美しい金色の鷲が描かれた赤絨毯の終着点。
 そこには、黄金色の玉座が、まるでもう一つの城であるかのように、
 荘厳な空気を纏い、そびえている。
 それを初めて目の当たりにした、リオグランテ・ラ・デル・レイ・フライブール・
 クストディオ・パパドプーロス・ディ・コンスタンティン=レイネルの顔は、
 興奮と昂揚に満ちていた。
 当然、その席に座るのは、【エチェベリア】の国王、ヴァジーハ8世。
 隣の席には、国王位継承順第一位のアルベロアが腰を据えている。
 更に、その左右には、剣聖ガラディーン=ヴォルスと宰相ウェイン=ブリッジも
 配置されていた。
 この王の間にいるのは、【エチェベリア】の権力と頭脳と武力と未来。
 まさに、【エチェベリア】そのものと言っても良い空間だった。
「さて……今日、ここへお前達を招いたのは、他でもない」
『達』と言う言葉の通り、この王の間で現在、膝を折っている人物は
 リオグランテだけではない。
 合計二十二名の若者が、その圧倒的な緊張感に包まれた空間で、息を呑んでいる。
 彼等は皆、同じ立場。
『勇者候補』とその仲間として、その才を認められた者達だ。

 勇者。
 王族貴族、騎士や領主と言った貴き身分ではなく、一般人を対象としたその称号は、
 現国王の七代前の王が生み出した物。
 その制度が今尚続いているのには、訳がある。
 表向きは――――民間人の希望の光。
 だが、光があれば、影もあるのが世の常。
 勇者と言う称号が存在すると言う事が、王族にとって益であるからこそ、
 存続し続けていると言うのが、裏の理由だ。
 それは単に、一般人に希望を与える事で、求心力を高めると言う効果に留まらない。
『勇者』と言う存在そのものが、王族にとって一種の『娯楽』となっている。
 では、娯楽とは何か。
 それを示すには、まず王族特有の問題を掲示しなければならないだろう。
 王と言う立場の人間は、決して忙しくない訳ではない。
 だが、彼等本人が頭や身体を酷使する事はまずない。
 必要なのは、名前と顔だけ。
 首脳会談にしても、遊説を行うにしても、そこにいればそれで良い。
 重要な考案、判断は皆、有能な部下がやってくれる。
 だから、暇ではないものの、王族は基本、退屈している。
 そこで――――娯楽。
 退屈しのぎの為、王は勇者と言う存在を『育てる』。
 戦争が頻発していた昔は、何もせずとも勝手に勇者が誕生していた。
 しかし、そう言った時勢でもなくなった近代において、勇者は『生まれるモノ』から
『育てるモノ』へと変貌した。
 そして、更にそれを娯楽へと導いたのが、ある国の王の一声。

「我等が国の勇者と、貴方がたの国の勇者。果たしてどちらが、優れているのでしょうな」

 これをきっかけに、勇者をより優秀に、より勇ましく成長させると言う
『遊戯』が行われるようになった。
 騎士のような、最初から戦闘に特化している存在ではなく、あくまで一般人の
 中から才能を見出し、そしてどのような方向に伸ばしていくかを王自ら考える
 と言う所に、この娯楽の真髄がある。
 斯くして――――王族による、勇者を使った『暇潰しの娯楽』は、民間人が
 見える筈もない高さで、優雅に熾烈を極めた。
 各国の王は、様々な方法で勇者を育成し、そして多くの手柄や実績を積み上げ、
 世界最高の勇者を作る事に、水面下で夢中になった。
 そして、四年に一度、その裁定が行われる。
 各国の王が鍛えた勇者を、各国の有識者が集った『勇者裁定委員会』が評価し、
 その総合点で競い合う、と言うもの。
 それは謂わば、国家間の戦争だ。
 しかも、この上なく安全な。
 これは、各国の首脳陣しか知り得ない真実。
 当然、候補者にも伝えられる事はない。
 彼等に言い渡されるのは――――

「お前達にはこれから、数多くの試練を乗り越えて貰う。その上で、多くの実績を残した
 者に対し、正式な『勇者』の称号を授けよう。この【エチェベリア】の希望の光と
 なるような、まばゆいばかりの未来を見せてくれ。期待している」

 そんな、抽象的な指示のみ。
 無論、その後は各勇者候補に対し、具体的な今後の活動内容が伝えられるが、
 そこに真意は存在しない。
 この日、リオグランテに命じられた『勇者への試練』は、隣国【デ・ラ・ペーニャ】に
 親書を届けると言うもの。
 他の勇者候補にも、それぞれ別の指示が与えられている。
 いずれも、その勇者候補にとって、最良の『修行』となり得るような試練が。
 そして、最も優れた成果を見せた者が、最終的に勇者となり、裁定の対象とされる。
 作られた勇者――――それは、王達の戯れの為の存在だった。
「……説明は以上だ。詳しい事は、この解説書に記されている。よく読んでおくように」
「はい! わかりました!」
 集団による謁見を終え、個別の説明を受けたリオグランテは、元気よく返事し、
 受け取った書類を大事に抱え、二人の仲間を交互に見る。
 この『勇者レース』とでも言うべき催しに際し、勇者とは別に、その勇者の
 補佐、護衛と言った役割を担う、パーティーメンバーの募集も行われた。
 勇者と言う称号には興味はないが、勇者の仲間となって、ゆくゆくは王宮に
 身を寄せ、騎士や宮廷魔術士となる事を目的としている者、或いは勇者候補となった
 人物を助けたいと願っている者など、様々な猛者がそこには集った。
 ファルシオン=レブロフと、フランベルジュ=ルーメイアの両名もまた、
 自己の明確な目的を胸に、応募した二人。
 見事に合格し、リオグランテの仲間として配属された。
 ただ、その合格判定は、強さや実績、或いは才能と言ったモノを基準としている
 訳ではない。
『誰をどの勇者候補に付ければ、勇者の成長を促せるか』
 と言う点が最重要視された。
 また、ごく一部ではあるが、全く別の理由で採用された者もいる。
 少なくとも、勇者一行と言う肩書きは、『才能溢れる有望な若者』と言う
 世間一般の持つイメージとは大きくかけ離れた所にあるモノ。
 それは当然、この【勇者とゆかいな仲間たち】も例外ではなかった。
「いよいよ、冒険の始まりですね。皆さん、よろしくです!」
 だが、ここに集う三人の中には、そんな上の人間の思惑など入り込む余地はない。
「よろしく。足を引っ張らないでよ?」
「魔術士としても、人間としても若輩者ですが、これからどうぞ宜しくお願いします」
 あるのは、バラバラな目的意識と、妙な連帯感、そして――――期待。
「それじゃ、行きましょう! 僕たちの旅路へ!」
 これから始まる新たな挑戦を前に、純粋な少年の心は、夢と希望で満ちていた。


 ――――彼女と出会うまでは。






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