一つの都市に複数存在する教会とは違い、大聖堂は基本、都市ごとに一つしかない。
 ゲシュペンスト大聖堂も例外ではなく、マニャンの首都ハオプトシュタット唯一の大聖堂として、アランテス教の象徴たる存在感を示し続けている。
 
 そんな大聖堂の役割は非常に多い。
 指導機関としてだけでなく、時に教育機関として、時に福祉施設として、実に様々な顔を持つ。
 
 更にもう一つ、極めて重要な役割を付け加えるならば――――治療。
 負傷や病気で苦しむ人間を保護し、休息を与え回復を試みるのも、教会および大聖堂に務める司教や司祭、シスターの職務に含まれる。
 敷地内で薬草を栽培している教会や大聖堂も少なくない。

 このような一面があるという事は、逆に言えば教会や大聖堂を終の棲家とする人間もいる、という事。
 不治の病を患い、最期の時を穏やかに過ごした者もいれば、治療の甲斐なく無念の死を遂げた者もいる。
 ゲシュペンスト大聖堂もまた、数多くの死を見届けてきた。

 幽霊の目撃談という、通常なら歯牙にも掛けられずに消えていくような話が龍騎士のラシルにまで届いたのも、ゲシュペンスト大聖堂だからこそ。
 非業の死を遂げた傭兵や兵士が化けて出て来ても不思議ではない――――そう思われているからだ。
 それに加え、大聖堂を管理するドイス司教とラシルが知り合いという事、ラシルが幽霊を信じている事など様々な事情もあって、最終的にアクシス・ムンディに仕事が回ってきた。

「ほ、本当に幽霊はいないんだよなぁー? チトル、テメーちゃんと確認したんだよなぁー?」

 そしてここにも一人、幽霊を信じていたらしき人物が一人。
 シャハトは包帯でグルグル巻きにされた頭をガタガタ震わせながら、大聖堂の救護室内にあるベッドの上で身を小さくしていた。

「確認しましたかくー! ユーレーなんてこれっぽっちもいませんでしたよゆれー!」

 依頼期間の半分、一週間もの間ずっと一人でこの大聖堂を守り続けてきたチトルが、ガッチョンと胸を張る。
 幽霊どころか野良犬一匹現れなかったらしく、懸念されていた職務中の居眠りによる過失はどうにか表面化しなかったようだ。

「それにしてもリーダー……トロいですね。オレですら間に合ったってのに」
「お前の避難指示が聞こえなかったんだよぉー! 逃げろってしかよぉー! 何処に逃げればよかったんだよぉー!」
「考えればわかるじゃない」

 呆れるユグドと叫ぶシャハトの会話に、傷一つ負わずピンピンしているノアが割り込んでくる。
 なお、倒れてきた木の枝で頭部を負傷したシャハト以外は全員無傷。
 シャハトの治療のためだけに、ティーア大森林の傍にあるゲシュペンスト大聖堂へやって来て、今に至る。
 
「木の上半分が倒れてきたって事は、木の根元が一番安全って事くらい。木は密集してるんだから、倒れてくる木は何処かしら別の折れた木に引っかかってくれるし、根元にくっついてさえいればまずやり過ごせるでしょ?」
「そんな判断、あの一瞬ではできねぇーよー!」
「修羅場の経験が足りてないの。まだまだじゃ」

 500年以上生きているラシルのダメ出しに反論できる筈もなく、シャハトは女性二人から言葉責めに遭った。
 なお、表情は言葉ほど不満そうではなかった。
 気分的には悪くないらしい。

「ま、なんだかんだで軽傷で済むあたりがリーダーらしいですけどね。それはいいとして……」
「よくねぇーよぉー! こんな包帯グルグルじゃせっかくの男前が台無しだよぉー!」

 反論するシャハトを無視し、ユグドは――――

「誰が、何の為にやったんでしょうね?」

 そんな問い掛けを、誰にともなく投げかける。
 ユグド達がいた周囲の木10本ほどを全て、一度に切り倒した人物――――相当な腕の持ち主なのは間違いない。
 加えて、あの状況を意図的に作り出したとしたら、ユグド達を脅そうという意図だったのは明白だ。

 ちなみに、命まで奪おうとしたかどうかはわからない。
 ノアの言う通り、密集した森林で木を倒しても、その木が標的を押し潰す可能性は決して高くないからだ。

「妾が狙われた可能性は否定できんな」

 応えたのはラシル。
 神妙な顔つきで、腕を組みながら窓際に立っている。
 窓の向こう、広い裏庭ではリュートが羽を休めていた。

「リュートから降り、かつ人目の少なく隠れられる場所となると、あの森林は待ち伏せ場所になり得る。それに、槍を扱う妾にとって森林は不利じゃ」
「ドラゴンで移動してきたから尾行はないし、あの森林と縁も所縁もないノアさんやリーダーへの待ち伏せはあり得ない。戦闘力のないオレを敢えて待ち伏せる理由もない。確かにそうかもしれません。でも、その割に中途半端な奇襲でしたね」
「思った以上に人数がいたから仕切り直した、って可能性もあるんじゃない?」

 ノアの提示した可能性に、ユグドは頷きも否定もせず思案顔を保持。
 どの推論も確信を得るまでには至らない。

「ラシルさん、狙われる心当たりは?」
「ごまんとあるの。龍騎士ともなると、逆恨みを買う機会は多いのじゃ」

 逆さでない恨みも多そうだ、という本心は胃液で溶かし、ユグドは膝を曲げ救護室の硬い木製椅子に腰を下ろした。

「取り敢えず、一旦森林に戻ってみます。ユイさん達が何か見たかもしれないし」
「あれれ、そーいえばユイさんとセスナさんがいませんですいまー。どうしてですかどうー?」

 面の部分を上げ、キョトンとした顔で問うチトル。
 ユグドは半眼をシャハトの方に向けた。

「木が倒れて来た場所に暫く留まってれば、耳の良いセスナさんが気付いて、足の速いユイさんが駆けつけていたんでしょうけど、リーダーが『早く治療しないと死ぬ』って聞かなくて……」
「だってよぉー! 血がいっぱい出たんだぜぇー!? 死ぬって思うよぉー!」
「頭の怪我は出血が多いのよ。そんな事も知らないの?」

 呆れた口調のノアに対し、シャハトは満更でもなさそうに口元を緩めていた。
 そんな気持ちの悪い一幕の直後――――

「失礼するにゃー」

 救護室に、直ぐ個人の特定ができる声が響く。
 案の定、ユイが中に入ってきた。

「やっぱりここにいたにゃー。森の中でリーダーの泣き声が聞こえてきたから、ここで治療してると思ったにゃん」
「ユイさん、珍しく冴えてますね」
「にゃはは、褒めるよりご褒美にお魚くれにゃー。淡水魚はお断りにゃ」
「いや、そんな拘りはどうでもいいんですけど……それより、あの現場見ましたよね?」

 敢えて説明せずとも、ユイはコクコクと頷く。
 あれだけ派手に木が倒れる音がすれば、護衛をしている彼女がその場へ向かうのも必然だし、何があったかも一目瞭然だ。

「あの現場を作り出せそうな人物に心当たりはないですか? まさか、森のクマさんがオレ達を密猟者と勘違いして突然覚醒した訳でもないでしょうし」
「何そのトラウマ抉る推察! やめてよ!」

 以前、宿屋の主人の突然覚醒で敗北を喫したノアが耳を塞ぎ叫ぶ。
 相当な屈辱だったらしい。

「心当たりはないにゃん。そんな殺伐としたクマさんがいたら、多分ユイが気付くにゃん」
「ですよね」

 謎の猫格闘家ユイの気配察知能力は本当に猫並。
 身体能力も極めて高く、人間の域を遥かに凌駕しており、その点においてユイの護衛能力は高い。
 尤も、判断力や洞察力も猫並だが。

「いや。妾達の視界に入らず周囲の木々を切り倒したとしたら、殺伐という表現では生ぬるいかもしれぬ。猫に気付かせず潜むくらいは出来るやもしれんぞ」
「そこまでの使い手で、かつラシルさんに恨みを持つ人物ですか……」
「恨みとは限らん。妾の持つ貴重品を奪おうとしたかもしれんのじゃ」

 ユグドの視線が、ラシルへと向く。
 正確には、彼女が背負っている槍へと。

「ゲイ・ボルグ……」
「その可能性もあるじゃろ? 猛者ならこの業物に興味もあるじゃろう。事実、一度狙われたばかりじゃからな」

 それは、ユグドとラシルが再会した際の事件。
 ラシルの所持する龍槍ゲイ・ボルグ、正しくはその槍の装飾品である宝石カーバンクルを狙う人物がいた。
 彼女の名は――――

「スィスチさんに確認をとりに行きます」

 ユグドは躊躇せず、そう言い放ち腰を上げた。
 慌ててユイとチトルがそれを制する。

「ユグド、スィスチを疑ってるにゃ!? 人でなしだにゃー!」
「薄情ですはくー! スィスチさんがまたそんなコトするはずないですそんー!」
「いや、ただの確認ですから。断定はしてません」

 食ってかかる二人に対し、ユグドの反応は感情の一切通っていない事務的なものだった。
 それを見たノアは、リュートの背中での会話を思い出し、思わず口を手で覆う。

 それなりに察しのいいノアは、チトルの『また』という言葉から、スィスチという人物が一度過ちを犯した事を理解していた。
 ならば疑われるのは仕方がない。
 だが、それでも仲間を信じるというのも、人間としてあるべき姿。

 ノアの心の中に、そんな二つの正論が浮かぶ。

 或いは、この相反する指針を同時に内包する二重規範こそが人間の証なのかもしれない。
 理論で計れないからこそ、感情なのかもしれない。

『ええ。オレは人でなしですから』

 スィスチを即座に疑ったユグドの判断が迷いのないものだとしたら、この言葉は虚実ではなく真実だったのかもしれない――――ノアはそう心中で呟いた。
 
「待てユグド。リュートでの移動は許可できぬぞ」
「?」

 ユイとチトルのブーイングを無視して部屋を出ようとしたユグドを、ラシルが制止する。

「リュートは相当疲弊しておる。最低一時間の休息が必要じゃ」
「……わかりました」

 それに従い、ユグドは再び椅子に腰を下ろした。
 このゲシュペンスト大聖堂からスィスチのいるレヴォルツィオン城まで、徒歩では丸一日かかる。
 歩いて帰るのは現実的ではない――――そういう諦めの表情ではなく、ごく自然に納得した顔で。

「……」

 ノアはそんな二人のやり取りを黙って眺めていた。

 窓の外にいるリュートの様子から、疲労の度合いを推し測る事はできない。
 しかしユグドはラシルの言葉に全面的に従っている。
 ラシルの制止を無視してでもリュートを酷使するという選択肢はない。

「どっち……なのかな」
「ん?」
「あっ、ううん。何でもない何でもない」

 慌てて首を左右に振ったノアに、ユグドが小首を傾げていると――――

「どうですかな、シャハト殿。お怪我の具合は」

 控えめなノック音の後、ドイス司教が救護室へ入ってくる。
 掌大の大きさの陶器を両手で抱えながら。

「痛み止めの薬です。傷口に擦り込みますので、包帯を外しましょう」
「す、擦り込むんですかぁー? それはちょっと怖いですなぁー」
「単に塗るだけの処置より効果覿面なのですよ。これまで数多くの負傷者をこの処方で治してきましたので、御安心を」

 ドイス司教は軟膏の入った陶器を箪笥の上に置き、右手の五指をワキワキと動かす。

「ふふ……治療……不浄なる血の消毒……くふふ……」

 次第にその手に力が入り、音もビキビキとかギリギリとかいう不穏なものに変わっていく。

「か、確認ですけどぉー、治療ですよねぇー? これからやるのは怪我を治す為の処置ですよねぇー?」
「無論。くふふ……この老体に任せなされ。久々に血湧き肉躍りますな」
「ちっ、治療する人間のセリフじゃねぇですよねぇー!?」

 その後、逃げ出そうとするシャハトをユイが捕まえ、耳を汚染するような悲鳴の中、治療を推し進め――――

「だっ、ダメぇ〜〜〜〜〜! そこダメぇ〜〜〜〜〜〜! 死ぬぅ、シャハト死んじゃうぅ〜〜〜〜〜〜〜!」

 一時間が経過。
 人格が崩壊しほぼ屍と化したシャハトはドイス司教に任せ、ユグド、ラシル、ノアの三人はスィスチに話を聞くべくレヴォルツィオン城へ戻ることにした。

「それじゃ、ひとっ走り行ってきますね。ユイさん、現場に手がかりがないか探しといてくれませんか? あと一応、ムナイさんの警戒をお願いします。何があるかわかりませんからね」
「了解にゃー。任せるにゃん」

 一足早く、ユイが凄まじい速度で森へと向かう。
 それを見送った後、ラシルがリュートへ行けるかどうかの確認を行う。
 一方、ユグドは見送りに来ていたチトルに近付き――――

「チトルさんはドイス司教の警戒をお願いします。リーダーが動けるようになるまで」
「はい、わっかりましたかりー」

 そんなやり取りをし、ラシルの許可が下りたところでリュートの背に乗った。
 

 

 レヴォルツィオン城では既に式典の最終演練が始まっているらしく、周囲の警備兵達は本番と同じように集中した面持ちで配置につき、緊張感漂う会場を作り出している。 
 これもある意味、警備兵の仕事の一つ。
 この式典の格を形成するという演出も込みの警備体制だ。

 そして、この場における演出家はというと――――

「いい? 警備兵がダレてると物々しい雰囲気が消えちゃうの。それだけで式典の格が落ちるの。わかる?」

 新米の警備兵に『警備中の姿勢がなってない』という小姑のような説教をしている最中だった。 

「全く……あら、ユグド。様子見に来たの?」
「それもありますけど、スィスチさんに用事が。なのでお説教はその辺で」
「あら、そう。それじゃ貴方たち、所定の位置に戻ってなさい」

 スィスチに開放された警備兵たちは、安堵の息を吐きながら各々の持ち場へ戻っていく。
 民間護衛組織からの派遣員という本来なら弱い立場でありながら、僅か数日で恐怖の対象となっているあたり、スィスチの能力と性格が垣間見える。

「で、用事って……あら。貴女は……初めましてかな?」
「はい。ノア=アルカディアといいます」

 スィスチは侍女らしく深々と丁寧にお辞儀するノアに対応しつつ、その向こう――――三人から少し離れた場所で待機しているラシルに気づき、控えめに頭を下げた。
 そこに動揺や敵意は全く感じられない。
 
「ね、ねえ。本当に聞くの? 仲間割れとか大丈夫なの……?」
「大丈夫ですよ」
 
 何故か当事者でもないのに一番心配しているノアを手で制し、ユグドはスィスチと向き合う。
 そして問いかけた。

「実は、ラシルさんが何者かに襲われたかもしれないんです。スィスチさんの仕業かもと思って確認をしに来たんですけど」

 この上なく直接的に。
 ノアが青ざめる中、スィスチは――――

「いえ、あたしじゃないわ。ずっと仕事で忙しかったから、彼女を襲える暇なんてなかったし。他の警備兵に聞いて貰えばわかると思う」

 怒りも悲しみもせず、真顔でそう答えた。

 以前。
 スィスチがラシルと敵対した時、ユグドはスィスチとラシルにとある契約を交わすよう提案し、その契約は締結された。
 契約にはいくつかの決まり事があるが、その中の一つにこのような記載がある。

 ――――乙(スィスチ)は甲(ラシル)に対し、甲の望むあらゆる情報を開示する

 よって、ラシルが望めばどんな疑問であってもスィスチは答える義務がある。
 このような契約を交わしている以上、ラシルが何者かに襲われたとなれば、スィスチに事情聴取を行うのは必然であり、感情や温情が入り込む余地はない。
 ユグドがなんの躊躇もなく、また回りくどい表現も使わず問いかけたのは、この為だ。

「……」

 ユグドはスィスチの回答を受け、ラシルへ視線を向ける。
 少し離れているが、会話は聞こえる距離。
 ラシルはそもそもスィスチを疑ってはいなかったらしく、早く次の話題へ移れと目配せでユグドを促した。

「了解です。それじゃ、ここからが本命なんですが……」
「え? この人を疑ってたんじゃないの?」
「さっきのはただの事務的な確認です。現状でラシルさんをまた襲うほど、スィスチさんは愚かじゃないですから」

 そう答えるユグドに対し、ノアは目をパチクリとさせ、何処かホッとしたような表情を覗かせた。
 その表情の意味を理解できる筈もないユグドは一瞬戸惑いつつも、スィスチへの問い掛けを続ける。

「カーバンクルの効力を知っている人物に心当たりはありませんか?」

 それこそが、本命の質問だった。

 もし、カーバンクルに詳しい人物がスィスチ以外にもいれば、22の遺産のような呪いのアイテムの力を増幅させる目的でラシルからゲイ・ボルグを奪おうとする可能性はある。
 ティーア大森林での倒木騒動の際、龍槍ゲイ・ボルグを装飾するカーバンクルに強い反応が見られた。
 強力な呪いのアイテムを所持した人物が犯人であれば、数多の状況が線で繋がる事になる。

「残念だけど、ないわ。あたしがカーバンクルの事を知ったのは文献だから」
「誰かに聞いた訳じゃないんですね」
「ええ。徒党を組んでた訳でもないしね。学者は孤独なのよ」

 肩を竦めるスィスチに、嘘を吐くだけの理由はない。
 仮に理由はあっても、契約上それをすれば彼女は社会的に致命傷を負う。
 結局、手がかりはここで潰えた。

「……カーバンクルが目的かどうかは知らんが、ゲイ・ボルグを欲しておる人物には他にも心当たりがあるのじゃ」

 そんな折、ラシルが背負った愛槍を撫でながらポツリと呟く。
 その心当たりについて、ユグドが問いかけようとした、その時――――

「ねえ。何かおかしくない? お城の方……騒がしい気がするんだけど」

 ノアが指摘するように、城内から不穏なざわめきが聞こえて来た。
 現在、レヴォルツィオン城では二日目の最終演練が行われている。
 なので拍手喝采ならば聞こえて来ても何ら不思議ではないが、今聞こえてくる音は寧ろ真逆――――狼狽や混沌に近い。

「何かがあったようじゃな。中へ行ってみる」

 人一倍、危機管理能力に優れたラシルが瞬時に駆け出した。
 その事からも、ただ事ではない事態だと予見される。

「私も行かないと。一応、警備兵のお仕事やってるんだし」
「なら、オレも行きますよ。スィスチさんは引き続き周辺の警備をお願いします」

 徐々に警備兵達も異変に気づき始め、狼狽したり指示を仰ごうとしたり落ち着かない様子になっている。
 こういった有事に慣れていない新米達をまとめるのは、スィスチの役目だ。

「ええ。何かわかったら教えて」
「了解」

 ユグドはスィスチに背を向け、ノアと共に走り出した。
 
「あ。それと、皇帝には……」

 ――――スィスチのその声を最後まで聞くことなく。










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