攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術、攻撃魔術――――
 
 そんな荒馬のような時代は終わりを告げ、少しずつではあるが別の用途を目的とした魔術の開発が進められるようになった現代において、魔術士の立場も細分化されるようになってきた。
 それに伴い、魔力量絶対主義とさえ言える悪しき慣例も衰退期を迎えつつある。

 魔力量が重要視されるようになったのは、遥か昔、臨戦魔術士の台頭に起因する。

 戦士達の支援をより強力に、より長く行うには魔力の量が肝要。
 無論、威力の大きな魔術を使用するには相応の技術が必要であり、それを身に付けるのも魔術士としての大切なステータスだが――――魔力量が多い魔術士ほど技術を身に付けやすいというデータもある。
 魔力量が多ければより長く訓練を行える……というわかりやすい理由もあるが、それは微々たるもので、単純に魔術士としての素質が数値化できる唯一の指標である事が大きな要因だ。

 魔力量が少なければ、その時点で軽視される。
 軽視だけならまだいいが、最悪切り捨てられる。
 そんな単純明快な構図によって、日の目を見ずに朽ちていった魔術士は枚挙に暇がない。

「私の祖先も、そんな一人だった」

 意外にも、ヴァールは自分のルーツを迷いなく語った。
 ファルシオンに自律魔術について解説する上で必要だと判断したからに他ならない。 
 これまでのヴァールの言動からは考えられない素直さだった。

「魔力が少ないからといって、魔術が使えない訳じゃない。それでも簡単に道を閉ざされる。そんな母国が嫌で、私の祖先は自律魔術の研究を始めた」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 ファルシオンは珍しく狼狽していた。
 ヴァールの素直さだけが理由ではない。
 彼女の述懐は、ファルシオンにとって余りにも想定外だったからだ。

「貴方は確か、アウロス=エルガーデンとオートルーリングを完全否定していた筈です。それどころかオートルーリングを無効化するような力さえ手に入れるほど嫌悪している。でも……」

「当然知っている。アウロス=エルガーデンも祖先同様、魔力量の少なさで一時は研究者の道を閉ざされた人間だ。そしてオートルーリングは、魔力の少なさをカバー出来る技術でもある」

「それがわかってて、なんで全否定なのよ……矛盾っていうか、完全におかしくない?」

 流石にこれは部外者のフランベルジュであっても容易に理解出来る話。
 呆れた――――というより不可解極まりないといった面持ちで、ヴァールの反論を待つ。

 その答えは、実に簡素だった。

「フェイル=ノートから聞いていないのか。奴には話した」

「……」

 何故、魔術士でもないフェイルにそれを話したのか。
 どうしてフェイルは、その事を魔術士のファルシオンに話していなかったのか。

 二つの疑問が同時に浮かび上がり、ファルシオンは露骨に顔を引きつらせる。
 最早そんな彼女の表情の変化に違和感はなくなった。

「知りたければフェイルさんに聞け、と?」

「そうなるな。奴が素直に話せば、だが」

「私がフェイルさんに隠し事をされている事を小馬鹿にしていますか?」

 不穏な空気が一瞬で院内の辛気臭い空間を支配する。
 その場違いな、そして両者には似つかわしくない奇妙な方向での睨み合いに、フランベルジュは珍しく仲介に入った。

「ちょっと! 今はそんな子供みたいな言い合いしてる場合じゃないでしょう! フラン、フェイルを探すんじゃなかったの?」

「気が変わりました。自力で探します」

「待ちなさいってば! こんな広さもよくわからない暗い場所で人を探すのは効率悪過ぎるでしょうが!」

 元々、アウロス=エルガーデン絡みでファルシオンとヴァールの仲は露骨に険悪だったが、今はフェイル絡みでの対立になっている。
 何より、普段は冷静なファルシオンが激昂するのは、彼女が――――

「何故そんなにムキになる?」

 そこをつついたのは、その場から去ろうとするファルシオンを脚で制したヴァールだった。

「私が奴と独自の情報を共有しているのがそんなに気に食わないか、ファルシオン=レブロフ」

「な……」

 その瞬間、ファルシオンの右手が上がる。
 フランベルジュはおろか、挑発したヴァールですら思わず目を見開いた。

 平手打ち――――は、ヴァールの顔の手前で止まった。

 けれど、その動作の時点で既に意味を成していた。

「……これで私も貴女と同じですね」

 その声は冷静ないつものファルシオンだった。

「私も魔術士失格です。魔術ではなく暴力で訴えようなんて」

 魔術も立派な暴力ではあるが、フランベルジュは場の空気を読んで沈黙を守った。
 そして同時に、思わずこみ上げてくる笑みを抑えるのに必死だった。

 あのファルシオンが取り乱している。
 しかも男絡みで。
 そんなあり得ない現実がこの上なくおかしく、そして――――この死者さえ出ている戦場に相応しくないほど微笑ましかった。

「……悪かった」

「え……?」

 そしてまた、空気が一変する。
 今度はヴァールがあり得ない発言をしたからに他ならない。
 彼女の謝罪など、到底想像出来るものではなかった。

「今更貴様と馴れ合うつもりはない。ただ、今のは……良くなかった」

「なんですか……いきなり」

「フェイル=ノートを探すのは私の目的とも合致する。奴が本当に戦闘不能かどうか確かめる必要が私にはある」

 一方的に話を切り上げるヴァールも、余りにらしくなかった。
 不気味な空気を背負う羽目になり、フランベルジュの顔色が次第に悪くなっていく。

「なんかよくわかんない話になったけど……フェイルを探せる魔術、使えるって事でいいの?」

「確実とは言えない。擬似的な自律魔術によって、人間を感知したら特定の反応を示す魔術を出力する。最低限の持続時間なら五つ以上は出せる」

「へえ……結構凄いじゃない、アンタの祖先」

 素直にそんな発言が出る。
 フランベルジュの意識の中に、ヴァールが敵という認識が既になくなってる証だ。
 成長したとはいえ、まだ敵を褒めるような余裕は彼女にはない。

 片や――――

「フェイル=ノートを見付けて、病院を出て、それからどうするつもりだ?」

 ヴァールの方も、以前のような敵意は見せない。
 いつの間にか、三人の間で奇妙な関係性が確立されていた。

「フェイルさんに聞きます。本当に彼の目が見えなくなっているのなら、治療するかどうか。治療しないのなら、どう生活していくか。少なくとも、もう花葬計画には関わらせない方向に進めるつもりでいます」

「当人が納得しなかったら?」

「説得します。その自信もありますし」

「まるで伴侶気取りだな」

 苦笑するでもなく、声を色めかせるでもなく、ヴァールは素直な感想を呟く。
 それが沈黙を生み出す事など、想定もせずに。

 会話が途切れた事で、ヴァールは自律魔術擬きのルーリングを開始した。
 当然オートルーリングではない為、時間は少しかかる。
 最大数を同時に出力させる為、ルーンの数もかなり多くなっていた。 

「そうですね」

 不意に、ファルシオンが口を開く。
 傍にいたフランベルジュが耳を疑うほど――――優しい声で。

「仕方ありません。愛しいですから」

 そう告げた。






 

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