緊張が重装となり、空気を極限まで重くした頃合い――――
「さて、と。挨拶も済んだこったし、俺は失礼するぜ」
 いち早く、バルムンクが室内に背を向ける。
 その姿に、係員は焦った様子で首を小刻みに動かし始めた。
「え? あ、あの、抽選会、まだなんですが……」
「もう直ぐこの世で一番キラいなヤツが来るんでな。悪ぃがここでお暇するぜ。
 俺の抽選はソルダード、テメーに任せた」
 その名前に、再び控え室内がザワつく。
 ソルダード=アロニカ。
 傭兵ギルド【ラファイエット】中隊長で、ごくごく一部から『トール(雷神)』と
 呼ばれているその人物もまた、国内でも有数の実力者。
 それ以上に特徴的なのが髪型で、癖っ毛を整える事なく伸ばし放題にしており、
 もの凄い事になっている。
 髪の毛の面積が、顔を遥かに凌駕していた。
 一方、その隣にいる筋骨隆々の巨体を誇るデアルベルト=マヌエは、その身体に対し
 顔はかなり小さい。
 二人並ぶと、人間の造型について色々と疑問を持たざるを得ないような、そんな二人だった。
 そして、彼等はいずれも、【ラファイエット】の次世代を担う戦士と言われている。
「御意御意」
 そのソルダードは、二度同じ言葉を繰り返し、恭しく一礼した。
「では、某も。邪魔をしてしまったな」
「い、いえ、とんでもございません!」
 恐縮しまくる係員に笑顔を返し、ガラディーンも踵を返す。
 その一連の動作の中、一瞬だけ停止し、ある一方へ向けて視線を固定し、口元を緩めた。
「……」
 それに対し、同じように破顔を返す者が一人。
 その意味を、隣にいるフランベルジュやリオグランテは、全くわからなかった。
「あー……で、では、そう言う事で。それでは、抽選会を開催致します」
 緊張やら緩和やらですっかり集中力を失った係員の投げやりな宣言と共に、
 第16回【エル・バタラ】の抽選は始まった。
 その方法は至って単純で、中の見えないように布を被せた木箱から、
 その中に腕を入れ、中に入っている『薄く削った木片』を一つ取る、と言うもの。
 木片には1〜102の番号が書かれており、その番号によって予選の組み合わせが決まる。
 フェイルの予想通り、参加人数の多さから『勝ち残り方式』が採用される事になった。
 つまり、一度でも負けたら、そこで終わり。
 2〜3戦、全て勝たなければ、16人で行う本選には残れない。
 そう言う意味では、より組み合わせが重要性を増して来た。
「では、まずはクラウ=ソラスさん、どうぞこちらへ」
 空気が俄に緊迫して行く中、名前を呼ばれたクラウが箱の前へ向かう。
 当然、誰もがこの化物級の引く番号には注目せざるを得ない。
「47番だ」
「はい。では次の方は……」
 控え室の奥の壁にぶら下げた巨大な木板に、クラウの名前が記される。
 そこにも、1〜102の番号が羅列されており――――

 001〜008
 009〜016
 017〜024
 025〜031
 032〜038
 039〜045
 046〜052
 053〜059 
 060〜066
 067〜073
 074〜080
 081〜087
 088〜095
 096〜102

 ――――の14グループに分けられている。
 47番は7番目のグループ。
 ここは当然、死のグループとなる。
 尚、104人の内、ガラディーンとデュランダルは予選免除扱いとなっているらしく、
 この二人を除く14名、つまり各グループを勝ち残った一人が予選を突破する事になる。
「はい。次の方はバルムンク……さんは代理の方が、との事なので」
「はいはい、俺俺」
 奇妙な頭のソルダードが、気怠げに抽選へと向かう。
 再び、室内の注目が一気に集まった。
「ついでについでに、俺の分も俺の分も引いとく引いとく」
「は、はあ……それでは、二回に分けてお願いします」
 その奇妙な言動に引きつつの係員の柔軟な判断により、ソルダードは木片を
 2度に分けてヒョイヒョイと取り出した。
 一つ目の番号は――――90。
 二つ目は29。
 それぞれの番号の隣に、バルムンクとソルダードの名前が記されていく。
 その後も、注目すべき参加者が呼ばれる度に、室内は喧噪に包まれて行った。
「あっ、あの人達って、確か……」
 そんな中、フェイル達の顔見知りが抽選に現れる。
 フライ=エンロール。
【メトロ・ノーム】の酒場で、土賊を相手にした際にいた剣士だ。
「うわ……93番」
 13番目のグループ。
 バルムンクと同じという事で、頭を抱えていた。
 更に――――
「フッフッフ……1番だァ。1番を引いてやるぞゥお!」
「ウフフフフゥ。アタシは101番が良いわァ、なんとなくねェ」
 クラウ=ソラスの身内と言う、衝撃の事実が判明しているバモケノとヨカーイ。
「あ、アロンソさーん。僕今、あの人に剣を教えて貰ってるんですよ」
【ウォレス】のアロンソ隊隊長、アロンソ=カーライル。
 そして、その隣には――――
「うぉっしゃー、トリシュ77番ゲット! これって縁起良い数字じゃないですか?
 やっぱりトリシュ、一味違いますね。くけけけけ」
 テンション極まり人外のような笑い声を放っているトリシュの姿もあった。
 フルネームはトリシュ=ラブラドールと言うらしい。
 更には、彼女同様フランベルジュに圧勝した、あのオスバルド=スレイブも
 淡々とクジを引いて行く。
「……」
 フランベルジュの顔に、好戦的な色が宿り始めた。
 その後も、粛々と抽選は進み――――
「次は、ハイト=トマーシュさん。どうぞ」
「え? あの人って……司祭の方ですよね、確か」
 そんな、リオグランテやフランベルジュにとっては意外な名前も挙がる。
 尤も、その裏の顔を垣間見たフェイルには、然程の驚きはなかった。
 そして――――
「次は……リオグランテ・ラ・デル・レイ・フライブール・クスト……」
「あ、僕だ。はーい!」
 フルネームで呼ばれる前に、勇者は勢い良く係員の方へ向かう。
 その姿に――――数人の猛者達が反応を示した。
「えっと……1番です!」
 引いたのは、そんな数字。
 現時点で、同じグループに属しているのは――――
「あの子、アタシの好みじゃないわァァァァァァ」
 ヨカーイをはじめ、決して強敵とは言えない面々。
 勇者らしく、圧倒的な幸運を見せつけた。
 続いて――――
「フランベルジュ=ルーメイアさん、どうぞ」
 エントリー順なのか、フランベルジュも呼ばれる。
 既に覚悟を決めていたのか、その顔に堅さはない。
 口元を引き締め、視線をフェイルへと向ける。
「……」
 フェイルは何も言わず、小さく一つ頷いて見せた。
 それを確認し、フランベルジュは抽選へと向かう。
 足取りは、重くも軽くもなく。
 歩幅も一定のまま、木箱の前へと辿り着く。
 そして、その箱の中から、一つの木片を――――
「あら、もう始まってたみたいね♪」
 取ろうとした刹那、そんな甘い声が室内に響いた。
 流通の皇女――――スティレット=キュピリエ。
 誰もが知る著名人であり、権力者。
 尤も、彼女に戦闘力はない。
 この場にそぐわない人物である事は、誰の目にも明らかだ。
「こ、今度は流通の皇女様か……まったくもう」
 係員が本音と思しき呟きを漏らす中、スティレットはズカズカと奥へ進み、
 フランベルジュのいる抽選箱の所までやって来た。
 そして、その後を3人の戦士が追う。
「……」
 その一人が、フェイルの方に目を向け、軽く会釈した。
 カバジェロ=トマーシュ。
 ここに来たと言う事は、フェイルのような同伴者でない限りは、
 彼もまた参加者の一人、と言う事になる。
 その他の二人、ヴァール=トイズトイズとアドゥリス=クライドールも同様だ。
「ごめんなさいね。仕事が忙しくて。申し訳ないけど、先に抽選だけ
 やらせてくれないかしらん♪ この子達の分、3回♪」
 どうやら――――抽選と言う行為に興味があったらしい。
 スティレットはコケティッシュな動作で、係員に懇願する。
 無論、彼女のバックボーンがある限り、それは脅迫も当然だが――――
「好きにしたら?」
 それに答えたのは、フランベルジュだった。
「あら、ナマイキ剣士ちゃん。ありがと♪ ナマイキは撤廃しなきゃ……」
「私の後に、幾らでも」 
 瞬間――――空気が凍て付く。
 幾ら猛者揃いとは言え、この中に正面から『流通の皇女』に楯突ける人間は、
 そう多くはない。
 だが、こう言う時に真っ先に動くであろうヴァールの様子に変化はない。
 それは、つまり――――
「……そうね♪ やっぱり順番飛ばしは良くないわねん♪」
 そう言う事だったらしく、スティレットはあっさりと引き下がった。
 係員が魂でも吐き出しそうな勢いで嘆息する中、フランベルジュは木片を取り出す。
 刹那。
 外の雨脚が強さを増し、室内にもその雨音が忙しなく、そして滞りなく鳴り続いた。






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