思えば、不可解な点が幾つかあった。
 まず、海賊の行動。
 武器万博の会場を襲ったにしては、武器の在処を問い質そうともせず、無差別に襲いかかっていた。

 スキーズブラズニルへ飛び移ってきた際の言葉も妙だった。

『どこだ! どこにいるんだ!』

 どこに『ある』ではなく、どこに『いる』。
 探している目標が物ではなく人物であることを意味している。
 つまり、海賊達の目的は、展示品ではなく――――人。

 では、一体彼らは誰を探していたのか。

 その答えは既に出ている。
 答えが出たからこそ、これらの不可解な点を冷静に振り返ることができた、といえるだろう。

 彼らが探していたのは――――

「姉御! なんで俺らに黙って海賊をやめちまったんだ!?」

「ワイら、姉御おらんかったらやる気でねえのによ!」

「姉御! オレらを見捨てないでくれよ! 姉御!」

「姉御! 頼むよ姉御!」

「姉御! なあ姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「姉御!」

「うるっせーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 ――――全力で咆哮した"姉御"ことトゥエンティだった。

「……元海賊? 聞いてないですよ、そんなの」

 旅客船スキーズブラズニル内の広い客室で怪我の手当を受けながら、ユグドは顔色の悪いラシルから数刻前の状況の説明を聞いていた。
 その隣には、ユグドより遥かに傷の深いクワトロ、チトル、ウンデカが悪夢にうなされているかのように歯軋りしながら寝込んでいる。
 
「詳しいことは妾にも知る術はないが……話を聞く限りでは、元々あの海賊連中はシーマンに巣くう山賊……だったらしいのじゃ。トエンテーとかいうあの娘はその若頭だったそうだが……『山賊はダサいし臭い』とのことで海賊に転職したらしいのじゃ」

「海賊と何が違うんですかね」

「知らん。で、海賊になったはよいが……トエンテーという娘は妾同様に船酔い体質だったらしく……耐えられなくなって離脱。その後、過去を捨て貴様らの護衛組織に加入……したそうじゃ」

 時折顔をしかめながらも、ラシルは一通り説明を終えた。
 なお、ラシルはトゥエンティを上手く発音できない世代らしい。

「トゥエンティってのも偽名なんでしょうね。経歴詐称と偽名……重罪ですね、これは」

「そ、そうなのか……? お、おれクビになっちゃうのか?」

 ユグドとラシルの話を聞いていたのか、海賊達とギャーギャー怒鳴り合っていたトゥエンティが不安げな目を向けてきた。

「なあ、クビは勘弁してくれねえか? おれさ、もう山賊にも海賊にも戻りたくねえんだ。だから今回も、船が苦手なの黙って必死で模擬戦にも耐えてたんだぜ?」

「姉御! そんなヒョーロクダマに媚びることありませんぜ! 俺ら『海之藻屑団』が脅しかけりゃ……」

「テメエらは黙ってろっ! 大体なあ、その名前のセンスからして受け付けねえんだよ!」

 半泣きでトゥエンティがそう訴えるのも無理はない。
 名前や服装のセンスに加え、皆一様に顔の大きさと同じくらいの顎髭を蓄えているため、不潔感が尋常ではない。
 ユグドは生意気な口を利く新入りに対し、同情を禁じ得なかった。

「貴女の知り合いのせいで大騒動になった事実は軽視できませんが……幸い、仲間以外に怪我人はいませんし、クビにするほどのことでもないでしょう。ただし、甲板の掃除と修復はやって下さい」

「わ、わかったよ。それくらいやるよ」

 安堵するトゥエンティに対し、海賊たちは不満顔ながらも溜飲を下げていた。
 自分たちが慕う"姉御"が新しい人生を歩もうとしているのだから、祝福しなければ――――そんな複雑な心境が見て取れる。
 ユグドはそんな髭モジャ軍団を少しだけ好意的に捉えていたが――――

「それとは別に、アンタら海賊団には慰謝料、迷惑料、弁償金、見舞金、示談金、和解金をたんまり請求しますんで、海賊船でも売ってお金作っておいて下さい」

「な、なんだそりゃ!? つーかそれ全部一緒だろ!?」

「全て別個で請求します。足りなかったら、その髭全部剃って羊毛と騙してでも金を作って下さいね」

 ニッコリ微笑むユグドに対し、先程まであれほど荒ぶっていた海賊たちは全員小さくなってしまった。 

「ところで、トゥエンティさん。貴女は22の遺産に興味あったんじゃないですか?」

「んあ……? ああ、『守人の家』で聞き返した時のこと言ってんのか」

 突然のユグドの問いに、トゥエンティはピンときたのか数度頷いて理由を口にした。
 それは――――

「もうわかってると思うけどよ、おれは元シーマンの山賊でさ。そこで22の遺産の話は何度か聞いてたから、ちょっと気になったんだよ」

「どんな話を?」

「大した内容じゃねえよ。遺産全部集めたら世界征服できるとか、そんなクダらねえハナシさ。シーマンじゃ割と信じてるヤツもいるみたいだけどな」

 トゥエンティは肩を竦め、苦笑した。
 皮肉げとはいえ、まともに笑う顔を見せたのは初めて。
 どうやら、ようやく打ち解けたようだ。

「さ、大将の気が変わらねえ内に掃除すっか。おいテメエら! 元はと言えばテメエらのせいなんだから、手伝えよな!」

「アイアイサー!」

 既に自分たちの姉御ではないにも拘わらず、海賊たちは嬉しそうにトゥエンティについていった。
 そのことは特に問題ないのだが――――

「……大将って、もしかして俺のこと?」

「そうじゃろう。凄まじく貴様に似合わん言葉じゃが、あの子はそう認識したようじゃ」

「確かに似合わないですけど、それ以前にそもそもウチにはちゃんとリーダーが……そういや、リーダーいませんね」

 ユグドは隣でまだうなされているクワトロ、チトル、ウンデカを一瞥し、やはりいないことを確認したのち――――

「ま、いっか。その辺で野垂れ死んでても明日にはケロッと出て来そうだし」

「……それはどうかと思うのじゃ」

 ラシルのジト目を無視しつつゴロンと横になって、思案に暮れた。 
 考えているのは――――もう一人の不在者について。
 そして、22の遺産について。

 ここに22の遺産はないとラシルは言った。
 だが、彼女は全ての遺産を知っている訳ではない、という旨の発言もしていた。

 実際にはあるのかもしれない。
 けれど、展示されていない可能性の方が高そうだとユグドは察していた。

 不可解な点がある。
 それは、先程トゥエンティについていった海賊たちとも関係あることだ。

 ここ伝説国家ブランは、ルンメニゲ大陸の北西部一帯を占める巨大な面積の国。
 そして、商人国家シーマンは、ルンメニゲ大陸の北西にある島国。
 この両国は、隣接こそしていないが近い位置関係にある。

 実際、両国の間では交易が盛んで、特にこの港町メールは、シーマンへの直行便も出ているくらいに交流が深い。
 ということは――――情報も入って来易い。
 もし、シーマンに22の遺産を狙う海賊がいれば、自ずとその情報は入って来るだろう。

 にも拘らず、シーマンから比較的近い位置にある港町で22の遺産を展示する船を出すなど、海賊に襲ってくれと言っているようなもの。
 普通に考えれば、あり得ない。

 考えられるのは――――囮だ。
 ここに22の遺産があると吹聴し、海賊などの22の遺産を狙う不届き者をおびき寄せておいて、実際には別の場所で展示を行う。
 それなら、稀少武器の護衛にアクシス・ムンディというまだ実績に乏しい組織を抜擢したのも筋が通る。

「……」

 ユグドは自力で仕事を取ったと思っていた過去の自分を恥じ、こっそり嘆いた。
 とはいえ、この仮定にもまだ不可解な点が残る。
 かの帝国帝国ヴィエルコウッドの皇帝、ノーヴェ=シーザーの存在だ。

 彼は囮にするには余りにも豪華すぎる。
 逆効果になりかねないほどに。
 だが、肝心の彼がここにはいない。

「ラシルさん。ノーヴェさんを見かけませんでした?」

「ノーヴェというと、ヴィエルコウッドの皇帝かの? そのような大物が何故ここにいるのじゃ?」

「え、もしかして一度も会ってない?」

 その意外な事実を、ラシルは首肯で認めた。
 ノーヴェはラシルのことを知っていたし、彼女と彼女の得物である龍槍ゲイ・ボルグに強い関心を示していた。
 もし見かければ話しかけただろうし、同じ場所にいながら一度も遭遇していないとなると、寧ろ不自然だ。

「……そうですか。あ、言い忘れてましたけど、リュートにお礼言っておいて下さい。正直、彼がいないと死んでました」

「ほう。あの子が妾以外の人間を助けるなど珍しいこともあるものだ。ああ見えて人見知りでな、この前など――――」

 ユグドは敢えてその不自然さをラシルに語ることなく、話題を変えた。

 


 その後――――
 海賊の襲撃や旅客船の一部破損など、大きなトラブルに見舞われたこともあり、武器万博の稀少武器コーナーは展示を中止。
 三日間を予定していたアクシス・ムンディの大仕事は、たった一日、それも中途半端な形で幕引きとなった。











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