自称"国際護衛協会"『アクシス・ムンディ』が拠点としている国、中立国家マニャンの中立たる所以は、今から100年前に遡る。

 今と違い、各国が血気盛んな時代。
 自国の領土を広げようと他国への侵略を常に画策し、同時に侵略されないよう守衛に苦心していた頃の話だ。

 そんな殺伐とした時代にあって、特に激しい攻防を繰り広げていたのが、侵略国家エッフェンベルグと要塞国家ロクヴェンツ。
 それぞれの冠からもわかるように、侵略と防衛に特化したこの両国は軍事力が拮抗し、『三千年戦争』と呼ばれる不毛な争いを続けていた。

 戦争というのは、単に当事国だけの問題ではない。
 友好条約を結んでいる国は荷担を余儀なくされ、また世界の経済状況も混沌としたものになるため商売にも多大な影響が出る。
 特に食糧、武器や防具の材料となる鉱石の消費量は凄まじく、人材も失われていく。

 このような状況が長らく続くのは好ましくない。
 戦争は経済を活性化させる一面もあるが、長期的な戦いは資源を枯渇させ、人の心を蝕み、世界を疲弊させるからだ。

 そこで立ち上がったのが――――帝国ヴィエルコウッド。
 ルンメニゲ大陸で最も大きな力を持った国が、最悪の事態を回避すべく介入を模索した。
 その目論見の中で彼らが目をつけたのが、大陸の中央にあるマニャンという小国だった。

 マニャンはヴィエルコウッドの要望に応え、隣国であるエッフェンベルグとの交渉を開始。
 同時に、伝説国家ブランや迷宮国家シェスタークなどと連携し、ロクヴェンツとも対話を図った。

 粘り強い交渉の末、三千年戦争当事国、更にはルンメニゲ大陸全ての国の首脳を一所に集わせるという前代未聞の会議を開くに至る。
 マニャンの首都ハオプトシュタットで行われたこの会議は、一年以上の歳月を費やしながらも戦争を終結へと導くことに成功。
 また、ルンメニゲ大陸の各国領土の権利、秩序の整備に取り組むなど、当時としては画期的な話し合いも行われ、現在のルンメニゲ連合のひな形となった。

 会議の議長を務めたのは、マニャンの外相エルフレド=ユニヴァ。
 大陸内の首脳を見事まとめあげた彼の功績を称え、この会議はのちに『エルフレド会議』と呼ばれるようになった。
 そして、世界平和の第一歩となったエルフレド会議が行われたマニャンは、どのような戦争が起こっても常に中立の立場をとる中立国家として、ルンメニゲ大陸の平和大使とも言うべき地位に就いた。

「……と、そんな歴史的背景があるから、この国の軍事力は貧弱なんですよ。大陸の法律で守られているから強い兵隊を持つ必要がないんですね」

 エルフレド会議から100年後――――世界は現在、国家間の戦争が全くない平和な状態が続いている。
 その為、各国の国家予算は産業経済や教育文化により多く注がれ、軍事費は縮小傾向にある。
 マニャン国内に至っては、軍事費が国内総生産の0.5%程度しか割り当てられていない。

「なので、マニャンにおける国防は傭兵ギルドやオレたちみたいな民間の組織に……」

「ふにゃあ〜……」
「ふあ……あふ」
「すーすー」
「ぐぅ……」

 熱心にマニャンの歴史と軍事状況について説明するユグドを余所に、『守人の家』会議室に集まったアクシス・ムンディの面々は約半数が大机に突っ伏して寝息を立てていた。

「……オレ、説明下手なのかな」
「断言してやるゼ。シュッとド下手だ」
「下手ですわね。あたくしの国の大臣も話が長いことで評判がよろしくないのですけれど、それ以上ですわ。若いのにダメですわね」

 落ち込むユグドに追い打ちをかけてきた容赦ない二人は、共に王族。
 鮮やかな金髪を掻き毟るように梳かす帝国ヴィエルコウッドの皇帝ノーヴェ=シーザーと、美術国家ローバの踊る姫君フェム=リンセスだ。
 たかが民間の護衛組織の会議室に、これだけの権力が集中することはまずあり得ないが、これには相応の理由がある。

「とはいえ、コイツ等も問題だな……もっとスタイリッシュにピリッとして欲しいもんだゼ。仮にも皇帝の俺様が直々に依頼しに来たってのによ」
「め、面目ないですぅー。最近仕事が忙しいから、みんな疲れてるみたいなんですぅー」

 呆れ気味に、すやすや眠るユイ、セスナ、チトル、トゥエンティを半眼で睨むノーヴェに、リーダーのシャハトは心中穏やかではないらしく、日頃使わない敬語で弁明に終始していた。
 ちなみに、特に忙しいという事実はない。

「いいじゃない。そこの四人はどうせ起きててもユグドの話なんて一切理解できないでしょ?」
「人にはそれぞれ得手不得手があるというもの。事前の準備は我ら年輩組が万全を期す故、憂慮には及びませぬ。皇帝陛下」

 一方、リーダーとは対照的に落ち着いた様子でノーヴェに言葉を投げかけるのは、つい先日まで離脱していたスィスチ=カミンとクワトロ=パラディーノの二人。
 不義理を働いたスィスチと、まだ万全の体調ではないクワトロが召集されたのは、人手が必要だというユグドの要望だった。

「だといいがな……できれば、そこの四人はシュッと頭数に入れない方向でお願いしたいゼ。何しろ……」

 端正な顔を歪め、大机に肘をついていたノーヴェの目が微かに狭まる。

「エルフレド会議100周年記念式典の護衛だからな」

 ――――それが、ノーヴェの持ってきた依頼だった。

 ユグドが説明したように、エルフレド会議はルンメニゲ大陸の秩序整備、そしてルンメニゲ連合の設立に大きな貢献をした一大イベント。
 その会議の開催からちょうど100年が経過した今年、それを祝う式典がマニャンの首都ハオプトシュタットで大々的に開かれる。

 世界平和の第一歩となったエルフレド会議の記念式典とあって、当時そうであったように、各国の首脳・大臣級が集う予定となっており、警護の重要性は説明不要。
 当然、そんな重大任務をアクシス・ムンディだけに任せる筈もなく、各国が独自に護衛団を結成し遠征に帯同した上で会場の警備も行うが、土地勘のある人間が護衛チームに必要ということで、ノーヴェ直々に依頼しに来たという訳だ。

「人数は二人〜三人。多国籍軍チームに参加するんだから、シュッと語学に長けた人材が一人は欲しいゼ。詳しい事はこの書類を見て確認しろ」

 ノーヴェがパチッと指を鳴らすと、会議室の窓からドサドサドサドサと書類の束が投げ込まれてきた。
 この為だけに待機していたお供がいるらしい。

「……普通に入り口から持ってきて貰えませんかね」
「こういうのはスタイリッシュなテンポが大事なんだよ。それじゃ頼んだゼ、ユグド」

 満足げにニヒルな笑みを残し、ノーヴェは俊敏な動作で椅子から飛び上がり、窓から会議室を後にした。
 とても皇帝とは思えない退場劇だったが、既に何度となく目にした光景なのでユグドも他の面々も気に留めず、投げ込まれた書類を持ち上げ、眠っている四人の頭へ縦に落とす。

「ぎにゃーっ!?」
「おぶっ!?」
「ぴきゃっ!?」
「あだっ!?」

 悲鳴四重奏の後、四人とも頭を抱えながら床に転がっていた。

「という訳で、近年稀に見る大仕事が舞い込んで来ました」

 ゴロゴロと悶え転げる四人を無視し、ユグドは大机に並ぶシャハト、スィスチ、クワトロ、そして加入して間もないフェム姫の四人に向かって真剣な眼差しを向ける。
 以前依頼された武器万国博覧会よりも遥かに大規模なイベントの護衛。
 例えオマケ的な扱いだろうと、護衛チームに名を連ねるだけで今後の営業に影響するほどの重要案件だ。

「で、問題は誰を派遣するか……ですが」
「語学に長けた人材、ってのが条件ならよぉー。ユグドか、あとは……」

 ノーヴェが去り緊張感が解けたのか、シャハトは肘を突きながらグルリと室内を見渡した。
 なお、このポーズは先程ノーヴェがしていたものと同じ。
 年齢的には自分の方が上だというのに、若き皇帝への憧れが溢れ出て抑えきれないらしい。

「あたしね。一応これでも学者だから……でも、信用的に難しいかしら?」
「問題ないですよ。復帰を要請したのは、そういう意味です」

 挙手したスィスチに対し、ユグドは即返答した。

 以前――――スィスチは己の欲望の為、アクシス・ムンディを欺いたことがある。
 本来ならば解雇されて然るべきだが、人事権を持つシャハトは解雇ではなく、休養と一年間の無報酬での活動を言い渡した。
 尤も、その内容の殆どはユグドの報告書をそのまま採用したものだったが。

「……ありがと、ユグ坊」

 スィスチは罪悪感と感謝の間で揺れながら、手を下ろした。

「非戦闘員二人が候補かよぉー。となると、戦えるヤツが一人は欲しいなぁー」
「なら、わたくしが。こう見えて武術の心得もありましてよ」

 腕組みするシャハトの隣で、フェムがたおやかに挙手したが――――

「……お前さん、王族だろーがよぉー。お前さんを護衛に出したら、護衛のための護衛が必要になるんじゃないかぁー?」
「っていうか、普通に考えてここにいる事自体おかしいでしょ……なんであたしがいない間に他国のお姫様が加入してるの……?」

 頭を抱えるスィスチに対し、床をゴロゴロと転がっていたトゥエンティが勢いよく立ち上がり――――

「身分だの立場だの、そんなの関係ねーよ。ここにいる以上は姫様だろーと元海賊だろーと犯罪者だろーと。そうだろ?」

 鼻息荒くそう捲し立てる。

「それが、ここの唯一いいトコじゃねーか」
「……あら、中々良い事言うようになったじゃない。前は何にも喋らない無口な子だったのに」
「トゥエンティ様、ありがとうございますわ」
「べ、別に礼なんか要らねーよ! とにかくそういうコトだ!」

 照れているのか、トゥエンティはプイッとそっぽを向いた。

「確かに、ここに所属してる以上、過去現在問わず立場は関係ありません。そんな訳で、戦闘要員はトゥエンティさんに決定」
「は!? なんでだよ!」
「フェムさんは別件で働いて貰う予定なんで。それに、立場は関係ないけど経験は活かして貰います。貴女は過去に海賊から慕われてたでしょ? 傭兵あがりの警備兵とは相性いいと思いますんで」

 明確な人選理由を提示したユグドに対し、トゥエンティは反論できずガクリと項垂れた。 

「うー……堅苦しい式典の護衛なんて苦手だって……」
「大丈夫よ。あたしだって苦手だから」

 そんなトゥエンティの肩に、スィスチがポンと手を乗せる。
 一方、仕事を奪われた形となったフェムは頬に人差し指を乗せ、首を傾げながらユグドと向き合った。

「別件って、何ですの?」
「ええ。実はもう一件、依頼が届いてるんです。これ」

 ユグドは懐から封蝋の割れた封筒を取り出し、その中の手紙を広げ机に置いた。 
 差出人は――――商人国家シーマンの姫、パール=チャロアイト。
 フェムの友人だ。

「母親と共に今回の式典に出席するんで、観光案内も兼ねた護衛をお願いしたいと。オレとフェムさんはこっちに回ります。トゥエンティさんはシーマンで悪さしてた過去があるんで、こっちはパス」
「そういうことかよ。なら最初に言えよ」

 納得したトゥエンティとは対照的に、フェムは何処か不満げな顔でパールからの手紙を凝視していた。 

「パールったら……それならユグド様お一人の指名でもよかったのに」
「案内はともかく、一人で護衛は無理ですよ」
「そういう意味で言ったのではないのですけれど……まあ、いいですわ。わたくしはこちらの件で役立ってみせます」

 フェムとしては、今回がアクシス・ムンディとしての初仕事。
 燃えているらしく、姫らしからぬギラギラした目で拳を作り、自分の左手をバシバシと叩いていた。

「にしてもよぉー。どっちも縁のある人からの依頼とはいえ、こんな大仕事が二つ同時に舞い込んでくるなんてよぉー、アクシス・ムンディも捨てたモンじゃないよなぁー」
「事業拡大待ったなーし! 待ったなーし! キッキッキ!」

 ようやく痛みが引いたのか、セスナが長すぎる髪を振り回すようにして立ち上がってきた。
 それに続き、謎の猫格闘家ユイと鎧娘のチトルも緩慢な動作で机に向かう。
 ほぼ全員が会議室の席に着いたのは、実に久々のことだった。

「王族の護衛にオレとフェムさんだけだと心許ないんで、クワトロさんとチトルさんにも同行して貰います。ユイさん、セスナさん、あとウンデカさんはここに待機。状況に応じて人員の追加を行う可能性があるんで、リーダーには伝達係をお願いします」
「……オレ様の仕事、ほとんどパシリじゃねーかぁ? リーダーがパシリって、それどうなんだよぉー」
「適材適所ですよ。リーダー、馬の扱い上手いですから。占いも出来るし」
「占いは関係ねーだろーがよぉー! チクショー、どうせ胸ン中では『戦えないし語学も弱い使いどころの難しいクソリーダー』だって思ってるんだろぉー?」

 すっかりふて腐れたシャハトに対し、居残り組のユイとセスナが温かい眼差しを向ける。

「そんな事ないにゃー。リーダーは使いどころが難しい存在では決してないにゃん。寧ろチョー簡単にゃん」
「リーダー的にはユグドが『コイツ使えねーけど一応リーダーだから顔立てないとな……』とか苦労してるみたいに思ってるんだろうけど、そんな訳ないし。きっと最初に決まってるし。リーダー、伝達係が天職だし? キッキッキ!」
「……うがぁー! テメーら、今日という今日は勘弁ならねぇー! 表出やがれぇー!」

 部下のイジりにシャハトは憤怒し、獣のような雄叫びをあげ、入り口のドアを勢いよく開け外へと――――

「お客様よォン」

 飛び出そうとしたところ、ヌオッと廊下から現れたウンデカ(身長2m)の身体に激突。
 凄まじい勢いで部屋へと押し戻され、仰向けのまま床へと倒れ込んだ。

「あらァ、リーダー轢いちゃったわァァン」
「ただの前方不注意だから気にしないで下さい。で、お客様は?」
「こちらよォォン」

 誰も気絶中のリーダーを気にも留めず、ウンデカの通してきた客人に目を向ける。
 その客は――――

「相変わらず騒がしいですね。早く潰れればいいのに。建物ごと」

 入室と同時に悪態を振りまき、そして気絶中のシャハトの顔面をまるで絨毯のようにごく自然に踏み、踏みにじり、踵を捻り入れた。
 小柄で、両サイドの髪を結んでピョコッと尻尾を作った髪型の少女。
 その外見通りまだ12歳と幼いものの、表情はやけに大人びており、セスナやチトル、ユイより落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「げ……リンっしょ。ヤバいっしょ」
「チトル、あの子苦手ですにがー」
「ユイもだにゃー。子供なのに人の古傷抉るような悪態吐いてくるにゃん……」

 その三人が怯える中、足元のシャハトを無表情で踏み続ける少女、リン=アゲントゥールに対し、ユグドはゆっくりと近づいていった。

「リンさん。もしかして依頼があったんですか?」

 そして、身長に合わせしゃがみ込む――――等という行為は一切せず、見下ろしたままそう問いかける。
 リンはユグドを見上げながら、仏頂面でコクリと頷いた。

 アクシス・ムンディはマニャンの中心都市バルネッタを拠点としているが、そこで依頼を待つだけでは効率が悪い。
 そこで利用している機関が代理商会。
 取引の代理を行う『代理商』という仕事を営んでいる商会だ。

 バルネッタの外に店を構える代理商会に仕事の受付を代行して貰う事で、依頼人がわざわざバルネッタの『守人の家』まで足を運ばなくても依頼できる。
 代理商会に届いた依頼内容は依頼書としてまとめられ、本来依頼を請け負う団体なり個人なりへと郵送される。
 とても合理的な商売形態だ。

 リンは、マニャンでも指折りの大手代理商会『アゲントゥール』の代表、バティス=アゲントゥールの一人娘。
 アクシス・ムンディの依頼代行業務は、彼女が担当している。
 まだ若いものの、幼少期から両親の仕事を見てきただけあって、彼女の仕事ぶりはユグドの目から見ても優れていた。

「これ、依頼書。トンチキなアンタ達にもわかるように、とっても簡単な字で書いておいたから」
「助かりますよ。この前の依頼書は誤字が二つほどあったけど、確かに見やすかったですし」
「……」

 リンはバティスが45歳の時に生まれた待望の第一子とあって甘やかされてきた為、とにかく口が悪いし態度も横柄。
 ただし単に生意気なだけでなく、大人顔負けの仕事を平然とこなす有能な子供でもあるので、彼女を苦手とする者は多い。
 しかしユグドはそんなリンをいつも軽くあしらっている。

「にしても、いつもわざわざ持ってきて貰って悪いですね。郵送で構わないんですけど」
「万が一、ちゃんと届かなかったら責任問題だから。中にはいるのよ、クソみたいな配達員が。それに、届いたのに届かなかったって嘘言うヤツもね」

 ケッ、と唾棄しそうな勢いで悪態を吐くリンに微笑みつつ、ユグドは依頼書を受け取った。

「じゃ、確かに届けたから。スィスチ、相変わらず香水キツい。臭いから減らした方がいいよ。加齢臭の方がマシだから」
「……それはそれは。ありがたいお言葉だこと」

 最後にスィスチへの悪態を残し、最後の最後にウンデカの後ろで怯える三人の女たちをゴミでも見るような目で一瞥し、リンは会議室を足早に出ていった。
 台風一過――――そんな空気が室内に充満していく。

「ユグドは大したものだな……我もあの娘には上手に対応できぬ。感情が先走ってしまうのでな」
「クワトロさんは誇り高いですから、ああいう子は苦手なんですよね」
「そんな問題じゃねーだろアレ……つーか、おれ完全に無視されてたぞ」
「わたくしもですわ。まったく何なのかしらあの娘。気に入りませんわ」

 トゥエンティとフェムがイライラを募らせ、スィスチが額に血管を浮かび上がらせる中、ユグドは苦笑混じりに受け取った依頼書を広げてみた。
 だが次の瞬間――――その苦笑が消える。

「……」
「ど、どうしたにゃん? 目がマジっぽいにゃん」

 ユイが怯え気味に尋ねると、ユグドはその依頼書を大机の上に広げ、大きく溜息を吐いた。

「なんで、このタイミングで……」

 そして頭を抱える。
 アクシス・ムンディは知名度を上げる為、基本的にどんな仕事でも請け負う姿勢を貫いている。
 それでも、中々依頼は舞い込んでは来ないものだが――――

「……三つも依頼が来るかな」

 リンが届けた依頼書には、三件の依頼が記されていた。
 しかも、期間は全て同時期。
 その上、その期間はエルフレド会議100周年記念式典と見事に重なっていた。

「リン、仕事し過ぎっしょ……これも一種の嫌がらせっしょ」
「あの子はただ一生懸命仕事をしただけヨォォォ。悪く言っちゃダメェェェ」

 心優しいオカマことウンデカがフォローする通り、リンに一切非はないのだが――――誰もがセスナの言葉に頷かざるを得ない状況になってしまった。

 何しろ、アクシス・ムンディは総勢十名の少数部隊。
 五つもの依頼を同時にこなす余裕などない。
 そもそも、二つの依頼を同時進行する為、クワトロやスィスチを呼び戻したくらいだ。

 この時、ユグドは真摯に願った。
 手助けてくれる人がヒョイッと現れてくれないか、と。
 すると、刹那――――

「お邪魔するぞ」

 窓から一人の女性が土足で上がり込んでくる。
 その瞬間、ユグドの顔がパアッと明るく輝いた。

「ラシルさん! よく来てくれました!」

 要塞国家ロクヴェンツの誇る銀髪の龍騎士、ラシル=リントヴルム。
 ユグドは幼少期の縁もあって、人生をかけ彼女を守ると決めている。

 世界屈指の実力者であるこの龍騎士を、交渉士という武力の欠片もない人物が守るというのは余りに滑稽ではあるが、人を守るという行為は何も武力によってのみ行われる訳ではない。
 この世のあらゆる害悪から、ラシルを守る。
 幼少期の刷り込みによって設定された目標は、今もユグドの行動理念として人生観に根付いている。

 とはいえ、今この状況下においては話は別。
 気心知れた彼女なら、この危機に手を差し伸べてくれるに違いない。
 ユグドはそう確信し、涙すら流して歓迎した。

「妙に鼻が利くではないか。多少大げさではあるが、確かに歓待を受けるに値する土産を持参したのじゃが」
「土産にゃ! 食べられる土産にゃ!?」
「チトルお菓子がいいですおかー!」

 ユイとチトルがバタバタとラシルの元へ駆け寄る途中、シャハトが何度か踏まれた事を気に留める者はいなかったが――――

「食い物ではない。依頼じゃ。仕事が少ないとボヤいておったろう? 引き受けると確信しこっちで話を進めておるから、後は人員派遣のみじゃ。どうじゃユグド、妾は気が利くじゃろう? 遠慮も躊躇も要らぬぞ。こういう時に伝える言葉があるじゃろう。ほれ」

 シャハトと同じように仰向けで床に倒れ込む者が一人いたという。
 そして、言われた通り遠慮なく叫ぶ。
 全身全霊を傾けて。

 


「……人が足りねええええええええええええええええええええええええ!」



 【Looming Requests  ; REQUIEM】

 - アクシス・ムンディの萌芽更新 04 -







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