「傭兵ギルドを根絶やしにする……?」
 トリシュの発言は、デュランダルをよく知るフェイルにとっては
 耳を疑わざるを得ない内容だった。
 勿論、今更宮廷弓兵団時代に接していたデュランダルの性格を
 語ることに意味はないのだろう。
 彼は間違いなく、国のため、アルベロア王子のために動いている。
 ならば性格で行動は決まらない。
 寧ろ、アルベロア王子が何らかの目的のために『勇者計画』と『花葬計画』、
 そして指定有害人種の始末を行っており、デュランダルをそれらの
 実行犯に任命している――――そう考えた方が余程建設的だ。
 だが、そう考えた場合においても、傭兵ギルドを潰す理由は見当たらない。
「そうなのです。先日、ウチのギルドに挑戦状がシュビッと届いたのですよ。
 盗み見してやったらですね、潰してやるから覚悟しろウワハハハハ、って
 書いていたのです。アロンソ隊長、きっとキーッてなったことでしょう」
「想像できないんだけど……」
 フェイルはアロンソのことよく知っている訳ではない。
 だがそれでも、フェイルの見て来たアロンソの中に、歯軋りして
 癇癪を起こす姿は見当たらなかった。
「まあ、そんな挑戦状が送られてきた時点で、本気で潰そうと考えてるとは
 とても思えないんだけど。黙って潰しに来ればいいんだし」
「同感です。暗号や合言葉の類ではないでしょうか」
「だとすれば、ギルド宛ってことを考えると……」
「恐らくは代表者に向けてでしょう。ウォレスの代表者は
 クラウ=ソラスですから、彼宛と考えるべきです」
 どんどん勝手に話を進めるフェイルとファルシオンに、トリシュは
 ポカーンとした顔をしつつフランベルジュにそーっと近づいた。
「あの人たち、疑り深いですね。性格が暗くて暗くて友達が少ないタイプだと
 トリシュは推察するのですが、実際の所はどうなんでしょうかね。
 だとしたらお気の毒というしかありませんので、トリシュが友達に
 なってあげてもよろしくてよ、と伝えてあげて下さい」
「……友達が少ないのは否定できそうにないけど」
 コソコソと耳打ちされたフランベルジュは当惑を隠せずにいた。
「で、トリシュさん。脅迫状を受け取ったクラウ=ソラスの反応は?」
「ほえ? あれ、脅迫状なんですか? トリシュが見た限りは
 えいやーこのギルドとったるー的な挑戦状だったのですが」
「どっちでもいいけど、クラウは何か言ったりしてた?」
 中々前に進まない会話に辟易しつつ問うフェイルに、
 トリシュは両手を開き掌をフェイルに見せながらプルプル首を横に振った。
「そもそも、代表取締役は不在なのですよ最近ずっと。ありゃ誰かに
 消されちまったに違いないですね。いつかトリシュが首をかっ切って
 やろうと狙ってたんですが、先を越されて無念なーりーケッケッケ」
「いや……自分のところの代表でしょ? 殺してどうするのさ」
「トリシュが頂点に立つには仕方のない犠牲なのですよ。聖戦に
 犠牲は付きものなのです」
 予想以上に危険人物だったトリシュがケタケタ笑う。

 刹那――――

「!」
 不意に接近してきた風切り音に、フェイルは反射的に背中の弓へ手を伸ばす。
 だが――――
「とおぅりゃーっ!」
 それより先に、トリシュの左手に握られた剣が音の元凶を切り落とした。
 地面に音を立て落下したのは、二つに切り裂かれた矢。
 フェイルですら反応するのがやっとなほどの尋常でない速度だったが、
 トリシュはまるで飛んでくるのを予見していたかのように
 すんなりと切り落としてみせた。
「むむむーっ? どこのどいつがトリシュを狙ったんでしょうかねえ。
 いい度胸してるじゃないですか、八つ裂きにしてやりますよケケケ」
 そして、息つく暇もなく矢の飛んできた方へ全力疾走。
 無数の柱がある為、その何処かに隠れているのは間違いない。
 見つけるのは容易ではなく、その移動中も攻撃に晒されかねないが――――
「さあさあサア! 出てくるのです! そしてトリシュの剣のサビになるのです!」
 雄叫びと共に一心不乱に走るトリシュに現在位置を悟られたくないらしく、
 追撃の様子はない。
 逆に言えば、初撃が防がれたことで二撃目で仕留める自信がなくなった、
 と見ることができる。
 同時に、それを瞬時に判断できるだけの冷静さを備えているとも言えるが。
「今のは……」
「僕が知ってる中で、あれだけ鋭い矢音を鳴らせる弓使いは一人しかいない」
 状況がまだ呑み込み切れていないファルシオンとフランベルジュに対し――――
「ロギ=クーン。そういう名前だったっけ」
 地面に落ちた矢を拾いながら、フェイルはそう断言した。
 何より、このメトロ・ノームで見かけた唯一の弓使いという事実が最大の判断材料。
 となれば、狙いを外した可能性は低く、トリシュを狙った可能性が濃厚となる。
 何故、土賊のアドゥリスやカバジェロの仲間で、スティレットの私兵である
 彼がトリシュを仕留めようとしたのか。
 だが、その疑問よりも先にすべきは最大限の警戒。
 弓使いが単独で行動することはない。
 必ず、近場に仲間がいる。
 フェイルは両断された矢を投げ捨て、弓を取りファルシオンに目で合図を送る。
 いつでも結界を綴れるように――――と。
 ファルシオンは何も言わず、コクリと頷いた。
 それを確認し、フェイルはスッと息を吸う。
「カバジェロ=トマーシュ! 貴方はコソコソ隠れて隙を窺うような
 汚い真似を好む剣士じゃないはずだよね!」
 そして、大声でそう叫んだ。
 カバジェロは誰よりも騎士道を貫く男――――これまでの行動や
 言動から、カバジェロ自身がそういう自分でありたいと思っているのは明白。
 なら、この挑発に乗らないはずがない。
「……やれやれ。まさか、貴殿らがここへ現れるとは」
 案の定――――カバジェロは現れた。
 フェイル達はその出現に驚きを禁じ得ない。
 彼が出て来たのは、先程トリシュが出て来た柱の陰。
 つまり、フェイル達が直ぐ傍にいながら、気配を察知させなかったことになる。
「え……? この人……」
 だが、それとは別にフランベルジュは驚愕を覚えていた。
 フェイルは既にこのメトロ・ノームで彼らと対峙したことがあったが、
 フランベルジュとファルシオンにとってはアルテタで会話して以来の再会。
 エル・バタラの試合を観戦したことはあったが、当然そこに悪い心証はない。
 敵としてのカバジェロは想定外だっただろう。
「前回はこちらの招待だったので歓迎できたのだが……
 今回はそういう訳にはいかぬ」
 しかし、戸惑う暇は与えてくれない。
 カバジェロの顔は、紳士然とした今までの穏やかさが影をひそめ、
 切迫した色彩を滲ませている。
「その柱に隠れていたのなら、僕達はトリシュの味方じゃないって
 わかってるはずだけど……それでも敵意を向けるの?」
「勘違いしているようだ、フェイル=ノート」
 アルテタで闘った時とはまるで別人のような佇まい。
 そんな変容を見せるカバジェロに対し、フェイルは半身になって弓を構えた。
「我々はあの女剣士を敵と見なしてはいない。保護すべき対象として扱っている」
「……何ですって?」
 反応したのはフランベルジュ。
 保護すべき――――その言葉、トリシュを対象とするには不釣り合いなのは確かだ。
「貴殿らがあの女剣士を囲い、我々から遠ざけるのを懸念しているに過ぎぬ。
 矢を放ったのは、あの女剣士の性質を利用し貴殿らから引き離す為」
 カバジェロの回答は、抜剣と同時に行われた。








 

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