薬草店【ノート】には、裏庭がある。
 と言っても、僅かな敷地の余地と言うだけで、そこに薬草を植えていたり、
 花壇を並べていると言う事もない。
 ただ、剥き出しになった地面が広がっているだけ。
 そんな荒涼とした空間で、剣士は厳かに剣を構えていた。
 その型はまるで、著名画家の手がけた絵画のように美しく、そして微動だにしない。
 人間は静止すると言う作業をとても苦手としており、それを長時間出来る者は、
 それだけでも相当な均衡感覚と集中力を有している事がわかる。
 陽光が今にも零れそうな早朝の空気が、連動するかのようにピンと張り詰める。
 そして、数拍の後――――剣が撓った。
 狭刃の細剣が描いた一本の線は、一つの揺らぎも淀みもなく、空を鮮やかに切り裂く。
 薄い紙が真っ二つになった錯覚すら見えるような、鮮やかな閃き。
 それを遠巻きに眺めていたフェイルは、思わず拍手を送った。
「?」
 手拍子の乾いた音に、フランベルジュは思わず怪訝な表情でその様子を睨む。
 しかし直ぐに賛辞だとわかると、少し照れたように視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「大した腕前だね」
「あれだけでわかると言うの?」
 薬草店の店主風情が――――とは口に出さなかったものの、そういう意図で聞いたのは間違いない。
 フェイルは治療を施した頬を指でなぞりながら苦笑し、自身の店の壁に寄り掛かった。
 石造の壁とは違い、木造の板張り外壁は温かみがあるのだが、まだ早朝と言う事もあり、
 熱は持っていない。
「剣術の腕まではわからないけど、綺麗だったから」
「綺麗……?」
 フェイルのその感想は、おべっかやお世辞の類ではなかった。
 実際、剣筋と言うのは直線に近ければ近いほど美しい。
 流暢な川の流れに通じる粋美がある。
「そ、そう」
 フランベルジュは多くを語る事はなかったが、夕照のような色の頬を隠すように顔を背けた。
 余り免疫がないらしい。
 その様子に苦笑しつつ、フェイルは腰を下ろす。
 この裏庭は決して広くはないが、一人の剣士が素振りをするには不足のない空間。
 そこに見物人が一人増えても、窮屈になる事はない。
「あ、お構いなく。続けて」
「……」
 人に見られる事に抵抗があったのか、フランベルジュは直ぐには再開しなかった。
 だが、退場を命令する権限はない。
 一応この場所はフェイルの持ち物だ。
「……フゥ」
 呼吸を整え、フランベルジュは暫時の後に再び剣を構えた。
 まだ殆どの民家が活性化しておらず、静まり返っている時間帯。
 女の掛け声と剣の唸り声だけが、静寂を拒んでいた。
「……」
 それを無言で眺めながら、フェイルは過去によく見た風景を思い返していた――――

 

 それは、辺りが暗澹とした闇に包まれた時間。
 規則正しい間隔で幾度となく振られる殺戮の道具は、きらめきを一切残さず、残響のみを
 虚空に響かせていた。
 不思議な事に、禍々しさも凄惨さもない。
 この努力は、輝きの象徴とも言える命を消す為のものだと言うのに。
『剣は確かに、人を殺める道具だ。認めよう。しかし、それが幾多の英雄を生み、国民を
 一つにまとめた歴史もまた真実だ。我々にとって、武器はただの道具ではない。
 歴史の証人と言う事を覚えておけ』
 そんな言葉を背に、毎夜飽きもせず剣を振る。
 既に国内でもトップクラスの地位と技量を有している剣士が。
 人を殺す事が上手くなりたいから?
 英雄になって人々に崇められたいから?
 王家の為に剣を捧げたいから?
 剣士は、首を縦には振らない。
 本来、騎士と言う立場にある人間には許されない返事だったが、闇の中では
 全てが溶けて消える。
『己の閃きの為だ』
 この言葉もまた、そう。
 王はもとより、騎士団の誰もがその事実を知る事はなかった。
 ただ、宮廷弓兵団最年少の少年だけが、それを自身の片隅に何時までも所持する事になった。
 


「……何ボーっとしているの?」
 フェイルの意識を現在に戻したのは、荒い息遣いで見下ろしているフランベルジュの声だった。
 既に太陽の位置は変わっている。
 風の感触はないが、周囲の音は日常を匂わすには十分な量になっている。
「終わったの?」
「ええ」
 既に鞘に納まった剣も、そう物語っていた。
「……少し聞きたい事があるんだけど」
「どうぞ」 
 フランベルジュは首肯したフェイルを一瞥し、まだ少し乱れている息をゆっくりと整えながら
 フェイルの隣に腰掛けた。
 まだ疲労が残っているらしく、胸の律動が激しい。
「貴方、何故薬草店なんか経営しているの?」
「……随分な質問だね」
「この店の商品を見せて貰ったけど、正直私達みたいな旅人や冒険者には余り魅力がないのよね。
 かと言って、常連客が多い訳でもない。理由が見えないのよ」
 少しずつ、息が戻っていく。
 その一方で、汗は滝のように噴出していた。
 随分温かな季節にはなって来ているが、まだ早朝にはそれ程気温は上がらない。
 その修練量の多さを物語る姿だ。
「はっきり言って、向いてるように見えないし」
「悪かったな」
 そんなフランベルジュに対し、手負いの店主はヤブ睨みで威嚇した。
 無論、効果は皆無。
 何事もなく、ただ何処か普段より覇気のない顔で呟く。
「それでも店をやってるんだから、何か強い信念みたいなのがあるのか、と思って」
「信念……ね。ま、やりたい事もなかったし、偶々店を持てる事になったから、その流れで、かな」
 敢えて嘘を吐く。
 フェイルにとって、それは必要事項だった。
「呆れた。貴方、私より年下でしょう? 老け込む年には程遠いのに」
「そっちの年齢知らないから、わからないよ」
「19よ」
 フェイルはその一つ下だった。
 生を受けて18年。
 それなりに沢山の出来事を経て、今がある。
 ただ、それはどんな人間でも同じだ。
 積み重ねた刻の中で、いつまでも堆積している記憶や教訓は、実は驚くほど少ない。
 フェイルにとってもそれは同じだったが、その中で決して量は多くない筈の弓兵時代の
 事だけは、今も全てその手に宿ったままだった。
「けど、僕に言わせれば、そっちの方がよっぽど向いてないよ。とても勇者一行には見えない」
「……ま、ね」
 自覚していたのか――――意外にも、フランベルジュは怒りも反論もなく
 自嘲的な笑みを浮かべた。
 少し雰囲気を明るくしようとしたフェイルのお節介は、不発に終わる。
「勇者には威厳のイの字もないし、魔術士は自分の魔術を向上させるより、お気に入りの魔術士の
 論文を読む事に意欲をみせてるしね。そして、剣士は……」
 自分の事をどう言おうか迷っているのか、或いは余り言いたくないのか。
 フランベルジュは瞑目し、暫し沈黙して――――
「剣士は、弱いから」
 そのまま開口した。
 どうやら後者だったらしい。
 そして、その告白が昨日の事を指していると想起するのは、そう難解ではなかった。
 フェイルが目測するフランベルジュの実力は、決して低くはない。
 寧ろ、優秀な部類の剣士。
 女性でありながら、技術に関しては紛れもなく一流の部類だと踏んでいた。
 自身もそれを自覚している事は間違いない。
 それだけに、昨日のあの出来事――――街でケンカを売った相手に一睨みで
 気圧され、怯え、戦意を失いかけた事は、かつてない屈辱だったのだろう。
「そして、女」
 何処か虚ろな目で、そう呟く。
「女剣士なんて今時珍しくもないよ?」
 フェイルは思わずそう口にしてた。
 女性の社会進出、武人進出は実際のところ、かなりの速度で進んでいる。
 一昔前ならば、女性が剣を持ち闘うと言うのは一種の見世物でしかなかったが、
 現在においては帯刀する女性の姿などどの街でも見かけられるようになった。
 しかし、魔術士のような、男女差が殆どない連中と異なり、武器を扱う武人と言うのは
 嫌でも筋力の差が生まれてくる。
 ただ、フランベルジュが言いたかったのは、そう言う事だけではなかったようだ。
「薬草士は薬草を売っていれば、薬草店を営めるのかもしれないけど、剣士は剣を振っていれば
 剣士と言う訳にはいかないのよ」
 フランベルジュは目を開けて、空を仰いだ。
 そこには、無限の高みがある。
 目を細め、それをずっと眺めていた。
「剣士の持つ剣は、単に武器と言うだけじゃない。国家、社会、文化、或いは時代……そう言う、巨大な
 力に抗って来た勇ましき人々の歴史を象徴する物よ」
 そして、言と同時に一度鞘に収めた剣を再び抜き、天に掲げる。
 そこは、どれほど手を伸ばしても決して届かない、無限の頂。
「けれど、それは同時に男尊女卑の象徴でもあるのよ。どれほど剣術に長けていた女性でも、その名が
 時代の頂点に刻まれた例はない」
「男女平等を謳う現在の風潮においても、その傾向に変化はない……か」
「ええ。名目だけの奇麗事」
 女剣士は静かな怒りを地面へと向けた。
 地面を削る、鈍い音。
 大地に突き刺さった剣には、伝説の聖剣のような神々しさはないが、ある種の強い意思を発している。
「だから、私が変えるの。誰もが認めるような剣士になって……剣の世界に女の道を切り開く。
 今は無理だって自覚しているけど、いずれ必ず実現してみせる。それが、私の夢」
 或いは、その告白はフェイルへの義理だったのかもしれない。
 薬草店【ノート】に対して、少なからず損失を与えた事。
 裏庭を無断で使用していた事。
 そして今、店を持った目的を聞いた事。
 自身の劣等感と道標を晒したのは、それらに対しての義理だ。
 フェイルはそう思うと、内側から込み上げて来る隣の女性への親近感を抑えられなかった。
 不器用なのだ。
 フランベルジュも、そして――――自分も。
「……それが、勇者一行に加わった理由?」
「そうよ」
「随分と途方もない夢だね」
 フェイルは笑みを隠さずにフランベルジュを見やる。
 決して嘲笑のつもりはなかったが、その瞳には少し影が差していた。
「貴方も無理だと思っているのね」
「ああ。きっと無理だよ」
 即答だった。
 流石にそこまで言い切られるとは思っていなかったのか、フランベルジュは喜怒哀楽のいずれも
 欠如したような表情で呆然としている。
「……何故そう言い切れるの?」
「今のアンタにはわからないよ」
 悟り切ったような、或いは諦観したような口調。
 無論、一介の薬草士にそんな事を言われては、フランベルジュの矜持が黙ってはいない。
 しかし、女性剣士が口を開く前に、フェイルは先手を打った。
「けど、今のアンタの立ち位置は間違ってない。おそらくこれまでの道程も。だから、何も間違ってない」
 フランベルジュの語った夢は、これまでの歴史を鑑みればまさに『夢』。
 しかし、騎士や傭兵ではなく『勇者の仲間』と言う位置にいる事は、その夢を叶えようと
 頭を使った証拠でもある。
 勇者のこれからの実績に委ねられる部分が大きいとは言え、騎士や傭兵と比較して、
 成功した際の見返りが圧倒的に大きい。
 しかし、夢は夢。
 実体のないものに手は届かない。
 触れられない。
 そう頭で認識しても、実際に理解するには、それなりの用意と覚悟を要する。
「無理だって断言された後にそんなフォローされても、ね」
「そう言う返しをするって事は、まだ何も知らないって事だよ」
 少し上からの物言いをした後、フェイルは徐に立ち上がり、夢見がちな乙女に背を向けた。
 背後にいるその女性の表情は、何となく想像出来る。
 そして、その心中も。
 フェイルとて、似た夢を抱いた日々はあった。
 弓引く自分は、正しき道を切り開く光の中でだけ。
 放つ矢は、光を濁す闇の朧を切り裂く為。
 そして、その武器でこの国を、自分の周囲を見返そう――――そんな日は、確かに在った。
 しかし、弓は折れ、矢は明後日の方向へ向かって放たれた。
 それでも尚、飛び続けているのは滑稽なのか、或いは今尚軌道を変えようと
 空気を裂き続けているのか――――
「……薬草士の貴方に何がわかるって言うのよ」
 フランベルジュは背後から、吐き棄てるように問うた。
 それは、まさにその通りだった。
 フェイルは同意するしかなかった。
 だから、返事を発しなかった事でその意を示し、店内へ赴く。
 薬草店【ノート】の内部構成は、道路に面している側が店舗となっており、その奥に倉庫と
 応接間、或いは炊事場やフェイルの部屋等がある。
 裏庭には炊事場から出入りできるので、必然的にフランベルジュはそこを通って
 この裏庭を訪れていると言う事になる。
 特に許可した覚えはなかったが、取り立てて問題視する事でもない。
 ただ、自室への侵入だけは許さないよう、鍵をかけて張り紙までしている。
『この扉を開けたら毒で死ぬ』
 薬草店だけに、説得力満点の脅し文句だ。
「お、おはようございます……」
 その張り紙の前に、昨日とは打って変わって顔色の悪いリオグランテがいた。
「こう言う張り紙が張ってると、用もないのに開けたくなります」
「開けないでよ。店の中で死人が出たとなると、体裁が悪いし」
「はう〜」
 身も蓋もないフェイルの言葉に怯えたらしく、勇者は勇者にあるまじき
 情けない悲鳴をあげながら、応接間へと駆けて行った。
 応接間とは言っても、単に客を入れられる部屋がそこしかないと言うだけで、
 実質的には居間であり、現在は会議室も兼ねている。
 フェイルがその応接間に到着すると、既にファルシオンは小奇麗な格好で
 着席していた。
「お早う御座います」
「うん。お早う」
 フェイルへの対応は、変わらず事務的。
 ただ、普段よりやや疲労感が垣間見えるのは、昨日の捜索の所為なのだろう。
 フェイルは確認出来なかったが、フランベルジュ達の近くでバルムンクの
 姿を確認していたのかもしれない。
 ただ――――フェイルはその昨日の出来事に関して、一切何も話さずにいた。
 聞けば、自分がその場を見ていた事も問われる。
 そうなると、色々と都合が悪い。
 フェイルには、弓兵時代の事を他者に話してはならないと言う足枷があった。
 宮廷弓兵団最年少の記録保持者が、薬草士として街中で店を構え、のんびりと
 生活している――――そんな情報の漏洩を、王宮が許す筈もない。
 脱退の際、幾つか提示された条件の一つ。
 それを守る必要がある。
「揃ったみたいですね」
 そんなフェイルの後ろから、フランベルジュが仏頂面で現れる。
 斯くして、『第一回 薬草店【ノート】救済会議』が始まった。
「救済……」
 名称に不満を抱きつつも、フェイルはまずここ10日間の営業利益を読み上げた。
 徐々に声が小さくなっていくのは、そのまま心理状態を示したと言うだけの事だったが、
 結果的に空気を重くしたのは言うまでもない。
「――――以上、総額で−1,348ユローです」
 結果、赤字と言う言葉が結論として放たれた。
 そして、勇者一行が10日前に出した損失額と合わせると、赤字金額は2万ユローを突破した。
 この額は、現在の店の流動資産よりも遥かに大きい。
 そして、この場では話せないものの、フェイルは現在裏の仕事に関しても休業状態。
 つまり、今後経営して行く上で、絶望的な状況と言う事だ。
「状況はわかりました。つまり、私達は借金の返済どころか経営悪化の原因となっている
 と言う訳ですね」
「それを自覚してくれてるだけでも、まだ救いがあるね……」
 半ば諦観気味に、フェイルは掠れた声をあげる。
 その隣でフランベルジュは欠伸などして目を潤ませていた。
「自分達の都合を言える立場ではありませんが、私達も長期間ここに留まる事は出来ません。
 そこで、短期間で大きな利益をあげる方法を考える事が望ましいと判断しました」
 ファルシオンが立ち上がる。
 その様子に、リオグランテが身を乗り出して聞き入っているが、それはつまり
 勇者一行の意思の疎通が出来ていない事を意味しており、フェイルは不安を隠せずに
 白けた目でその様子を眺めていた。
「私なりに、薬草と言うものの商品価値について考えてみました。やはり、
 一番の意義は負傷や病気を癒す、つまり『回復効果』にあると思います。
 これは戦争のない平和な今の時代であっても、とても高需要です。
 やはり、ここに賭けるしかないかと」
「つまり……高い回復効果の薬草を売るって事?」
 余り感心なさげに、と言うか剣の手入れをしながらフランベルジュが口を挟む。
「いえ。このお店にそんな高価な物はありませんし、あっても売れません。
 そこで、提携と言う方法を提唱します」
 提携――――共同して業務を行う事。
 つまり、仕事上のタッグパートナーを探す、と言う事だ。
「それは待って。僕は個人経営でやって行きたいんだ。それに、大手の
 薬草店の傘下になるつもりもないよ」
「はい。それでは事実上のお店の消滅ですから、考慮していません。提携するのは、
 この街で最も大きな病院です」
「……病院?」
 フランベルジュの声に、初めて真剣味が宿る。
 病院とは、簡単に言えば病気や怪我を治療する施設。
 診療所や施療院とは違い、教会の傘下にはない独自の組織を形成した
 医療機関だ。
 通常、治療行為は教会や修道院が主導で行い、平民にも負担なく平等に治癒出来る
 環境があらゆる街において用意されている。
 それには布教と言う大きな目的があったのだが、結果的に一般市民にとっては
 必要な施設だった為、不満の声があがる事はなかった。
 しかし、『平等』と言う言葉を嫌う人間は多い。
 特に、権力を有している者、財を成している者は、自分が平民と同等の
 扱いを受ける事を極端に拒む傾向にある。
 そこで、巨大な治療施設の需要が生まれる。
 より高度な医療を高額の治療費を払って受ける。
 その為の施設が病院だ。
 医師会と呼ばれる医学界の権威によって立ち上げられた組織が運営する
 病院は、世界各国の主要都市に足並みを揃えるように同時期に生まれ、
 そして権威を振りかざすに到った。
 このヴァレロンにも、その病院が存在している。
 ヴァレロン・サントラル医院。
 レカルテ商店街から東へ3km程向かった先にある、巨大な医療施設だ。
 このヴァレロンにおいて、主に貴族の血族や権力者を相手に
 治療を行っている。
 その資本はヴァレロンの数ある施設の中でも最高峰だ。
「そのヴァレロン・サントラル医院と提携し、医師が処方した薬を
 この薬草店で提供する事が出来れば、短期間での増益が可能です」
 努めて冷静な声でファルシオンは淡々と語った。
 無論、それに対してフェイルの目は白いまま。
 確かにこれならば、傘下と言う訳ではなく、あくまでも協力関係の範疇。
 しかし、言うまでもない事だが――――ヴァレロン・サントラル医院と
 薬草店【ノート】では余りに規模が違いすぎる。
 繋がりも一切ない。
 提携はおろか、フェイルが医院の関係者と会う事も困難だろう。
「……苛め?」
 思わずフランベルジュがそう聞くのも、仕方のない事だった。
「まさか。勿論、普通に頼んで実現出来る事ではありません。
 そこで、私達の出番と言う訳です」
「?」
 半ば寝ていたリオグランテが、涎を拭きながら顔を上げる。
「私達が勇者一行である事を、最大限利用します」
「ちょ、ちょっと。一応、余り公にはしない事になってるのよ?」
「って言うか、この商店街のアンタ等への敵意を考えると、僕としても……」
 不安を口にするフランベルジュとフェイルに、ファルシオンは
 無表情で人差し指を立て、宙に何かを描く。
 それは、ルーンを綴る魔術施行の行動だ。
「大丈夫です。任せて下さい」
 そう断言すると同時に、ファルシオンの指の上に白色の光が浮かぶ。
 そして、その光をリオグランテの頭に向けて放った。
 光はゆらゆらと、ゆっくり勇者の頭へと飛ぶ。
「リオがきっと、縁を作ってくれます」
 そして、直ぐ目の前で弾け――――小さな氷の屑を霧散させた。
 特に意味のある行動ではない。
 指を差すのと同じ意味。
 ただ、敢えて説明するならば――――そこには光がある、と言う暗示のつもり
 だったのかもしれない。
「?」
 そんなファルシオンの言葉と魔術に対し、リオグランテは最後まで
 要領を得ないキョトンとした顔をしていた。





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