徐々に降下し、やがて胴体にくっつく。
 四肢も同様に戻り、姿だけは人間のものに戻った。

 しかし影は相変わらず存在しない。
 依然として、この部屋の人影は六つ。
 ユグド、ラシル、ノア、グルート、エメラ、そしてユイの六つだ。

「ならばせめて小生とバイコーンの際を語らせてくれませんか……今際の。願わくば、この壮絶な最期が残らん事を……後世に」

 ムナイは無念の表情でバイコーンに寄り添い、事の真相を語ろうとする。
 この騒動の裏に、果たしてどんな闇が、真実が隠されていたのか。
 ノアとグルートは、この哀れな動物愛好家の辞世の句を受け入れようと首肯した。

 一方――――

「いえ、結構です。オレはこの辺で失礼します」
「うむ。妾も久々にバタバタして疲れた。帰って寝る」
「私も明日早いし……お暇しようかしら」
「ユグド、言いつけ通り仕事したユイを褒めるにゃん。成功報酬に海の幸を所望するにゃー」

 ユグド、ラシル、エメラ、ユイの四人はゾロゾロと大広間を後にした。

「ま、待って下さい……強き者ども。まだ真相は語られていないのですよ……皇帝不在の件とか」
「どうせ事前にノーヴェさんがいない時間帯を調べてたんでしょ? 仮に拉致したのなら、人質にして自分殺しの犯人を調査させればいい。そもそも、貴方にノーヴェさんをどうこう出来るとも思えませんし。じゃ」
 
 背を向けたままのユグドの返答と足音は、次第に小さくなっていく。
 ついでに姿も小さくなり、やがてムナイの視界から消えていった。
 
 レヴォルツィオン城の大広間に残った二つの霊魂が、如何にも幽霊らしく呆然とその場に佇む。 

「……聞いてやるから、泣くな」
「そ、そうよ。私達がいるじゃない。ちゃんと最後まで聞くから。頑張って!」
「うっ……うっ……」

 先程まで殺そうとしていた二人に慰められ、幽霊ムナイの涙は止まらなかったという――――










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