荒野を歩くような感覚で見る映像は、常に凄惨で、何処か空虚だった。


 これは帝国ヴィエルコウッドの一幕。

 
 ルンメニゲ大陸における中心的な国家で、かつては大陸征服を目論み全国家に宣戦布告をしたこのヴィエルコウッドは『奉仕制度』という制度を作っていた。
 身寄りのない子供を集めて、教育する。
 それだけの事。

 ただし彼らは、20年も生きない。
 子供だから出来る事をさせる。
 長生きさせられない事をさせる。

 他国には決して明かしていないこの制度、数少ない知る者はこう呼んでいた。
 使い捨て制度、と。

 倒錯した趣味の大人達の慰み者なら、まだ幸せな方だった。
 殺戮が趣味の王族に、娯楽と称して首を撥ねられるのなら、それでもまだマシだった。
 絶命する瞬間まで、激痛のみを与え続けられる子供も少なくなかった。

 奉仕制度は、帝国の一部の人間が『命は区別するべきだ』と高らかに発言した事から始まった。
 それは、かつて世界中に英雄視されていた帝国の初代国王・ヘレティック=ヴィエルコウッドの言葉だったと言う。


 これは侵略国家エッフェンベルグの一幕。


 ヴィエルコウッドを除けば、最も他国への侵略を積極的に行った国家として、その冠を誇示していた国。
 彼らの侵略は、常に裏切りが同居していた。

 標的となる国家に、自国の貧民街から拾ってきた幼子を向かわせ、殺させた。
 手段は幾つかあったが、最も多く用いられたのは、幼子の身の上話に同情し匿った家族を皆殺しにさせ、悪霊憑きと思わせるパターン。
 当然、幼子には殺人術を仕込んでいた。

 自国の子供を殺害した国に対し、エッフェンベルグは何一つ聞く耳持たず、容赦なく攻め入った。
 勇猛果敢と言われた兵士の殆どは、その事実を知らないまま義憤に駆られ、己の正義を貫いた。
 出した死者の数だけ、当時の国王は笑い転げた。


 これは伝説国家ブランの一幕。


 数多くの伝説の武具が眠るこの国には、その数と同じくらい、詐欺が横行している。
 偽物を掴ませるだけなら、まだ良い。
 中には呪いの武具や邪術と呼ばれる危険な魔術を与え、世界中に災禍をばらまく者もいた。

 ブランの貴族達はこぞって、そういった闇商人を活用していた。
 伝説とは、戦争や大きな抗争があって初めて説得力が生まれる。
 そこがお伽噺との線引きとなる事を、彼らは重々承知していた。

 ルンメニゲ大陸で勃発した戦争の少なくとも一部は、人的な厄災だった。


 これは自然国家ライコフの一幕。


 自然を愛し、極力そのままの形で残す事で共存を図るのを信条としているこの国に、獣害は絶えない。
 何故なら、獣害の一定数以上の発生そのものが、自然国家である事の証明だから。
 弱肉強食、適者生存を謳いつつ、この国は数多の野生動物を研究し、より強靱でより獰猛な生物を生み出し続けた。

 生物兵器の材料に用いられた生物の多くは、このライコフで生産された。
 獣に襲われ死亡した市民の一部は、親の眠る墓には入らなかった。

 
 これは魔術国家デ・ラ・ペーニャの一幕。

 
 数十年に一度、革新的な魔術や魔術の系図を変えるような技術が生まれるこの国では、英雄狩りが秘密裏に公認されていた。
 神と位置付けるアランテス教の創始者アランテスを越える存在は決して許さない。
 故に、英雄視されるほどの実績を残し、『賢聖』の称号を得た魔術士の多くは、非業の最期を遂げていた。

 近年ではこの慣習は形骸化しているが、一部の排外主義的な勢力が英雄狩りを受け継いでいるという。
 オートルーリングという技術を生み出し、最年少で賢聖となったアウロス=エルガーデンも、その犠牲となった。
 既に彼の名を刻んだ墓が、とある地にひっそり建てられているという。


 これは――――エチェベリアの一幕。


 この国の王は、戦勝国という立場を欲していた。
 僅か十日足らずの戦争とはいえ、ガーナッツ戦争での勝利は極めて重要な意味を残した。
 彼の中でだけ。

 これから先、また戦争が起こるのは十分に考えられる。
 だが近い未来ではない。
 世界は平和を良しとする風潮になっており、平和な中でどれだけ消費し、どれだけ経済を回すかに焦点を当てている。

 で、あるならば。
 戦勝国に導いた指導者――――その時代の王は、少なくとも次の戦争が起こり勝者となるまでの間、役割を果たした立派な王と評価される。
 戦争に勝った最後の王として。

 彼は安寧を欲していた。
 保身だけが願いだった。
 無駄に高い評価を得る必要はない、だが低く評価されるのだけは絶対に度し難い、よって確かな実績を早めに作り、その上に胡座を掻いて一生を送りたい。

 評価を固定させたい。
 賢王や善王ではなくとも、良き王と世界中から認識された中で日々を過ごし、心に何の波風も立てないまま人生を全うしたい。
 そう願う王だった。

 そんな彼にとって、勇者という制度は邪魔だった。
 いつ、自分の存在を蹴落とすかわからない存在ほど鬱陶しいものはなかった。

 剣聖も、未来の希望も、排除すべき存在だった。
 自分を越える者は何もかも消しておきたかった。
 心休まる日々を送る為に。

 ――――国王という身分で生涯を終える為には、他にも邪魔な者がいた。


「……どうなってるんだ、この国は」


 本来なら、国ではなく『世界』と言うべきだったかもしれない。
 それでもフェイルは、自分の故郷であるエチェベリアに限定して、そう零した。

 まさにエチェベリアの恥部。
 誰より臆病で、誰より小心者のこの国の王ヴァジーハ8世は、息子さえも自分を脅かす外敵だと認識している、究極の小者だった。

 そしてその精神性、自分の拘るもの以外は肉親さえも関心の外という徹底した理想主義な面は――――ビューグラスとも酷似していた。









 

                         前へ      次へ