メトロ・ノームにそびえる数多の柱。
 その中にある幾つかの地上へと続く扉は、依然として封鎖されたままの状態が続いている。
「……やはり、ハルさんにいて貰った方がよかったのでは?」
 それを確かめるべく、暗闇の中を移動し諜報ギルド【ウエスト】へと続く柱まで
 やってきたフェイルは、背中にぴったりくっつくようにして付いてきた
 ファルシオンの言葉に軽い頭痛を覚えた。
 ハルの『魔崩剣』であれば、この柱の封術を解除出来る。
 だが――――
「多分、無理だったと思う」
「何故です?」
「この封印は、【ウォレス】の総意なんじゃないかと思うから」
 柱の扉が全く動かない事を確認したのち、フェイルはその柱をコツンと拳で叩く。
 特に意味のある動作ではなかったが、会話の上ではそれなりに意味のある動作だった。
「戻りながら話そう。二人を待たせるのは悪いし」
「そうですね。何にせよ、ウエストとの接触は出来そうにありませんし」
 フェイルとファルシオンがこの柱へ訪れたのは、ウエストから情報を得ようと考えたからだ。
 アルマの居場所がわかるとは到底思えないが、何かしらの手がかりを得られるかもしれない――――
 そんな一縷の望みは、一縷であるかどうかすらわからないまま破綻した。
 一方、フランベルジュとトリシュの二人は、生活の為の水を汲みに水路へ向かっており、
 フェイルとファルシオンとは別行動中。
 距離的には水路の方が近いので、既に戻っている可能性が高い。
 この暗闇の中、フェイル抜きで行動するのは危険なので、当初は全員で
 行動するようにと考えていたが――――
『トリシュ、夜目が利くので大丈夫なのですよ。不意打ち上等なのです。ケケ』
 野生動物のような眼でそう訴えた為、時間短縮の観点からこういった形となった。
 水を運ぶなら腕力のある剣士の方がいい。
「それで、先程の件ですが」
 二十歩ほど歩いたところで、ファルシオンが会話を再開する。
 相変わらず、フェイルの後ろにぴったりくっついたまま。
 そうしておけば、暗闇に酔う心配もない――――とはファルシオンの弁。
 直ぐ目の前に目標物があれば、真っ直ぐに進めるという意味合いらしい。
「うん。ハルが僕達と別れた事でなんとなく察したんだけど、少なくとも勇者計画には
 傭兵ギルドが深く関与していると思うんだ」
「【ウォレス】と【ラファイエット】がですか?」
「そう。両方とも」
「根拠は……エル・バタラですね?」
 ファルシオンも既に察していたらしく、半ば断定的にそう問う。
 フェイルは無言で頷き、その行動が不親切だと気付いて直ぐに声で『うん』と返事をした。
「あの大会は、勇者計画の為のものだった。そんな大会にあれだけ多くのギルド員、
 それも幹部が参加していたんだから、大きく関与してる事は間違いないよね」
 特に――――不戦勝と不戦敗によって大会を操作した人間。
 彼らが勇者計画に協力していたのは間違いない。
 本戦に進出し、戦わずして大会を去った人物はクラウ=ソラス、ケープレル=トゥーレ、
 ハイト=トマーシュ、バルムンク=キュピリエの四人。
 その中のケープレル=トゥーレはヴァールの魔術だと判明し、ハイトはアニスによって
 一時的にではあるが亡骸となっていた。
 離脱には相応の理由がある。
 が、残る二人――――クラウとバルムンクは途中で降りる理由などない。
 そして共に【ウォレス】【ラファイエット】の代表。
 そんな二人が計画に協力している事は明らかであり、それは同時にギルド全体が
 協力しているという事になる。
 特に【ウォレス】は、アロンソという剣士がリオグランテに近づくなど、顕著な動きが見られた。
「彼らがこのメトロ・ノームで行動していたのも、両計画の協力が目的だったんだろう」
「ギルドと国家の癒着、ですか。私が言えた義理ではないですが」
 傭兵ギルドは国営ではない。
 国家が公的に協力を要請する事は、例えば戦争下などの極めて特殊な状況以外は法で認められていない。
 そうでなければ、軍を持つ意義が問われる。
 何より、独裁国家となりかねない。
 傭兵ギルドには、国家の横暴を抑止するという役割もあるからだ。
 だが現実には、自浄作用に健全性を期待するのは難しい。
 国家に協力を依頼されれば、それが法に違反しようと受けざるを得ない。
 恐らくは、金銭的な支援も約束される。
 本意だろうと不本意だろうと、両ギルドが勇者計画に荷担するのは必然だ。
 ただ、ここで一つ問題がある。
【ウォレス】と【ラファイエット】はライバル関係にあり、互いに反目し合っている。
「果たして、両ギルドが大人しく協力し合うは可能なのでしょうか?」
「……多分、それはないかな」
 フェイルは双方のギルドの代表と対峙した事がある。
 表向きは、然程険悪ではなかった。
 だが、その両者が交わる事はないと、そう確信もしていた。
 積極的な関与が認められるウォレスと、一時的とはいえ勇者一行であるファルシオン達と
 行動を共にしていたバルムンク率いるラファイエットとでは、温度差は否めない。
 トリシュやハルは個人的な付き合いだし、現にハルはそれであってもフェイル達と離れた。
 その事実が何より、ウォレスの方針を示している。
「少なくとも、ウォレスの目的は勇者計画の遂行、つまり国家への協力だと思うんだ。
 となると、師匠の目的を害する真似はしない」
 このメトロ・ノームの封鎖を保持して、指定有害人種を閉じ込める。
 柱の封印を行っていたクレウス=ガンソが王宮の魔術士だった事からも、これは間違いない。
 ただ、ここで一つ疑問が生じる。
 クレウスとハルの行動の齟齬だ。
 ハルは当初、柱の封印が自身のギルドであるウェストの方針だと知らなかった。
 彼が演技など出来る性格じゃない事を、フェイルはよく知っている。
 そもそも、演技する意味もない。
 一方のクレウスは、ハルが魔崩剣を使い封印を解きかねないと知っていた。
 この事が指し示すのは――――
「ただ、ウェストは情報をしっかり共有してないみたいだ。ハルも、多分つい最近ようやく
 ギルドの方針を伝えられたんじゃないかな」
「だから、私達と共に行動していて、このタイミングで離れたと?」
「うん。それが何を意味するのか……」

「既に貴公が想像している通り」

 その声は、余りに唐突に割り込んできた。
 驚愕の眼を向ける一方で、反射的にフェイルは背の弓を取る。

「指導者が戻った。それだけの事ですな」

 このメトロ・ノームには亡霊がいる――――

『亡霊か幻なのかもしれないけど』

 微かな予感は心の何処かにあった。
 引っかかっていた。
 それは、フェイルだけが得た心当たりだった。
「そういえば、幽霊じゃなかったんだったね」
 そう返すのが精一杯だったが、それでもフェイルは声のした方を梟の目で睨む。
 視線の先には、涼しい目をした気品漂う男性が髭を携え佇んでいた。
「……クラウ=ソラス」
 手には、死神の鎌にも似た、細身で長い武器。

 あの夜と同じ時間が、風なき世界に朗々と流れていた。
















 death has set up a sickle.
it is a natural, it was selected.
it's not "dead or alive".
because death does not smile.

this underground world is full of contraindication.
but, as shown by a lot of pillars, ground the world is supported by the contraindications.

alternatively……

that's what your ――――

 

"αμαρτια"

#8

the end.












 

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