「……あぁ? 何ワケのわかんねぇ事――――」
「その根拠の前に、さっきの続き。貴方になりきって、僕は
【ラファイエット】の大隊長の立場で、物事を考えてみた」
 顔を歪ませるバルムンクに対し、フェイルは右目を閉じたまま反論を制する。
 まだ先は長い――――そう言わんばかりに。
「すると、さっき貴方自身が言った『人材不足』は確かに深刻だ。
 表立ってトラブルを引き起こす事の多い強硬派のギルド……【ラファイエット】は
 確か、そういう評価を受けてるよね」
「誰が言ったかは知らねぇが、よく言われるのは確かだ」
「惚けても無駄ですよ。貴方がそう仕向けたんでしょう? 【ウォレス】との差別化と、
 ヴァレロンの治安維持の為に」
 その指摘に対し、バルムンクは表情を変えず、しかし反論もしなかった。
「【ラファイエット】の面々を見る限り、貴方の右腕が務まりそうな水準の実力者はいない。
 ソルダード=アロニカ、デアルベルト=マヌエ……この二人が確かエル・バタラで
 勝ち進んでたけど、貴方には遠く及ばない。事実上、【ラファイエット】は
 貴方の強さが拠り所の組織だ。当然、ギルドの方針は貴方の意思が尊重されるし、
 ギルドの評判も貴方の振るまいが色濃く反映される」
「俺がトラブルメーカーって言いたいのか?」
「逆だよ。貴方は自分のギルドがさも問題児ばかりだと街の人達に印象づけた。
 貴方はきっと、自分の右腕になれる人材を欲していたんだろうけど、そうそう貴方に
 近い実力を持つ人間はいない。そうなると【ウォレス】との戦力差は開くばかり。
 両ギルドの均衡が破れれば、ギルドの存続は勿論、街の治安にも影響が出てくる。
 逆に言えば――――」
 一旦言葉を止め、息を吸う。
「戦力差が一定以内であれば、人材を必要以上に増やさなくてもいい。
 新戦力を得ようとするより、相手の戦力を増やさない方に力を注ぐのが建設的。
 何しろ、ヴァレロンはごく普通の街だから。期待の新人なんてそう現れないし、
 現れたとしても、貴族から囲い込まれる可能性が高い」
「……実際、囲い込まれた連中は幾らでもいるな。何人かは抜け出して
 ギルドに戻ってるけどよ」
 例えば【ラファイエット】のアロンソ――――心中でそう呟きつつ、
 フェイルは話を進める方に注力した。
「だから、貴方は【ウォレス】に新しい人材が入らないように
 目を光らせていた。実際、僕を無理に引き入れようとはしなかったし」
「単にそこまでの興味はなかっただけだ。調子に乗んじゃねーよ」
「そうかもね」
 舌打ちするバルムンクに、フェイルは左目を見開いたまま苦笑した。
「本来、大きなギルドの大隊長を勤める貴方は大きな依頼を受けて
 各地を飛び回るか、ギルド内でふんぞり返って部下の稼ぎで豪遊するか、
 そのどちらかの生活を送る筈。でも、実際にはこの地下にまで足を運んでいる。
【ウォレス】の動向を探る為に。違うかな?」
「……それが、テメェの推論の根拠か?」
「もう一つ。貴方が今年のエル・バタラに参加していた事と、準決勝で
 不戦敗になった事が最大の根拠」
 バルムンクの顔が、ピクリと動く。
「あの大会が、国家によって勝敗を作為的に決めていたのは疑いようのない事実だ。
 そんな不正を、貴方が享受するとは考え難い。勿論、正義感じゃなく
 一傭兵としての矜持の問題でね。僕なんかに負けを認めようとしたくらい
 潔い人が、あんな茶番につき合う理由は相当限られてくる」
 エル・バタラの準々決勝――――スティレットの懐刀のヴァールに対し、
 バルムンクはほぼ無抵抗のまま勝者となっていた。
 二人は演者ではない――――スティレットはそう言っていた。
 その言葉を鵜呑みにはできないが、少なくとも示し合わせた勝敗にしては、
 余りにも試合内容が"仕込み"の常道とはかけ離れている。
 そして準決勝、舞台に上がらないまま敗者となった。
 この結果から言えるのは、バルムンクは準決勝で姿を消す事を迫られており、
 しかし本人は不服だったという事。
 何故彼ほどの男が、不服に思う事をそれでも実行したのか。
「一番妥当なのは、街を守る為。【ラファイエット】を守る為。
 そういう前提で貴方の行動を一から洗い出したら、しっくり来る事この上ない。
 貴方は暴力的な人間となり、時に【ウォレス】とのライバル関係を過剰なくらいに
 見せつける事で、この街の均衡を保っていた。僕はそう思ってるよ。真相は知らないけどね」
「……チッ」
 その舌打ちは、果たして何を意味するのか――――フェイルはその答えを
 知りつつ、更に話を進める。
「で、その前提を元に、貴方が以前令嬢失踪事件に首を突っ込んでいた件も考えてみた。
 あの事件は【ウォレス】が一枚噛んでいる。アロンソが関わってる時点で
 容易に想像はつくけど……恐らく、中身はもう一つ捻ったものになってると思う。
 例えば、スコールズ家との繋がりに関する何か。その何かが……
 勇者計画だと僕は思ってる」
 そのフェイルの憶測は、決して安易な想像ではない。
【ウォレス】に所属している元騎士のアロンソがスコールズ家と親しいのだから
 寧ろ極めて妥当な推察だ。
 以上の理由から考えられるのは……アルベロア王子率いる『勇者計画の実行犯』には
【ウォレス】、そしてスコールズ家が含まれている。だから、この面々は
 同じ派閥に属しているものとして、その勢力図に記したんだ」 
「フン……いいぜ。八十点に訂正してやる」
 長い説明を終えたフェイルが口の渇きを自覚する中、バルムンクは
 肩を竦ませて採点を訂正した。
「俺が街の為に道化を演じていた、ってのは気にくわねぇ推察だが、
 それ以外は概ね正解だ。この街の勇者計画の推進派の中心は、テメェが
 挙げたその二つの勢力で間違いねぇ。尤も……それだけじゃねぇがな」
「だろうね。もう一組、勇者一行に強く関わった連中……いや、人がいる
 そしてその人は、貴方とも無関係じゃない」
「スティレット=キュピリエ、ですね」
 不意に聞こえてきた女声に、フェイルとバルムンクが同時に
 同じ方向へ視線を向ける。
 梟の目を持たないバルムンクは、それでも正しく声の主の方に目を向けていた。
「私に黙って答え合わせをするなんて、酷いですね。フェイルさん」
 そう冗談を言いながら、微笑む事は決してないものの、どこか柔らかな表情。
 ファルシオンは、すっかりそれが板についていた。
「ゴメン、寝てたから起こすのもどうかと思って」
「そうですね。女性の寝姿を視界に収める時点で、それなりの覚悟をして
 貰わなければなりませんから、間違った判断ではありませんけど」
「……それなりの覚悟?」
 本気で首を傾げるフェイルを無視し、ファルシオンはランプの傍に
 チョコンと腰かけ、バルムンクを睨むような目で見やった。
「ちっとだけ逞しくなったみてぇじゃねぇか。あの女剣士同様にな」
「まるで保護者のような物言いですね、バルムンク=キュピリエ」
 ファルシオンとバルムンク――――接点の極めて少ない二人が
 ランプの光を媒体にして対峙する。
 その目に映るお互いの姿がどう見えているのか、フェイルにはわからない。
 ただ――――
「とはいえ、わかる気がします。そういう目線になるのが」
「あぁ……?」
「気の所為かもしれませんけど、貴方には私と似た空気を感じます」
 そう告げたファルシオンは、憂いを帯びたその眼を光で揺らした。






 

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