この日――――空は目が洗われるような晴天だった。
 世界各国に繋がるこの空の下、マニャンの首都ハオプトシュタットは独特の緊張感と高揚感に包まれている。

 理由は明白。
 明日開催予定のエルフレド会議100周年記念式典だ。

 10年区切りで行われてきた式典は、今回で10回目。
 区切りの区切りともいえる重要な位置づけの式典とあって、規模は過去最大のものとなっており、式典会場となっているレヴォルツィオン城では入念な最終演練が行われている。
 城内、更には城壁の外周に関しても本番さながらの厳重な警備態勢が敷かれており、かなりの数の警備兵が配置されている状態だ。

「怪しい人間がいたら、迷わずに声をかける事。威圧的なくらいで丁度いいわ」

 その一角、東部方向の城壁外周に配置された兵に対し、スィスチは凛とした声で指示を出す。
 城門から遠く、重要性では決して高くない区域の為、警備兵の多くは経験の浅い若者ばかり。
 緊張した面持ちのトゥエンティもその中に含まれており、相棒となった傭兵ギルドの新人傭兵とは目も合わせられずにいる。

 一方、スィスチは多言語話者な点と指示の的確さを買われ、彼らのまとめ役に抜擢されていた。

「持ち場には二人一組で待機。一方が離れる時は、もう一方はそこに留まる事を最優先とする。いいわね?」

 彼女の指示に警備兵達はコクコクと頷き、それぞれ持ち場へと戻っていった。
 そんな初心な反応に心を擽られながらも、スィスチは大げさに溜息を吐く。

「贅沢な配置よねえ。これで万が一不審者の侵入を許したら、あたしどうなるのかしら?」
「無論、孤独死という結末が待っている」
「……仕事失ってお金も稼げず一人でひっそりと死ぬって? クワトロってば、相変わらず先走るわねー」

 肩を竦めるスィスチの隣で、クワトロは腕組みしながら城壁を凝視していた。

「で、殺人事件の護衛班がなんでここにいるの?」
「昨日、ようやく目撃証言が見つかったのでな。それと関係している事は言うまでもない」
「言うまでもないのはアンタの中で、でしょ? あたしにわかるように説明してよ」

 スィスチの流し目に若干眉をしかめつつ、クワトロは注文に応えた。

「……目撃者によると、死亡した冒険者を斬って捨てた人物は金髪の男だったそうだ。夜間故に却って髪の色が目立ったとの事」
「ふーん。でも金髪なんて何処にでもいるでしょ? 式典会場を調べる理由は……」
「目撃者は傭兵ギルド『フライハイト』の隊長であった。その人物をして『剣筋が全く見えなかった』という。酔っていたようなので、その所為もあったのかもしれぬが」

 傭兵ギルドの隊長となれば、その街で一、二を争う使い手の場合が多い。
 まして、フライハイトは大手の傭兵ギルド。
 その隊長クラスが驚愕する腕の持ち主で、なおかつ金髪の戦士――――

「……まさか"彼"を疑ってるの? あり得ないでしょ? 立場上」
「そうだな。しかし、他に有力な容疑者がいないのも純然たる事実。正直、途方に暮れている。こういう時にユグドがいれば助かるのだが」
「そうね……あの子ならそれとなく探り入れられそうだけど。仲が良いみたいだし」

 スィスチも視線を城壁へと向ける。
 しかし意識の目的地は壁ではなく、その更に向こう――――城内だ。

「でも、やっぱり考えられない。新人の冒険者を殺したのが、あの……」
 
 100周年記念の重要な式典とあって、最終演練は本格的に行われており、本来ならそういった場に姿を見せる筈のない各国首脳も足を運んでいる。
 何より、貴賓席で昂然と胸を張り、口を真一文字に結ぶその男が出席している以上、姿を見せない訳にはいかないからだ。

 彼は、ルンメニゲ大陸随一の力を保有する帝国ヴィエルコウッドの――――

「皇帝ノーヴェ=シーザーなんて」

 正午を告げる鐘の音が、ハオプトシュタットに響きわたった。









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